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それから五年。
体つきも、顔立ちも、少女から女のそれになった頃、計画を実行に移すことにした。
身分証を手に、帝都を訪れる。
街への入り口で、警護をしていた兵士に、手帳を差し出した。
「あの、私、たぶんこの名前の人間だと思うんです」
本当なら、村を襲撃されたとき、死んでいた身だ。失うものなど何もない。
それまで何十回となく、想像の中で疑似体験していたやり取りを、信じられないくらいにうまく演じることができた。
それから起きたことは、いくつか想定していたシナリオの中でも、最大限に幸運な展開だった。
ユスティナの叔母だという人間が現れ、記憶を失くしたことを、号泣して憐れまれる。
引き取られた先は、大金持ちとまではいかなかったが、士族の家系で、申し分ない環境だった。
士官学校に通えただけでなく、武芸の家庭教師を雇ってもらい、五年の学生生活の後、同学年の中で、抜けた一番の成績で卒業することができた。
帝軍に採用されて間もなく、深い仲になった相手が、ルーシャの諜報部の人間であることを偶然知る。
男は、若い士官候補という私の身分にしか興味がなかったようだ。
だが、素性を知ったあとも関係を続けた。相手からも、一般の軍人では手に入らぬ情報を得ることができたからだ。
二十歳のとき、近衛に配属され、さらに七年して、皇女直属の中隊長に任ぜられた。
警護を理由に、帝や后、子供たちに、簡単に近づけるようになったのだ。
あとは恨みを晴らすだけだ。
もちろん、ただ殺すだけでは許されない。
両親と家と故郷を無情に奪った帝国軍の最高司令官だ。
いかに苦悩を味わわせるか。
考え抜いた末に出した結論は、獣鬼たちに襲わせることだった。もちろん、ルーシャが非人道的な実験をしていることは、耳にしていた。
準備の第一弾として、エトルリアに、皇帝の持病を治療できる名医を用意した。もちろん大金で雇った偽物だ。あの男を亡き者とするのに、彼の地以外に適した場所などないのだから。
やがて王国が陥落し、アンテマジックなる遺物が、この世界に存在することが判明する。
皇女フェリシアはソーサラーだ。力を無力化させ、さらなる絶望を与えることができるのではないか。
計画の変更を考えていたとき、宰相が、彼女に実績を持たせようとしている企てが耳に入った。
ちょうどアンテマジックの効果を確かめたかったところだ。その謀略に加担することにした。
ただ、結果は、まるで思い通りにはならなかった。フェリシアはそうそうに逃げ出し、獣鬼たちは、アビリティを使うことなく、屈強で志の高い貴族の部隊によって、討ち倒されてしまったのだ。
テューダーの娘に、家族を失った自分を重ねてしまうようでは、まだ冷酷に徹し切れていないなと、自覚できたことくらいが収穫だった。
それから間もなく、事態が急変した。
皇帝の容態が悪化したのだ。病死で天寿をまっとうさせるなど、あってはならない。
最後に、あの男の前で、家族を獣鬼に惨殺される姿を見せたあとでなければ。
皇女を説得し、最小限の部隊で、エトルリアへと向かった。




