表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

57/64

10-2

 それから五年。

 体つきも、顔立ちも、少女から女のそれになった頃、計画を実行に移すことにした。

 身分証を手に、帝都を訪れる。

 街への入り口で、警護をしていた兵士に、手帳を差し出した。

「あの、私、たぶんこの名前の人間だと思うんです」

 本当なら、村を襲撃されたとき、死んでいた身だ。失うものなど何もない。

 それまで何十回となく、想像の中で疑似体験していたやり取りを、信じられないくらいにうまく演じることができた。


 それから起きたことは、いくつか想定していたシナリオの中でも、最大限に幸運な展開だった。

 ユスティナの叔母だという人間が現れ、記憶を失くしたことを、号泣して憐れまれる。

 引き取られた先は、大金持ちとまではいかなかったが、士族の家系で、申し分ない環境だった。

 士官学校に通えただけでなく、武芸の家庭教師を雇ってもらい、五年の学生生活の後、同学年の中で、抜けた一番の成績で卒業することができた。


 帝軍に採用されて間もなく、深い仲になった相手が、ルーシャの諜報部の人間であることを偶然知る。

 男は、若い士官候補という私の身分にしか興味がなかったようだ。

 だが、素性を知ったあとも関係を続けた。相手からも、一般の軍人では手に入らぬ情報を得ることができたからだ。

 二十歳のとき、近衛に配属され、さらに七年して、皇女直属の中隊長に任ぜられた。

 警護を理由に、帝や后、子供たちに、簡単に近づけるようになったのだ。


 あとは恨みを晴らすだけだ。

 もちろん、ただ殺すだけでは許されない。

 両親と家と故郷を無情に奪った帝国軍の最高司令官だ。

 いかに苦悩を味わわせるか。

 考え抜いた末に出した結論は、獣鬼たちに襲わせることだった。もちろん、ルーシャが非人道的な実験をしていることは、耳にしていた。


 準備の第一弾として、エトルリアに、皇帝の持病を治療できる名医を用意した。もちろん大金で雇った偽物だ。あの男を亡き者とするのに、彼の地以外に適した場所などないのだから。

 やがて王国が陥落し、アンテマジックなる遺物が、この世界に存在することが判明する。

 皇女フェリシアはソーサラーだ。力を無力化させ、さらなる絶望を与えることができるのではないか。

 計画の変更を考えていたとき、宰相が、彼女に実績を持たせようとしている企てが耳に入った。

 ちょうどアンテマジックの効果を確かめたかったところだ。その謀略に加担することにした。


 ただ、結果は、まるで思い通りにはならなかった。フェリシアはそうそうに逃げ出し、獣鬼たちは、アビリティを使うことなく、屈強で志の高い貴族の部隊によって、討ち倒されてしまったのだ。

 テューダーの娘に、家族を失った自分を重ねてしまうようでは、まだ冷酷に徹し切れていないなと、自覚できたことくらいが収穫だった。


 それから間もなく、事態が急変した。

 皇帝の容態が悪化したのだ。病死で天寿をまっとうさせるなど、あってはならない。

 最後に、あの男の前で、家族を獣鬼に惨殺される姿を見せたあとでなければ。

 皇女を説得し、最小限の部隊で、エトルリアへと向かった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ