7話 意外な才能
「お兄様、それでは失礼いたします」
「ああ、いくらでもやってくれ」
そんな訳で、カレン先生と更に練習を重ねた後、ついにお兄様と練習する日がきてしまった。
なんとか手をかざすだけでできるようにならないかと頑張ってはみたものの、今日までには無理だった。
私にはまだ、手をかざすだけだとほんの少しずつしか魔力を送り込めないのだ。
送り込める魔力の量を無理に増やそうとしたら、逆に魔力溜まりが破裂しそうで怖い。
結局両手を握って練習することになってしまう。
もちろん、お兄様と手を握るのが嫌な訳じゃない。
ものすごくドキドキして、緊張してしまうのが困ってしまうのだ。
そしてそれ以上にお兄様が、私なんかと手をつなぐのがお嫌でないか心配だ。
「ヴィー。ほら、手」
――ッキャー!!
誰ですかこれ!?
優しく微笑みながら両手を差し出すこの人誰!?
お兄様のこんな笑顔、子供の時以来だ。
てっきり嫌がられるかと思っていたので、心の準備ができていない。
離れていた5年間で、一体お兄様になにがあったんだろう。
ギュッ
そーっとお兄様の手に触れると、逆にしっかりと握りこまれてしまう。
しかも両手を握るというとは、必然的に顔も体も近くなるということ。
ドキドキして、顔が赤くなっているのに気が付かれないように、集中するフリをして少し俯く。
たまにチラリと見上げると、子供の時にすら見られなかったような、とびっきり甘い表情で見つめられて直視できない。
――いけない、集中しないと。
緊張しながらもなんとかお兄様の身体へと私の魔力を流し込んでいくと、やがてお兄様の魔力溜まりへと到達する。
――形が分からないくらい大きい!
今まで自分の魔力を誰かに流したのは、カレン先生だけだったけれど、流した途端に魔力溜まりの形が分かるほどの大きさだった。
でもお兄様の場合は、魔力を注いでもまだほんの一部分しか埋まっていないから、どれだけ大きいのか見当もつかない。
お兄様自身の魔力もないことはないけれど、それほど多くはない。
だけど受け入れる器がとっても大きいのだ。
繋いだ手から、どんどん私の魔力がお兄様に吸い込まれていく。
魔力が広がっていって、お兄様の周りを取り囲む。
何者であっても、この人を傷つけられないように。
お兄様を傷つける全ての物が、避けて通りますように。
「はい! いいわね~。すごいわヴィヴィアン。これほど強力な結界は見たことないくらい。事務官長はすごい器をお持ちだわ」
「そっ、そうですね。カレンさん」
カレンさんの声に、ハッとする。
先生がいて、魔法の練習中だということを完全に忘れていた。
まだお兄様と両手を握り合ったままなことに気が付いて、慌てて離そうとする。
お兄様の手は、最後に私の手をギュッと一瞬だけ強く握ってから、名残惜しそうに離れていった。
「しかもこれ、ただの結界じゃなくて、色んな効果が付与されているみたい。身体も強化されたり、悪いものを寄せ付けないような効果もあるわね。今はまだ効果は薄いけれど、練習して意識的に付与したらすごいことになりそうだわ」
「そうなんですか」
「ええ。まだ身体強化の魔法なんて、教えていないもの。それをしっかり習って練習してから、また器の大きい事務官長に改めてやってみたら、常人では倒せないような魔獣も倒せるかもしれない。あらやだ、これって大変なことかもしれないわ。どうしましょ。誰か偉い人に相談しておかないといけないんじゃないかしら……ってそうか。その偉い人って事務官長だわ」
「その通りだな」
ええ!? お兄様が、魔獣を倒せるようになる?
確かに乙女ゲームでは攻略者の覚醒イベントがあったけど、考えてみればお兄様はバッドエンド一直線のキャラクターだったから、そんなものはなかった。
それが実は、こんな意外な才能があっただなんて。
運命は、変わっている。確実に。
だけどお兄様に魔獣と戦ってほしくないだなんて、心のどこかで思ってしまう。
「カレン。このことはしばらく、誰にも話さないように」
「かしこまりました事務官長様! あ、でも魔術師長様やセレファス様にはご相談されたほうが……」
「分かっている」
ただの練習が、なんだか大変なことになりそうだ。
バチバチバチバリィ!!!! ズガーーーーーッン!!!!!
「きゃあっ」
突然の轟音に、私たちは全員驚いてその音がした方向を見る。
お兄様がさり気なく私の前に出て、守ってくれるように動いてくれている……気がするのは思い上がりだろうか。
「ナッシュ!? どうしたの、エヴァは大丈夫なのー?」
「すみませーん、カレン先輩。気を付けていたんですけど」
カレンさんが、その音がした方向へと声を掛ける。
大きい音に驚いたものの、それほど焦ったりはしていない。ここ数日、こんな音がするのはよくあるからだ。
「ごめんなさい、おかあさま。またやりすぎてしまったわ」
「いいのよ。まだエヴァには難しいものね」
「いやあ、申し訳ございません。少しずつコントロールを教えているんですが」
「いつもありがとうございます、ナッシュさん」
そう。雷の魔力が高いと判明したエヴァは、雷魔法が得意なナッシュという若い男性の魔術師にコントロールを教わっているのだ。
魔術師学校に入学できる年齢はまだまだ先だし、これほどの魔力を放っておくわけにもいかなかったので、本当に助かっている。
力加減を間違って、轟音を響かせるのにも、ここ数日ですっかり慣れてしまった。
「エヴァの今後のことも、セレファス様にご相談しないとねぇ」




