7話 当たり前の生活
「血のつながらない兄……か」
あの銀髪の男には見覚えがある。優秀だと評判な宰相補佐だったか。
最近第二王子の側近に誘われたというのに、断ったとかなんとかいう噂を聞いたことがある。
きっとあいつが、以前この花畑にヴィヴィアンを連れてきたという奴なんだろう。
ヴィヴィアンの中に想う相手がいることには、ずっと前から気が付いていた。
誰がどう見ても、あいつだろう。
そしてあの男がヴィヴィアンを見る目も、世界で一番大切な、愛する者を見つめる目だった。
この5年間、ヴィヴィアンとエヴァンジェリンのそばにいたのは僕だった。
ヴィヴィアンと一緒に仕事をするのは楽しかったし、エヴァンジェリンが無事に生まれた時は、心の底から嬉しかった。
二人に会えるから、毎日職場へ行くのが楽しみになった。
出会う前のボロボロになりながら、ただ働くだけだった日々と今とではなにもかも違う。
ヴィヴィアンと雑談しながら働く日々が大切だった。エヴァンジェリンが日々成長していく姿が、僕がこの国を守る理由になった。
他愛もない話しをしているだけで幸せ。もっといっぱい遊んでやりたい。一緒に夕飯を食べたい。
綺麗な花畑に連れていって喜んだ顔が見たい。
恋愛感情なんて抱いたことがない?
じゃあこれはなんなんだ。
穏やかすぎて、それが当たり前の生活になっていて気が付かなかった。
どうしてもっと早く気が付かなかったんだろう。
あの日、合理的だから結婚しようなどと言わず、二人が大切だから守りたいんだと。だから家族になりたいんだと言えていれば、ヴィヴィアンの返事は違ったんだろうか。
そんなことを考えてしまう。
人生で初めて人を好きになったことに、気が付いたのは失恋した後だったなんて。
「あー……話には聞いたことあったけど。結構辛いものだなぁ」
目から涙まで溢れてくる。
いい年した大人が、泣くのか。すごいなぁ、失恋って。
「セレ。ないてる? いたいいたい?」
「エヴァ……」
花畑に仰向けに寝転がって泣いている僕を、心配したエヴァが近づいてきて、のぞき込んでくる。
いけない。こんな小さな子に、心配をかけてしまう。
「セレないちゃやだ……」
「ああ、ごめんエヴァ。なんでもないんだ……エヴァ!?」
なんということだろう。
僕が泣いているのを見て、小さなエヴァまでポロポロと涙を流して泣き出してしまった。
ヴィヴィアンと同じ虹色の大きな瞳から、大粒の綺麗な涙がこぼれ落ちていく。
慌てて起き上がって、可愛いエヴァを抱き上げる。
「もう大丈夫だよ。ごめんね」
「ほんとうに?」
「本当に。昨日悲しいお話を読んだのを思い出していたんだ。エヴァもお話を聞いて泣いたことがあるだろう?」
「うん」
「だから僕は大丈夫」
「よかった。あのね、エヴァはセレがないていたら、くるしいの」
「え?」
「ここがギューって、くるしくなるの。だからセレがなかないように、エヴァがまもってあげる」
「……ありがとう。僕も君を守るよ」
家族にはなれなかったけど。
今までと変わらず、僕は僕なりの方法で、これからもずっと君たちを守っていくよ。




