12話 衝撃の事実
楽しかった二人旅から帰ってきた私は、少し体調を崩して横になっていた。
一泊二日の旅は、少しハードすぎたのかもしれない。
夜は緊張して、いつもより眠れなかったのもある。
家族には寝不足だと伝えて、今日は一日中、ゆっくり休むことにした。
「調子はどう? ヴィヴィアン。あなたの好きなハーブティーを持ってきたわよ」
「まあ、ありがとうお母様」
少し疲れて寝ているだけなのに、お母様がわざわざベッドまでお茶を運んできてくれる。
お気に入りの香りのハーブティーを飲めば、きっとスッキリするに違いないと思った。
「う……うえ……」
「まあ! どうしたのヴィヴィアン」
それなのに、お気に入りのハーブティーの匂いを嗅いだ途端、強烈な吐き気に襲われて吐いてしまう。
「ごめんなさ……」
「いいから! すぐに片付けさせるから、あなたは横になっていなさい! お医者様を呼ぶわ」
「大丈夫よ、お母様。少し疲れているだけで、熱もないし」
「いいから、寝ていなさい。不調の原因が分かる魔術医を呼ぶから。もしも何事もなければそれでいいのだし」
「大げさよ……なにもそこまで」
魔術医とは、患者に魔力を通すことで、その患者の不調の原因が分かる特別なお医者さんのことだ。
医術学院と魔術学院出身の両方に通った者しかなれず、とても貴重で、診察料も高いのだ。
ただの疲労でその魔術医を呼ぶのは大げさすぎると思ったのに、お母様は絶対に譲らず呼んでしまった。
「おお。まだ小さいですけれど、お腹に赤ちゃんがいますね。おめでとうございます」
「え……」
「まあ……なんてことでしょうヴィヴィアン……」
私の両手を握って、しばらく魔力を流していた魔術医様の言葉は、予想外のものだった。
なぜこの可能性を一切疑わなかったのか――十分あり得ることだったのに。
「それ以外は健康ですね。吐き気がくるのが少し早いですが、ツワリでしょう。香りが強いものは避けてください」
「はい……」
魔術医様が部屋を出ていくと同時に、部屋が重苦しい沈黙に支配された。
赤ちゃん……あの時の。お兄様との。
『子どもなど一生持つつもりはない。絶対にだ』
先日のお兄様の声が蘇る。
お兄様は、あの夜のことを覚えていらっしゃらない。
きっとこの子のことを、どこの誰か分からない人との子どもだと思うだろう。
嫌な考えが脳裏をよぎった。
お兄様が育ての家と縁を切ってしまったのは、このせいかもしれない――と。
「うっ……」
突然思いついたその可能性に、頭から血の気が引いてまた気持ち悪くなってしまう。
嫌いな妹が、嫌いな子どもを産んで居座る家に、優秀なお兄様が留まる理由がない。
結婚してお嫁さんが来たとしても、未婚の子を産んだ妹がいては、邪魔だろう。
お兄様はいくらでも一人で生きていける方なのだから。
いやもしかしたら、父親のいない子を産んだ私をこの伯爵家にいさせてくれるために、自ら出ていってくれたのかもしれない。
その先の未来を、私は知っている。
幼い頃に両親を亡くし、育ての親とも縁を切って孤独になったお兄様は、ヒロインに依存して、思い余って襲いそして――。
処刑されてしまう。
いやだ。絶対にそんなことにはさせたくない! お兄様を死なせるくらいなら、私がこの家を出ていく。
だけど――。だけど、ごめんなさい。お兄様にとってはお嫌でしょうけれど。
覚えてもいないことでしょうけれど、でも。
私のお腹の中に、あなたとの子どもがいる。嬉しくて、愛しくて仕方がない。
ごめんなさい。
「お母様」
「……なあに?」
「お願いがあるんです」
なにも言わずに寄り添ってくれていたお母様に、私はある決意を伝えた。




