4話 合理的な判断
本当に、5年前に出会った時と今のセレファス様は全然違う。
あの時は顔色も悪くてフラフラで、すぐには攻略対象の天才魔術師「セレファス」だと分からないくらいだったから。
でもなんとなく、ゲームの「セレファス」とも違う気がする。
ゲームのセレファスはもっと華奢で色白で、守ってあげたくなるような美少年といった感じだった。(23歳だけど)
でも今のセレファス様は、顔色は良いし、外にもよく出かけられるから程よく日に焼けている。
健康的で活力があって、そしてとても頼りがいがある。
ゲームの中のセレファス様が、5年前出会った頃のように、寝る間も惜しんで働いていたのだとしたら、色白(というか不健康な顔色)な理由が説明できてしまう。
「あ! そういえば」
「ん? なんだい」
ゲームのことを考えていたら、もう一つの大切な『ヒロイン』の役割を思い出した。
魔獣討伐よりも、ゲームではむしろこちらのほうがメインなのだ。
「『ヒロイン』って、もしかしたらセレファス様の運命の恋のお相手かもしれませんよ。……セレファス様じゃなくて、王子様や公爵様などがお相手の可能性もあるんですが」
「ああ……攻略対象とかいうやつな」
「そうです。セレファス様、今恋人はいらっしゃいませんよね? 出会ったら大恋愛するかもしれない相手って気になりません?」
「ならないな。僕はこれまで恋などしたことはない」
「そうなのですか」
「子どもの頃に魔術学園に入って以来、ずっと魔法の修練をするだけの日々だったからな。魔術師になってからは必死で……まあヴィヴィアンも見た通り」
遠い目をするセレファス様。
……興味がないからとか、お兄様のそばにいたいからといって魔術学園に入学しなかったことが申し訳なくなってきてしまう。
「なんだか……すみません」
「ヴィヴィアンは僕と同じ年か。じゃあヴィヴィアンがもしも魔術学園に入学していたら、同級生だったかもしれない。……そうしたらどうなっていたんだろうな」
「……っ」
突然セレファス様に見つめられて、思わず目を逸らしてしまう。
どうしてか自分でも分からないけれど、セレファス様の深緑色の瞳を、見続けてはいけない気がしてしまって。
「まあとにかく僕は、『恋愛感情』なんてないタイプなようだから。例え結婚するとしても、合理的に相手を選ぶだろう。そのほうが仕事に都合がいいとか、立場がよくなるとか。きっとゲームでヒロインと結ばれるルートの『僕』は、そんな合理的な判断で動いていたんだろう」
「そうですかね」
これほど思いやり深いセレファス様だから、きっとただ一人の女性を愛することもある気がするのだけど。
「おかあさま、セレ。もうおしごとおわり?」
「ああ、エヴァ。君のお母さんのお仕事は、今日はもう終わりだよ」
「やったー! かえりましょうおかあさま」
「そうね、エヴァ」
仕事が終わったことを感じ取ったのか、隣の部屋からエヴァと子守りのノラがやってきた。
スカートのところに抱き着いてきたエヴァを、力いっぱい抱きしめ返す。
「ねえおかあさま。エヴァきょうはシチューがたべたいです」
「まあ、また? 他のメニューでもいいのよ」
「だっておいしいんだもの。トロトロのカブと、トリのシチュー」
「分かったわ」
「へえ、良いなあ。カブのシチューか」
大好きなセレファス様にかまってもらえて、エヴァはとっても嬉しそうだ。
さて帰ろうと思うと、仕事中は忘れていたあることを思い出して、少し憂鬱になってしまう。
「そうだセレファス様。先ほど話していた他の魔法も勉強するというお話ですが、まずは移動式の結界を張る魔法を覚えたいと思うんです。なにかおすすめの本などはございますか?」
「移動式の結界の本か。いいよ、用意しておく」
「ありがとうございます! 最近帰り道で、誰かにつけられているような気がして……多分気のせいだとは思うんですが、私とエヴァを守れるくらいの結界が張れたら、安心だわ」
「……なんだって?」




