5話 休憩室
あれからどれほどの時間が経っただろう。
お兄様が飲み終えたお酒の瓶は、すでに片手では数えきれないほどになっている。
「お願い! もう止めて」
「いや、まだ大丈夫だ。私はお酒に強いから……」
それは知っているけれど、いくらなんでも飲みぎだ。お兄様が死んでしまう。
――もういい。正体がバレて、家に迷惑をかけてしまうかもしれないけど――お兄様が死んでしまうよりいい!!
そう決意して、バタフィック侯爵を睨みつけた。
侯爵はその私の顔を見て、ニヤリと笑った。
「ふっ。いいだろう、君たちの勝ちだ。小鳥も追い詰めすぎるとなにをしでかすか分からないからな」
その通りだ。例えなにがどうなろうとも、刺し違えてでもお兄様を助ける。
そんな私の覚悟を、まるで読まれたみたいだった。
「休憩室で休んできなさい。君たちみたいなのは、もう二度とこのパーティーにはくるなよ。興ざめだ」
*****
「ごめんなさい……ごめんなさい、おに……あ……名前……」
「……ウィルだ」
「ウィル……」
本来なら別の目的で用意されているだろう『休憩室』で、私たちは本当に休憩していた。
先ほどまでしっかりしているように見えたお兄様は、バタフィック侯爵の使用人がいなくなると同時に、休憩室にあるベッドに倒れこんでしまった。
一刻も早くこんな会場から去りたいけれど、お兄様がこんな状態では難しい。
部屋の鍵は掛けたけれど、主催者のバタフィック侯爵の関係者にはいつでも開けられてしまうだろう。
なんとか一人掛けのソファーを移動してドアの前に置いて、誰かが入ってこないようにする。
だけど私が押して移動できるようなものが、バリケードになるとも思えない。
重厚なベッドを扉の前に置けば大丈夫だろうけれど、私の力では移動できない。
「そんなに慌てるな。……あの侯爵が見逃すと判断したからには見逃してくれるんだろう。そういう見極めで上に昇り詰めた人だ」
「で、でも……」
「だから君は安心して帰れ。……俺は少し休んでいく」
それだけ言うと、お兄様は目をつぶって動かなくなった。
今までかなりの無理をしていたのだろう。
――助けてくれた。私のこと、ヴィヴィアンだって分かってなかったみたいだけど。だけど。
知らない女性を身体を張ってまで助けたのだと思うと複雑な心境だけれど、やっぱり嬉しい。
――お兄様、大好き。
やっぱり優しい。子供の頃から全然変わってない。こんなに優しい人他にいない。
ゲームの悪役の時のお兄様だって、本当はとっても優しかった――。
愛しさが次から次へと溢れ出てしまう。
寝ているお兄様に近づく。
「ん……」
薄く開いた唇から、目が離せない。
――お願い。目が覚めないで――。
ごめんなさい、お兄様。一生に一度の思い出に。
前世から恋焦がれているその唇に、自分の唇をそっと近づけた。




