6話 練習相手
魔力を自分の体の一部だと思う。その魔力の領域を、徐々に広げていく。自分身体の周囲、50センチくらいまで。
魔力の膜の中には悪意のない人や動物、物は自由に入ってこられるけれど、悪意のある人や、危険なものは入ってこれないとイメージする。
膜は誰にも見えないけれど、確かにそこに存在している。
「はーい、オッケー。もう移動式の結界は問題ないわね。魔力量が多いから、随分頑丈な結界になったわ。竜でも連れてこない限り破られない!」
「ありがとうございます、カレンさん」
カレンさんと魔法を練習し始めて1週間で、移動式結界のお墨付きをいただけた。
もともと結界石を作っていたものの応用だったので、思ったより簡単にできた。
これで大分心強くなった。
でも一つのことができるようになると、またもう一つやってみたいことができてしまう。
「あのぅ、まだもう少し教わってもいいでしょうか。今度はエヴァに結界を張ってあげたくて」
そう。自分に結界が張れるようになったら、もう安心――とはならなくて、今度はエヴァに張ってあげたくなってしまった。
いくら一緒に行動しているといっても、私だけに結界を張っていても、安心はできない。
「もちろんよ。ヴィヴィアンさんにはこれからずっと、毎日少しずつ、魔術を教えていきますから。習う魔術の系統によって、他の魔術師と教師役を代わることもあります」
「そうなんですね」
教師役がカレンさん以外になると聞いて、少し残念に思ってしまうけれど、次の人もきっと、セレファス様が認めた人物だろうから、仲良くなれるはずだと思いなおす。
「他の人に結界を張るのは、結界石、移動式結界と同じ系統! つまりまだ私の出番ね」
「やったー!」
まだしばらくはカレン先生に教われそうだと知り、思わず喜びの声を上げてしまう。
「あーら、嬉しいわね」
カレン先生が、言葉通り嬉しそうに、クスクスと笑った。
「相手に結果を張るのは、実はヴィヴィアンさんは既にやったことがあるのよ。両手をつないでぐるぐるするやつ」
「ああ、カレン先生の初めての授業でやったやつですね」
「そう。今だったらもっとスムーズにできると思うので、やってみて」
「はい」
カレン先生に言われた通り、両手をつないで右手から魔力を流していく。
左手からはカレン先生の魔力が流れてくるかと思いきや、それは今日はないみたいだ。
だからカレン先生の身体の中心にある、リンゴの大きさの魔力溜まりが溢れないように気を付ける。
「そう、良いわよ。ではその魔力を自分の一部だという感覚を持ったまま、段々領域を広げていって私を取り囲んでみて」
「……はい」
魔力を注ぎ込んで溢れさせるのとは違う。
優しく包み込むように、リンゴの大きさの魔力を広げていく。
少しずつ、カレン先生の身体の周囲、50センチくらいになるまで。
「できました」
「はーい、オッケーよ。これを慣れるまで私と練習したら、今度は魔術師以外の人で練習できるでしょう」
「魔術師以外の人……」
「うん。私は魔力のことに詳しいし、魔力慣れしているから受け入れるのも簡単。ある程度の器もある。いざとなったらヴィヴィアンの魔力に抵抗できるしね。でもエヴァや、魔術の器が小さい人にも結界は張れたほうがいいでしょ? というか、誰かに結界を張るとしたら、それは魔術師以外がほとんどだわ」
「それはそうですね」
「うん。そういう人は他人の魔力を受け入れることにも慣れていない。魔力をどれくらい留めておけるかも人によって違うので、下手をすると身体の中で魔力を暴発させてしまいかねないわ。魔力溜まりが破裂するのは、内臓が破裂したようなものよ。外見からは分からなくても、オーラがメチャクチャになって、しばらく動けなくなっちゃうわ」
「大変ですね……」
カレンさんの話を聞いて、少し不安になってしまう。
「だからこれから私相手にしっかり何度も練習すること。その後は、まあ知り合いにでも頼んで練習させてもらいましょ。魔術師塔や魔術学園で働いている事務員さんなんかは、練習相手を頼まれることが多いから、耐性が付いていることも多いし、まずはその辺りの人にお願いするのがいいかもね」
「はい」
「事務員か。それなら俺がちょうどいいな」
「お兄様!?」
カレン先生に言われて、誰に頼もうかと考えている時、急に後ろからお兄様の声がした。
驚いて振り向くと、いつからいたのかお兄様が立っている。
お兄様が魔術師塔に勤め始めて以来、なぜか色んなところで見かけるのだ。
私がそれだけ、お兄様のことを気にしているからだろうか。
「魔術師以外の練習相手、魔術師塔に勤める事務員に頼むんだろう?」
「は、はい。ですが……」
それは耐性が付いている人が多いからという理由であって、つい最近魔術師塔に勤め始めたお兄様は、経験がないのではないだろうか。
特に事務方のトップの事務官長なのだから、練習相手を頼む人は少なそうだ。
「慣れている人のほうがいいみたいなので……」
「あーら、やってくれるって言うならやってもらえばいいじゃない。誰だって初めての時はあるんだから。それに若くて健康そうだから、そうそう壊れないでしょ。練習相手にはうってつけよ」
お兄様のことを考えて、お断りしようと思ったら、意外とカレン先生が乗り気になってしまった。
「一応どのくらい魔力溜まりがありそうかチェックさせてもらえる? あまりに小さいと最初の練習相手には危険だから。私はもちろんプロですから、心配はご無用よ」
「どうぞ」
「両手を握ってもいいけど、慣れた魔術師は片手だけでもいけるし、手をかざすだけでもできるのよ」
カレン先生が、私に向けてそう説明しながら、お兄様の胸の辺りに手をかざす。
私がカレン先生ほど慣れるには、まだ大分時間がかかりそうだ。
「わーお。今まで見たことないくらい魔力溜まりが大きい。これなら練習し放題よ! よかったわね、ヴィヴィアン」
「そ、そうですか……」
そう言われてしまうと、他の人には頼みづらくなってしまった。
お兄様が魔術師塔にいらした時、遠くでお姿を拝見するくらいだろうと思っていた。
でもこんな風にかかわりが増えたらエヴァンジェリンの秘密を隠し通せるか、少し不安になってしまう。




