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悪役義兄との子、育てます  作者: kae
第2章 天才魔術師様と虹色の瞳の女の子

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1話 5年後

「おかあさま。これノラといっしょにつくったの」

「まあ、可愛いウサギさんね」

「うん!」

 目に入れても痛くないくらい愛しい存在のエヴァンジェリンが、布を折って作ったウサギさんを見せてくれる。

 白い布を摘まんで、長い耳を二つ作ってある。リボンを結んでとめてくれたのは、子守りのノラだろう。

「エヴァちゃん、私とあちらで遊んでいましょうか。お母様はまだお仕事中ですから」

「いや、今日はここまででいいよヴィヴィアン。ノルマはもう達成しているから」

 ノラがエヴァを連れて行こうとするのを、上司の声が引き留めた。

「ありがとうございます、セレファス様」

「セレもいっしょにあそぼ」

「ごめんな、エヴァ。僕はまだ無理だ」

 セレファス様というのは、今の私の職場の上司だ。

 天才と名高い国一番の魔術師でもある。


 私がウォリアーズ家を出てから、5年の歳月が流れていた。

 あの時お腹の中にいた子は、無事に生まれてもう4歳になっている。

 髪の毛の色も、虹色の瞳も、私にそっくりな女の子だ。

 私にそっくりなのに――不思議なことに、どこかお兄様の面影がある気がする。


 5年前、なんとしてでも家を出たいと懇願する私に、お母様から話を聞いたお父様は、小さな家を用意してくれた。

 本当なら絶対にお兄様に見つからないように、外国にでも逃げ出したかったところだけど。

 目の届く範囲じゃないと絶対に許さないと言われてしまったので、結局はウォリアーズ家から1時間も離れていない王都で暮らしている。

 最初のうちは何かの機会にお兄様と会ってしまうかもと警戒していたけれど、用意していただいた家があるのは平民の住んでいるエリアだし、職場である魔術師塔にお兄様が来る可能性もほぼない。


 上司のセレファス様とは、家を出てほどなく――まだエヴァンジェリンがお腹の中にいた頃に出会った。

 街を歩いていたら、フラフラしながら結界石を修復している、顔色の悪いセレファス様を見かけたのだ。

 その時は質の良い結界石を作れる魔術師が不足していたらしく、当時セレファス様はほとんど寝ないで働いていたという。

『あの……よろしければお手伝いいたしましょうか?』

 あまりに大変そうで、ついついお声を掛けてしまった。

 その声に顔を上げたセレファス様は、髪もボサボサ、顔色は悪く、目の下にはくっきりと隈があって――どこからどう見ても、限界だったのだ。



『君だったのか! 今まで結界石を修復して回ってくれていたのは!!』

 目の前で結界石を修復して見せたら、セレファス様はものすごく感動した様子で、手をガッチリと握ってきた。

 後から聞いたら、私を絶対に逃がさないように捕まえていたらしい。

 結界石製造の戦力になる人材が不足していた当時、私がちょこちょこ修復して回っていた結界石を見て、セレファス様は誰がやったのか血眼になって探していたのだという。

 あまりのセレファス様のやつれように、この人が乙女ゲームの攻略対象である『天才魔術師』であるとは、最初気が付かなかったくらいだった。


 それから猛烈に魔術師塔への就職を勧誘された私は、一度は赤ちゃんが生まれるからと断った。

 すると赤ちゃんが生まれたら職場に連れてきていいし、子守りも付ける。他にややこしい仕事もしなくていい、ただ結界石だけ作ってくれ金はいくらでも払うーーーーー!!

 と、セレファス様に泣きつかれて今に至る。

 まあ私も、家を出たのにお父様とお母様に養ってもらい続けるのも情けないなと思っていたので、仕事ができたのは好都合だった。

 セレファス様のところで働いていることはお父様とお母様もご存じで、名高い天才魔術師様のところならと、安心してくれたみたいだ。


 今ではセレファス様の顔色もとっても良くなった。

 当時は18歳と、私と同じ年齢で、ゲームではさわやか童顔枠だったはずなのに、あの時はまるで浮浪者のようだったもの。

「セレ。どうしても、あそぶのむり?」

「……はあ。少し休憩するよ」

「やったー! きゅうけい!」

 キャーとはしゃいで抱き着くエヴァ。セレファス様が大好きなのだ。

 だから職場にいる間は、なんとかして遊んでもらおうとする。

「すみません、セレファス様」

「いや。今日もヴィヴィアンが沢山結界石を作ってくれているからな。子守りくらいはお安い御用さ」

「セレファス様が子守り……」

 いくら時間に余裕ができたとはいえ、国一番の魔術師の時間を子守りに割いてしまうのは申し訳ないのだけど――。

「ほら、エヴァ。なにをしたい?」

「おはなし!」

「ああ、いいぞ。確かウサギさんのお話があったな」


 エヴァは可愛いし、上司にも恵まれている。

 何不自由のない幸せな生活――。

 だけどいつでも、私の心にはぽっかりと穴が空いていた。




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