001-『エドラム暦462年、世界は――――』
エドラム歴、462年。
空を突っ切って飛ぶ、船の上で物語は始まった。
その船の名はドクター・アーク(医師の方舟)。
船体を白く塗り、緑の十字をマークのように描いている。
船の動力は魔石同士の共振によるモノで、それが空力をモノともせずに船を飛ばしている。
「ん......」
その時、船全体に響くような警報が鳴る。
警報を聞き、額に皺を寄せて唸る男が一人。
彼こそが、環哉晴。
この『故郷なき医師団』の長を務める人物である。
「どうした、ジルク」
『どうしたもこうしたも無いですよ! 地脈の中心、大きいのを見つけました!』
「.....分かった、すぐ行く」
環は急いで起き上がり、着替えを済ませると甲板へと出る。
結界に守られた甲板に、強風や冷風が侵入して来る事はない。
若干の肌寒さを感じつつ、環は冷え切った手摺を掴む。
「こいつは...大きいな」
眼下に広がる光景。
それは、異様なモノであった。
大地は綺麗に均されたように何もなく、しかし人や獣だけは何事もなかったかのように宙へ浮いたまま硬直している。
これが、五年前に起きた大災害の被害と、後遺症なのだ。
「いつも通り、地脈が死んでるな...まあいい、すぐオペに入るだけだ」
甲板を素早く移動した環は、ブリッジへと降りた。
そこには、三人の男女がいた。
他の仲間は、非番で休んでいるためだ。
「ミカ、C型医療キット準備」
「は、はい!」
環に呼ばれ、嬉しそうに返事をするのは篠原美花であった。
その横で険しい顔をし、操縦桿を握っている女性はベストーナ。
計器類らしきモノを見ている、眼鏡をかけた少年はジルクである。
「地表はずいぶん寒いですよ、お気を付けて」
「王国の8分の1を蘇生させたってのに、相変わらず風がねえな、不気味で仕方ない」
ドクターアークは、徐々に高度を落としていく。
かつてこの船が飛び立って以来、着陸できる地点は見つかっていない。
軟体着陸出来る船ではないため、降下も慎重を期す必要があるのである。
「さみぃ...」
「防寒着を着ればいいだろ」
「分かってるさ」
不気味な事に、地表に近づくほど気温は下がっていく。
結界に守られたドクターアークに問題はないが、結界部分から露出したブリッジはもろに寒さの影響を受ける。
環とミカは防寒着を着込み、地上への降下準備に入る。
船の下部にあるワイヤーの巻き上げ機の側へ寄り、ハーネスでワイヤーに自分を固定。
ワイヤーを掴んで、時を待つ。
伝声管から声が聞こえる。
『準備完了! 地上25シャンターで待機する!』
「了解」
伝声管にそう返事した環は、部屋にあるレバーを倒した。
下部のハッチが開き、灰色に死んだ地面が見える。
二人は地面へとワイヤーを使って降下し、降り立った。
「長くはもたない、分かってるよな」
「うん」
灰色の土地を少し歩き、二人はそれを見つけた。
何かのクレーターのような場所を。
「〈医師の杖〉」
それの中央に立った環は、天に向けて手を掲げて呟く。
すると、光と共にその手に、木の枝に蛇が巻き付いたようなデザインの杖が現れる。
先端は丸みを帯びており、それこそが環の信念そのものであった。
それを勢いよく地面に突き刺し、環は言った。
「――――――世界蘇生術式、開始」
地面に魔法陣が広がっていく。
そして、全てが光に塗りつぶされた。
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