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Jonathan

掲載日:2025/12/30

 北風に逆らって肉まんを齧る。暖かい湯気が南に向かう。

 濃い藍色をした夜に白線を流す。路地に入る。湯気は真っ直ぐに空へ立ちのぼる。11月の壁にはまだ夏の抜け殻が引っ掛かっていた。

 破けた背中から初めて見上げる空とはどんなものだろうか?裂けた肉まんの湯気が立ち上る空をその抜け殻の中身は知らない。殻の中でドロドロに溶けていく肉体を想像する。暗い殻の中。胎内巡り。生まれ変わり。新しい自分。諦観と希望。

 布団の中。暗く柔らかい殻。横たわる肉。押し広げて入り込む。暖かく柔らかい殻。胎内。生まれ変わらない。いつもの自分。諦観と希望。夜を掴んで引き裂いてしまえばそこには新しい空が見えるかも知れない。

 誰も九月が終わった頃に起こしてくれなかった。きっと三月が過ぎても起こしてくれないだろう。眠りの方が死より容易いと言うが、起こす者のいない眠りでは境界が曖昧になってしまう。

 目覚ましを止める。コンロでお湯を沸かす。換気扇が部屋の空気を吸い込んでいく。

 珈琲にミルクが溶けていく。夕暮れ時は悲しい。希望の朝は再び来るのだろうか?旧い朝、いつかの朝、戻りたい朝、生きていてよかった朝。そんな朝はどこにあっただろうか。

 改札。階段。ホーム。

 間もなく1番線を、冬が通過します。白線の内側にお下がりください。

 朝と言うのは酷く不愉快な存在だと思っていた。いや、いまもそう思っている。つまり社会的な首輪をする時間の事だ。眠りから醒めて個人を失う。今夜も自由から逃走する事に失敗したのだと思い知る。ゴミが回収されていく。瓶が割れる音が通りに反響する。

 間もなく1番線を、学校が通過します。黄色い線の内側で、行儀よく真面目にお待ちください。

 窓ガラスの向こう、小さく富士山が見える。トランジスタラジオは持っていない。ポケットの中の反抗、紫色の煙は放課後にだけ立ち上る。存在の狼煙。誰も見つけてくれない。眠りから醒める事はない。運動場の隅にある小屋でだれが何を育てたかも覚えていない。

 間もなく1番線に、家がまいります。空が群青色の内に、お戻りください。

 夜と言うのは自由な時間だと思っていた。いや、いまもそう思っている。つまり社会的な首輪を外している時間の事だ。でもそれは文明があるからこそ許されるモラトリアムであって、本来なら眠るべき時間だ。それは殻だろうか。だが夜中に歩き回ったところで殻は破れなかった。意識だけがドロドロと無限に溶けていく時間。皹の無い時間。

 今はもうナイト・ホークスが集うようなダイナーやカフェこそ無いけれど、そこら中にコンビニがあってぼくたちは渡り鳥の様にさまよっていられる。不眠症のカモメたち。カモメは海を渡るのか?僕が知っているカモメはきりもみしながら音速の壁を越えようとするやつだ。結末がどうだったかは覚えていない。

 ぼくたちは紺色の夜をきりもみしながら飛んでいく。睡眠時間を削って、自由と勘違いした自分だけに都合の良い瞬間を求めて。そうだ。ぼくたちは勘違いをしている。そもそも夜中は自由なんかじゃない。本来は眠るべき時間だ。社会的な首輪はついたままだ。どこまで歩いても、きりもみして音速の壁を越えたところで、結局はそこも檻の中だ。

 檻。気狂いの解放治療場、またはその箱庭。

 誰もが閉塞とか解放とかについて話している。壁に向かって。


 柘榴を食べようと言っていたのにもう秋はどこかに行ってしまいそうだ。早く買いに行かないと今年は食べられないかも知れない。柘榴の一粒が転がった時に見上げる空の色は赤いのだろうか。

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