006-『魔術師として、医者として』
――――救おうと思うな。
医者ならできる事をやれ。
――――自分なら治せると思うな。
医者にも治せないものはある。
俺が勤めていた王都の病院、そこでの思い出が蘇る。
そこでは俺はインターンの分際で、今の様に尊大な振る舞いをしていたわけではなかった。
見て学び、聞いて学んだ。
それを実践し、身につけた。
回復魔法を使わずとも、人を治す術をあの院長は知っていた。
『魔法というものはな、治せんものを治すものだ。治せるなら、出来るだけ自然に任せる』
『そんなに悠長でいいんですか?』
『変われば、治る病もある。正しい知識のもと治療を受け、適切な療法を取る。それだけで、個人では治せない病も治るかもしれん。医者とは、治る術を教える者。回復魔法を使うだけでは、次に備える事は出来んし、使えるものが死ねば終わりだよ』
その言葉を、俺はしっかりと胸に刻んでいる。
だからこそ、医者として俺はやるべきことをする準備をする。
「魔力よ、骨を走り、血を伝え。我に、真なる姿を見せよ。〈医療走査〉」
まずは魔術師として、
オリジナルの魔法でな。
生物の構造体を分かりやすく網膜に投影するものだ。
どこでもX線検査と言えばいいか。
もとはと言えば、回復魔法の応用で生物を爆殺するときに使うものだが。
詠唱をアレンジしてかっこよくしただけだ。
――――見た感じでは、肺が原因のものではないな。
熱病の一種か?
こういう場合、ただ回復魔法をかけても治らない。
体内からウイルスが居なくなっていないからだ。
「(無力だな、全く)」
似非医者を名乗って、世界を蘇生するだの大きなことを言ってもこんなものだ。
情けない。
ただ、治せないわけではない。
ここで大事なことが一つある。
....俺は一人ではない。
「ミカ。医療キットC、エリクシルの7番。濃度は6だ」
「は、はい!」
エリクシルはエリクサーの亜種。
彼女が作る事の出来る回復薬の中でも中位に位置するものだ。
その効果は体力回復、健康増進。
回復魔法やエリクサーで回復できない領域のものを無理やり回復するものだが、回復魔法にある似たような効果のものと違い、栄養を与えてから発動するという点で異なる。
原理は知らん、ミカが知らないのなら俺も分からない。
「出来ました」
「飲めるか? これを飲まないと、治療は出来ん」
「....はい」
少年の母に、俺は小瓶の中身を飲ませた。
ハッカのような味で、喉を通ると発熱するはずだ。
速攻で吸収され、身体全体に暖かさが広がる。
その旨を確認してから、俺は杖をその辺に置く。
「え?」
魔術師のシンボルを置いた俺に、少年が疑問の声を漏らす。
確かに杖は魔術師の効率強化を図る魔力ツールだが....
杖なんて要らない、人間の治療にはな。
「――回復」
回復術師レベルMAXの俺の回復は、欠損まで治す。
失った血を戻せないし、損傷部位の回復にはその人間のカロリーを使う。
衰弱死直前の場合、外付けでカロリーを持ってくる必要があるんだが....
まあ、その辺はおいおい説明すればいいだろう。
魔力が彼女の体を走り抜ける。
俺は血管、内臓、細胞、骨格の知識があるので、魔力は効率的に一か所に集約し、ウイルスを駆逐する力を得た身体を修復して万全な状態へと変えていく。
免疫を獲得しても、栄養不足で攻勢に出られない細胞を支援する形だ。
「よし。これで、二日程度で治るはずだ」
「あの.....すぐ治らないんですか?」
「病が一瞬で治るなら、回復魔法が使える者は神になるだろうな......」
俺に出来るのは肉体を癒す事だけで、中で起きている事に介入は出来ない。
一見万能に見える魔法薬も、瀕死の者に使っても無意味に終わる事も多い。
回復魔法とは、治癒を促進もしくは高速化するもので、対価無くして治癒はない。
薬も同様だ。
「行くぞ」
「はい!」
俺は少年を置いて、民家を出る。
この治療で一時間も使った、あと三時間でケリをつける必要がある。
この治療を幻で終わらせるわけにはいかない。
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