13話 友の後押し
パーシバルの家、グレイブス伯爵家の人気のない談話室。
秘密の相談をする時によく利用させてもらっているこの部屋に、今日も俺は押しかけていた。
「さてさて、今度はどんな相談だい? ウィルフレッド君」
「先日のセリニエール夫人の誕生祝の件だ」
「お、愛しの妹君との二人旅! どうだった?」
「最高だった」
パーシバルは子供の頃から――それこそ10歳で家族と血がつながっていないと聞かされる前からの友人だ。
10歳の俺はヴィヴィアンがいつか離れていくと思ってやさぐれて、友人とも遊ばなくなった。
部屋に閉じこもる俺に対して、それまでの友人たちは徐々に離れていったけど、こいつだけが、なんで急に無視するんだ、理由を話せと諦めずしつこく言い続けてきたのだ。
そこでしぶしぶ事情を話すようになって、気が付けば全てぶちまけるようになっていた。
成長するにつれて、ヴィヴィアンへの家族愛が恋愛へと変化していった想いも、全部だ。
十年以上も秘密の相談をし続けているのに、他の誰かに漏れたことは一度もない。
そこは本当に信頼して、感謝していている。こいつに頭が上がらない所以だ。
「一つのベッドで一緒に眠った」
「はあ!? なんで!?」
「先方の手違いで、父上たちの部屋そのままだったようだ」
「いや、普通事情を話して取り換えてもらうだろう!?」
「まあいろいろあってな。そこでヴィヴィアンと抱きしめあって……」
「え! ええええ!? まさかお前!」
「……その後なにがあったかは、想像お任せしよう」
まあ実はなにもなく、本当にただ抱きしめあって眠っただけなのだが、そこは少し見栄を張ってしまう。
まあこいつ相手に今更、見栄もなにもないのだが。
しかしあの時は驚いた。
同じベッドで寝るという史上最大のラッキーを噛みしめつつ、1ミリも彼女に近づいてはいけないと自分を戒めていたら、ヴィヴィアンのほうから寝返りを打って、俺の背中にくっついてきたのだ。
そこはさすがに我慢しきれず、抱きしめた。
起きるかと思ったヴィヴィアンはスヤスヤと気持ちよさそうに寝息をたてていたので、そのまま可愛い寝顔を朝まで眺め続けてしまった。
一睡もしなかったが、幸せだった。
帰りの馬車でも貴重なヴィヴィアンとの二人きりの時間、一秒だって寝なかった。
「しかし不思議なんだが、あの旅ではヴィヴィアンの口数が普段よりもとても少なかったんだ。ほとんど喋らなかったと言っていい」
「へえ、そうなんだ?」
「いつもならなにかと話しかけてくれるのに。どうしてだと思う? 少し気まずくてな。いつものように喧嘩腰でも嫌味でもいいから、なにか話してくれればよかったんだが」
まあなにを言われようとも、逆に無言だろうと、ヴィヴィアンと一緒にいられるだけで、幸せなのだけど。
「でも最近、なんだか以前よりヴィヴィアンと仲良くなってきた気が……」
「……お前さ、調子乗るなよ。ヴィヴィアンちゃんに甘えすぎなんだよ」
「……へ?」
浮かれていた俺は、突然のパーシバルの、今まで聞いたことのないような怒りを含んだ低い声に驚いてしまった。
「喧嘩腰でも嫌味でもいいから、なにか話してくれ? そうだよ。ヴィヴィアンちゃんは子どもの頃、いきなり話さなくなったお前に、必死で話しかけてくれてたんだよな? それでも拗ね続けるお前に対して、諦めずに話しかけ続けてくれた。いつもいつも、何年もの間な」
「……」
「お前いくつだ? もう23だろう。いつまでヴィヴィアンちゃんに甘えて、話しかけてもらってんだよ。10歳の時のお前は出生の秘密を知ってさぞかしショックだったろうさ。だけどなあ。昨日まで仲良かった相手に、事情も分からず無視される側の気持ちも考えろよ」
「あ……すま……」
「いい加減にしろ。ヴィヴィアンちゃんと仲直りしたいなら、お前のほうから話しかけろ。ヴィヴィアンちゃんがいつか離れていくのが辛いから距離をとる? どこの誰だって、好きな女に振られたらそうなるんだよ、お前だけじゃない。それなのにいつまでグダグダやってるんだ」
「その……通りだ」
「まあ、お前に嫌味も言わなくなったってことはさ。もう手遅れで、ヴィヴィアンちゃんは諦めたのかもなー」
ガタンッ
パーシバルのその言葉に、たまらなくなって席を立つ。
「あ……パーシバル。その、お前にも俺は失礼な態度をとっていた……すまな……」
「俺は今更、そんなガキの頃のこと気にしてないって。いいからヴィヴィアンちゃんに許してもらえるまで、死ぬ気で謝ってきなよ」
「分かった!」
パーシバルの言葉に背中を押されて、走りだそうとする。
しかしやっぱりこれだけは言いたいと思いなおして、振り返った。
「ありがとう、パーシバル。今までのこともずっと」
「はいはい。いいから行け!」
「ああ! 死ぬ気で謝ってくる!!」
パーシバルの言う通りだ。
どれだけヴィヴィアンに甘えていたのか、今やっと気が付いた。
俺がヴィヴィアンと遊ばなくなり、話もしなくなったのは彼女が5歳の時。
――たったの5歳だ。
ヴィヴィアンはこんな俺に、泣きながら話しかけ続けてくれた。
その後も、ずっと。何年も――。
謝ろう。謝って許されることではないけれど。
俺が彼女を傷つけた年数だけ。--いいや、一生かかってでも謝り続けよう。
そして今までのお礼を言おう。
これまで諦めないでいてくれた、お礼を。
今までずっと、心から君を愛していたことを話そう。
そう思った。
だけど家に帰ったら、ヴィヴィアンは消えていた。




