3話 ゲームの中の世界
今日もお仕事で、結界石にひたすら魔力を込めていく。
魔術師塔のお仕事に勧誘された時の「他のことはなにもしなくていい」という言葉は今でも守られている。
私が働いている部屋は、魔術師塔の中のセレファス様の個室で、私はセレファス様に助手として直接雇われていることになっているのだ。
この部屋に籠りきりの私とは違い、セレファス様は色んな場所へ出向いたり、偉い人に呼び出されたり、部下たちに教えに行ったりと、いつも忙しそうにされている。
「あー疲れた。もう結界石は僕とヴィヴィアンの作ったやつだけにするべきだよ。今魔術師塔に光の魔法が得意な奴が少ないから。半端な出来だと、こうやってわざわざ遠くまで修復に呼び出されてしまう。あー……、でも他の奴にも作らせないと、後続が育たないんだよなー」
「お疲れ様です」
夕方ごろになって、外回りをしていたセレファス様がやっと帰ってくる。
ちょうど私の今日の仕事は終わったところなので、セレファス様にお茶をお淹れすることにした。
「お茶をどうぞ。気持ちが落ち着いて、疲れが取れますよ」
「ありがとうヴィヴィアン」
フーっと大きな息を吐いてから、セレファス様がお茶に口を付ける。
「……今日は王都の東側の辺りを回られたんですよね。いかがでしたか」
「ああ、君が言っていた『ゲーム』では、魔獣が入ってくる穴が生まれたところだったな。そこまでの大きな穴になりそうな綻びはなかったし、少しでも怪しい石は全て取り替えてきた。心配ないよ」
「そうですか」
今年はお兄様が28歳の年――前世でいうゲームが始まる時期なのだ。
実はセレファス様には、私が前世の記憶があり、この世がゲームの世界であることを全てお話ししている。
話すというか、ちょっとした会話の流れでバレてしまったのだ。「ヴィヴィアンはこの世界がゲームの中だということを知っているのか?」と。
驚いた私は咄嗟に誤魔化すこともできずに、洗いざらい喋ってしまった。
私が転生者であることと、この世界は私が以前いた世界にあったゲームの中の話なのだと。
最初はセレファス様も転生者なのかと思ったけれど、そうではなくて魔力が高すぎて、自力で『世界の真理にたどり着いた』らしい。
この世界は、別の世界のどこかの誰かが創り出したゲームの中なのだと、自分で気が付いたとは信じがたいけれど、天才というのはそういうことなのだろう。「ちなみにヴィヴィアンのいた前世も、きっと別の誰かが創り出した世界だぞ」とあっさりと言われて、驚いたものだった。
「多分すでに、ゲームとは未来が違ってきているんだろう。ここ5年でヴィヴィアンが質の良い結界石を作り続けているおかげだな。魔獣が群れで入り込んでくるような穴は、誰かが意図的にこじ開けでもしない限りあかないよ」
「よかったです。……それであの、『ヒロイン』は見つかりましたか」
「引き続き探しているけれど、いないな」
「そうですか」
『ヒロイン』はゲームをする人が好きに名前を考えられるものだったので、名前が分からないのだ。
『平民だけど光の魔力が強くて、才能を見出された黒髪の乙女』--くらいしか情報はない。
「正直言って、5年前にヴィヴィアンが見つかるまでは、この国は危機に瀕していたといっていい。光の魔力を使う者が建国以来最低の人数で、結界石の性能もかなり落ちていた。僕が魔術師になった時にはいつ結界が破れてもおかしくない有様で、死ぬ気で修復して回ったよ」
「お、お疲れさまでした」
「本当にな。……でもヴィヴィアンが見つかって、しかも他のことをせず5年間ひたすら結界石作りに集中してくれた。もしもヴィヴィアンが見つかっていなければ、今頃国民全員の魔力検査をしてでも光の魔力を持つ者を探し出していてもおかしくないから……そこまでしないと見つからないんじゃないのか」
「……ゲームの中の『私』は一体なにをしていたんでしょうね。結界を守ろうとはしなかったのかな」
「……さあな」
きっとゲームの中の私は魔術に興味もなくて、結界石の綻びのことなんて気にせず生活していたのかもしれない。
「結界の綻びがもうないのだから、『ヒロイン』を探す必要はないんじゃないのか」
「そうなんですけど、怖くないですか? もしも万が一魔獣が侵入してきたら……魔獣じゃなくても、他にも色んなイベントとか、トラブルもありますし」
「じゃあそれも全部、ヒロインの代わりにヴィヴィアンがなんとかするしかないな」
「ええええ!?」
「はははっ、冗談だよ。魔術師たちには僕が警戒させるし、騎士団のほうにも上手いこと言って、協力させるって」
「っびっくりしました。……あのでも、私にできることでしたら……」
「うん、そうだね。結界石は大量に必要だから、今後も作り続けてもらわないと困るけれど、空いた時間があれば少しずつでいいから、他の魔法も勉強してもらえると助かる」
「はい、そうします」




