009-休息
交易都市を蘇生した俺は、部屋で休んでいた。
平静にするのが、魔力を回復させる唯一の手段だからな。
ミカの作った魔法薬に頼るのは、ミカを失った時にまずい。
こうして自然回復力を常に高めておく必要がある。
ただ......
「タマキぃ!!」
「.....ベナ、どうした」
「どーしたもこーしたもないだろ、またアタシを置いて行って!」
「言っておくが、今回は戦闘もなかった。二人で充分だ」
ベナ。
本名をベナトールというこの女は、元は高名な冒険者だったらしい。
三番目の蘇生術式の際に仲間になり、以来こうしてついてきている。
戦闘力は申し分ない、もう二人の前衛と比較してもだ。
「お前が人を殺したら、蘇生するのは俺なんだぞ」
「殺さないって!」
「一回殺っただろ」
とはいえ、死にたてならそこまで苦労もない。
目の前で殺ってくれて非常に助かった。
「あれは.....だって、クズ野郎なら、殺してもいいだろ!」
「情報を吐く前にくびり殺したのは誰だ?」
「あれは......だって....褒めてもらいたくて......」
俺はため息を吐く。
しどろもどろになるとしおらしくなるのが、彼女のチャームポイントだとジルクが言っていたな。
「前にも言ったはずだ、人の死や負の感情、それでなくても大きな感情の発露は地脈の夢に揺らぎを与える。戦いがないなら、お前はむしろ邪魔だ」
今までのらりくらりと甘やかしてきたが、そろそろ限界だ。
俺は寝転がったまま、はっきりと口にした。
彼女がどんな表情をしたか、窺い知れない。
とはいえ、その後の反応から、確実に怒っただろうなと言う事は分かった。
「ば......バカーーーー!!!」
俺の背に、何か重いものが飛んできた。
それは急いで張った結界に阻まれて、床に落ちる。
落ちるのとほぼ同時に、扉が勢いよく閉まった。
何なんだ。
「....ったく、床を治すのは回復術師でもムリだぞ....」
床に傷をつけたものの正体は、彼女の携帯するナイフだった。
鞘に入っているとはいえ、この重量。
当たりどころが悪ければ余裕で人が死ぬぞ。
あの馬鹿、力加減ってものを知らないんだな。
俺はベッドから起き上がり、ナイフを拾った。
「仕方ない」
返しに行くか。
俺は部屋を出る。
現在航行中のドクター・アークだが、空き室二つと物置を除けば後は満員、ミーティングルームや書斎、サンルームを含めて探索する箇所は少なくて済む。
「しかしまあ、酷いものだな」
俺の魔力が回復しないと蘇生術式は行えない。
今は物資を補給するため、二番目の蘇生地域へと向かっているところだ。
眼下には、雲の切れ間に見える灰色の平地が見えていた。
時折クレーターのような地脈接触点が見える。
あれらを蘇生できるのは。
世界に俺一人しかいない。
「アイツも、その価値を分かってくれるといいんだが」
俺は何度目かのため息を吐く。
魔力回復を邪魔するという事は、この刻一刻と風化しようとしつつある世界の滅びを早める事になるのだという事を。
「いないのか」
遠慮なく彼女の私室の扉を開けたが、姿がない。
変だな.....
仕方ない、マリアベルに後で怒られるのは俺だからな。
索敵魔法を使い、彼女の位置を探る。
.....まさにマリアベルの部屋にいるのか。
「まったく......」
俺はマリアベルの部屋へ向かった。
何やら泣き声が漏れている。
扉を開けると、
「うわあああああん!!」
「よしよし.....って、タマキ~」
マリアベルの大きな胸に顔をうずめて泣いているベナトール。
彼女は豊満な肉体をしているが、立派に前衛の一人だ。
聖騎士、剣ではなくハンマーを扱い、防御術に長ける。
おまけに神官の能力もあるから、俺がいなくても簡単な治癒は出来る。
「武器を返しに来た、大事にしろ。......俺が贈ってやったんだからな」
「うええええん」
全く。
14歳でもう成人の儀を済ませてるんだろう。
もう少し大人になってもいいんじゃないのか?
金級冒険者が聞いて呆れる。
....まあ、構わないが。
「......俺の魔力の回復は最優先だった。だから、少し棘のある言い方をした。お前を雑魚狩りで消耗させたくない、本物の強敵が来た時は、頼りにしている」
「それ、ホント!?」
泣いていたのがウソのように、ベナトールが俺の手から武器をひったくった。
そして、腰に吊った。
「アタシ、頑張るからっ」
「ああ」
ドクターアークを「地脈の夢幻」の範囲内に留まらせているのも、仲間をいつでも投入するためだ。
強敵が現れたら、彼女はとても頼りになる。
特に対人はな。
「もうすぐ街に着く、買い物を手伝ってもらおうか?」
「うん!」
俺は適当な言い訳をつけて、マリアベルの部屋を後にする。
マリアベルの無言の圧が、少しだけ怖かったからだ。
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