11話 広い背中
小一時間ほど揉めた後、私たちは結局だだっ広いベッドの端と端に寄って、一緒に眠ることになった。
お兄様はソファーで寝ると言い張ったけれど、一人掛け用のソファーがいくつかあるだけで横にはなれない。
明日も馬車で4時間も移動するのだからと、それについては断固反対させていただいた。
なんとかしてエドガーさんを探し出して、直接お願いしようとも思ったけれど、彼は夜通し盛り上がる伯爵夫妻と、特別親しいご友人方につきっきりでいるようだ。
そこへ直談判に行けば大騒ぎになり、伯爵夫妻の面目丸つぶれになってしまう。
「私と同じベッドはさぞかしお嫌でしょうが、一晩だけなので我慢してください!」
最後は喧嘩モードになってしまったけれど、なんとか納得していただいた。
そうしてベッドへ入ってから、一体何時間が経っただろう。
当然ながら、私は眠れずにいた。
――うう、ドキドキしてしまうわ。
前世から好きでたまらないお兄様と同じベッドで寝て、心臓はずっと壊れないか心配なくらい高鳴っているし、眠れるはずがないのだ。
お兄様はベッドに横になってからすぐに眠られたみたいで、先ほどから全く動かない。
眠れずにモゾモゾと寝返りを打ち続けている私とは大違いだ。
――完全に、寝ているわよね、これ。
何時間も横目で確認していたから、間違いない。
全然全く一ミリも動いていない。お兄様は確実に眠っている。
――ほんの少しくっついても……気が付かれない、わよね。
ちょっとだけ、ほんの一時。
シークレットパーティーでのあの夜、こんなことは一生に一度で、二度とないと思ったけれど、まさかそれほど経たずに、また同じベッドで横になる日がくるとは思わなかった。
まあ今回はただ、横になっているだけだけど。
お兄様だって全く動かないほど熟睡されているのだから、気が付くことはないだろう。
私は寝返りを打つふりをして、少しずつお兄様に近づいた。
「……っ!」
反対側の壁に向かって寝ているお兄様の背中に、そっと頬を寄せたら、息をのむ気配がした気がした。
――起こしたかしら!? こんなに深く眠っているのに?
ドキドキしながら様子をうかがうけれど、やっぱりお兄様は全く動かない。
起きていたら振り払われるだろうから、やっぱり熟睡されているのだろう。
安心して私は、お兄様の温かくて広い背中に、ピッタリとくっついた。
――えへへ。5歳の時以来かも。
あの頃おんぶしてもらった時にとっても大きく感じたお兄様の背中は、13年経っても広いままだ。
ドクッ ドクッ ドクッ
部屋が静かなせいか、お兄様の心臓の音が、やけに大きく聞こえてしまう。
なんだか安心する――。
――えええ!?
お兄様の体温に、少しウトウトしてきたその時――。
それまで全く動かなかったお兄様が、急にガバリと大きく寝返りを打ち、私を力強く抱きしめてきた。
え!? 起きてる!? ……わけないわよね。え、え、え、どうしよう。
薄目を開けてそっと確認するけれど、お兄様は相変わらずグッスリと眠っている。
――誰と間違えて抱きしめたんだろう。ううん、なんだっていい。嬉しい。
大好きなお兄様の、広くて暖かい胸に包まれながら、私は幸せな眠りに落ちたのだった。




