007-夢の核
数分後。
俺たちは魔力が最も強い場所へ来ていた。
そこは見た目通り、神殿である。
隠蔽の魔法で姿を消した俺たちは、神殿の最奥へ向かう。
「あれは.....」
「成程、コフィンか」
そこは、巨大な宝石が浮かぶ広間だった。
宝石の中には少女が埋め込まれている。
その目は閉じ、眠っているように見えた。
そして。
「.......」
その前に立つ男が一人。
素早く走査を走らせる。
男に病気や怪我はないが、女性の方はかなりまずい状態だな。
〈神聖石棺〉の儀式で、その状態のまま固定されているんだろう。
俺は隠蔽を解く。
「そのままでは苦しめるだけだぞ」
「――――っ、誰だ!」
振り向く男の前で、俺は杖を握り名乗る。
「俺はタマキ、医者だ」
「医者が何の用だ」
「見たところ、消化器系と肺、右腕の障害に足の複雑骨折か?」
「....!」
複雑骨折は、神の治療魔法では治せない。
何故なら、神殿に仕える者は解剖学をやらないからだ。
正しい骨の形を知らないのに、治せるはずもない。
「この際経緯は説明しない。俺はお前の後悔を知りやってきた悪魔とでも言おうか。――――さあ、俺に委ねるか、永遠に治らない少女を見上げ続けるか」
「悪魔....?」
「どちらかを選べ」
「彼女は....」
「選べ」
他の選択肢は与えない。
この記憶の中心を構成するのは、この神官の男であることに間違いない。
正常化には、この男の後悔を取り払う必要がある。
「.........君なら」
「?」
男が、俺の目を真っすぐに見据えてくる。
良い目をしていると、俺が歴戦の戦士なら言ったかもしれない。
「君なら彼女を治せるのか?」
「断言はしない。ただ、今よりマシな状態には出来る。――――コフィンの欠陥を、知らないわけではないだろう?」
「.....ああ」
〈神聖石棺〉の欠陥とは、肉体の時間は止められても、魂の状態はそのままという事だ。
肺が焼けるように痛み、内臓が捩じられるような痛みと砕けた足の鋭い激痛。それらを味わいながら、今も彼女は苦しみ続けている。
「全部治してから石棺に入れた方が、お前のエゴを満たすには丁度いいんじゃないか?」
「..........そうだな」
俺は、浮かんでいた宝石が降りてくるのを見た。
魔法に対して神官が干渉できないように、神官の使う術に魔法で干渉する事は出来ない。
だから俺は、彼の選択に任せる事にした。
直後、宝石にひびが入り、砕け散った。
止まった時間が動き出し、少女の口から数十年分の叫びが流れ出す。
俺は素早く周囲を遮音の結界で包み、言った。
「手術を開始する」
「....頼む」
まずは複雑骨折から治してしまおう。
俺はメチャクチャに接合された骨を、石の魔法で再び砕いた。
少女がびくんと震える。
「――回復」
砕けた骨を、一つも逃さずに捕まえ、肉を動かして一つに集め、そして固める。
肉の形が骨を覆うように動き、足の痛みは既に消えているはずだ。
「酷いな、破裂している」
俺は大腸を見る。
何が起きたかは知らないが、穴が各所に空いている。
これは回復で治す。
ここはいい。
次だ。
肺は......肺も損傷か。
恐らくだが、心臓が完全な状態になっていることから、心臓が損傷したと勘違いしたな。
腹も同様で、恐らく砕けたと思われるあばら骨は治っているが、大腸には全く届いていない。
全体的な知識不足だな。
「終わったぞ」
「ほ、本当に終わったのか.....?」
「ああ」
少し魔力を使い過ぎた節はあるな。
骨を治すのは精密作業だからな。
少女でなければ、足を切断してから生やした方がいいレベルだ。
幼すぎるし、肉も付いていないから、足を生やした瞬間に衰弱死するので使わなかった。
「君は.....神の御使いなのか......?」
崇めるように見上げる神官の前で、俺は言った。
「先ほど言った通り、俺は悪魔だ。」
「悪魔の――――医者だ」
少なくとも、神なんて崇高なものではない。
そして。
魔力が一気に霧散するのを感じる。
地響きが遠くから響いてきた。
俺のローブが、起きない筈の風ではためく。
「また会おう」
「君の....名は....?」
「タマキ」
幻の世界が消滅していく。
夢が終わり、現実が始まる。
濃度を増していく霧の中で、俺は神官にそう名乗る。
返答は聞こえなかった。
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