4話 事務官長
その日の朝出勤したら、上司であるセレファス様が、呆れたような疲れているような、なんとも表現しがたい複雑そうな顔をして、机に頬杖をついていた。
こういう表情を苦虫を嚙み潰したような、というのかしら。
普段お仕事が忙しくても、疲れていそうでも、凛々しい表情を崩さずにいる彼にしてはとても珍しい。
「おはよーセレ」
「やあ、おはようエヴァ。今日のお洋服はお気に入りのやつだね」
それでもエヴァに優しいセレファス様は、エヴァの姿を見た途端、姿勢を正して笑顔になる。
「おはようございます、エヴァちゃん。今日はなにをして遊びましょう」
「おはよう、ノラ。わたしおやつたべたい!」
「おやつは、おやつの時間になってからいただきましょうね」
ノラさんがエヴァを、お隣の部屋へと連れていくのを、セレファス様と二人で、手を振って見送った。
「セレファス様、今日は体調がお悪いんですか?」
「いいや。なぜ?」
「先ほどお疲れのご様子でしたので」
「いや、体調が悪いわけではない。……少し疲れることはあったかな」
「まあ、なんでしょう?」
セレファス様が朝から疲れるほどのお仕事なんて、なにがあったんだろうかと、心配になる。
まさかなにか緊急事態でもあったのだろうか。例えば魔獣が王都に入り込んだとか……?
「今日から魔術師塔の長が変わったんだ」
「長、というと魔術師長のグローリー様が変わられたんですか」
「いいや、魔術師長は変わらない。変わったのは事務官長。王宮から派遣されている事務方のトップだよ」
「はあ」
王宮から派遣されてくる、事務方のトップ。
正直言って、そんな人いたのねという感想しかないので、セレファス様がなぜそのことで疲れるのかが分からない。
「先ほどまで、そいつがこの部屋に居座っていてな。やっと出て行ったところだ」
「なぜそんな……」
一体その人物はなぜ、この部屋に居座って……と聞こうとしたその時だった。
「来たのかヴィヴィアン! 待っていたぞ」
「お兄様!?」
ドアを開けて入ってきたのは、長年の想い人。
つい最近5年ぶりの再会をしたばかりの、お兄様が入ってきたのだった。
「お兄様が、なぜここに!?」
「偶然だな。突然ここの事務方をするようにと、辞令があったんだ」
「嘘つけ」
お兄様の言葉に、すかさずセレファス様が突っ込みをいれている。
私もさすがにこんな偶然はありえないと思うものの、偶然の再開から3日目で転職してくるなんて、やろうと思ってもできることではない気もする。
「そういうことだから、これからよろしく頼む、ヴィヴィアン」
「は、はい。お兄様」
驚いたものの、実は嬉しくて顔がにやけそうになるのを、気が付かれていないか心配だった。




