3話 シークレットパーティー
「こんにちは。お一人ですか」
「……二人に見えるか?」
「あ、そうですよね、すみません。私、初めてこのパーティーに来たので、とても緊張してしまって」
先ほどから寄ってくる女たちに辟易としていたが、冷たく断っているうちにやっと途切れたと思ったら、またこれだ。
今度はずいぶん若そうな女が話しかけてきた。
なんだか先ほどまでの女たちとは雰囲気の違う、純朴そうな女ではあるが。
「今日はどうしてこちらにいらしたんですか?」
「……」
どうしてもこうしても、こんなパーティーに来るような者たちの目的はただ一つ。
一晩の火遊びの相手を見つけに来ているだけだろう。聞いてどうする。
この女は、自分は違うとでも言いたいのだろうか?
確かに場に慣れない様子で、戸惑っているようではあるが――。
いや、純朴なふりをする手管かもしれない。そう考えて警戒心は解かない。
こんなパーティーに参加していると知られたら、これまで以上にヴィヴィアンに嫌われてしまうではないか。
その上知らない女と話し込んでしまったら、誤解が誤解ではなくなってしまう。
しかもパーシバルに誘われているところを聞かれていたのだから、胡麻化すことは難しい。
かくなる上は、少しでも早く帰らなければならない。
パーシバルは先ほど、恋人らしき女性を見つけたらしく、確認してくると行ってしまった。
――俺はもう帰ってもいいだろうか。
「あ、あのっ」
「ああ、すまない。友人に付き添いを頼まれて来ただけだ」
「そうなのですね」
考えに耽っていたら、女性のことを無視してしまっていたようだ。
それなのに女性は気分を害した様子もなく、ニコニコと笑いかけてくる。
いつもだったら話しかけられても無視するだけなのに、なんだかこの女――女性に対しては調子が狂ってしまう。
年恰好がヴィヴィアンと一緒くらいだからだろうか。
――まあ髪の色も違うし、声色も全然違う。なによりあの世界一可愛らしく清廉なヴィーが、こんないかがわしいパーティーに来ているわけがないのだが。
「君はなぜここに?」
話を膨らませる気などなかったけれど、単純にその点が気になったので、ついつい質問をしてしまった。
「……好きな人が、このパーティーへ行くと聞いたので」
「そんな男、止めておけ」
「そんなに簡単に止められたら、苦労はしません。嫌われているって分かっていても、ずーーーーーっと好きなんです」
--なんということだろう。この純朴そうな女性は、こんないかがわしいパーティーに参加するような男を慕って、決死の覚悟で潜入してきたという。
ヴィヴィアンとそれほど変わらない年齢のようだというのに!!
どんな男なんだ、その男。
二、三発殴って、目を覚まさせてやりたい。
「悪いことは言わない。その男を諦めろとまでは言わないが……こんなパーティーは一刻も早く抜け出したほうがいいぞ」
「えーっと、その人が帰ったら、私も帰ることにします」
「……はあ。悪いが俺は、面倒を見れないぞ」
「はい!」
仮面に覆われていない口元から、その女性がニコニコと笑っているのが伝わってくる。
子供の頃、まだ俺に笑いかけてくれていた頃のヴィーの笑顔に似ている気がした。
こんな女性をパーティー会場に一人で置いていったら、悪い男に騙されてしまうだろう。
罪悪感がないわけではないが、俺が大事にしたいのは世界でただ一人、愛しいヴィヴィアンだけだ。
今頃心配を掛けているかも……いや、それはないか。俺は彼女に嫌われているから。
しかし帰りが遅くなれば、どこかの令嬢と遊んできたと誤解される。
それだけは避けるために、一刻も早く帰らなければならない。
どこの誰とも知らない令嬢のために、こんなパーティーに居続けるわけにはいかないのだ。
「それじゃあ、俺は帰らせてもらう。身分の高い者もお忍びでくるから、怪しい薬なんかは無効化する結界は張られているが……人から勧められた食事や飲み物には口を付けるなよ。強い酒で女性の判断力を鈍らそうとする奴もいる。気を付けろ」
「は、はい! ありがとうございます。私ももう、すぐに帰りますから」
その女性はとても嬉しそうに、また笑った。
こんな子に好いてもらっているどこの誰かも分からない男を、心から羨ましいと思った。




