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私が生まれたのは、今は帝国領となっているエトルリアの田舎だ。
侵略によって焼け野原になった、マシャニという村のただ一人の生き残り。
戦力差は圧倒的で、数日で国は陥落した。
戦争孤児たちは集められ、労働者としてのみ生かされた。
仮の保護者として割り当てられたのは、林業にたずさわっていた無骨な男だった。
まだ幼かったこともあり、暴力こそ振るわれなかったが、食事はほとんど出なかった。
山の草木や昆虫、それに小鳥を自力で確保しなければ、そして、村と両親を根絶やしにした連中への、深い恨みがなければ、そうそうに命を落としていたと思う。
筋力や脚力といった基礎体力は、その頃無自覚に培われたのだろう。
人生で一度目の転機は、そんな暮らしを始めて二年した頃、七歳のときだ。
谷底の川で水浴びをしていたとき、崖の上から人が落ちてくるのが見えた。
慌てて駆け寄ると、倒れていたのは、カバンや衣服に荷物をいっぱいに詰め込んだ旅人で、だが、すでに息絶えていた。よく見ると、周囲には、過去に落命した人間のものと思われる骨がいくつもあった。
どうやら足場の悪い山岳道で、足を踏み外すことが珍しくないらしい。
死体を見るのは、村が襲われたとき以来だったが、周囲に散らばった荷物に気を取られ、怖さを感じる暇はなかった。
それが、初めて人から物を盗んだ瞬間だ。
手に入れた品を、村の質屋で売り払い、買った菓子の味は今も忘れられない。
それから、定期的に、その谷を訪れるようになった。
数ヶ月に一度は人が死んでいて、その度、金目の物を持ち出しては換金した。
八歳のとき。
文字通り、人生を書き換える出来事が起きた。
前の夜、遠くで大きな音がしたような気がしていた。
朝日が昇るのを待ちかね、谷へと急ぐと、馬車がまるごと落ちていたのだ。馬も、中にいた人たちもすでに死んでいた。
乗客は三人で、親子連れのようだ。三十代くらいの身なりのいい夫婦と、それから自分と同じ年くらいの少女。
可愛らしい顔だったが、鼻と耳から血が流れ出ていて、目も開きっぱなしだった。
これまでになく、大量の収穫がありそうだと、勇んで死体を物色していたときだ。
少女がぶら下げていた巾着から、手帳を見つけた。
帝都にある私立学校の生徒証のようだ。
ユスティナ・ブラジェイと書かれた、彼女の身元証明書を手にした瞬間、それまで一度も考えたこともない、恐ろしいひらめきが起きた。
親は二人とも目の前で死んでいる。少女とは、よく見ると、年だけではなく、背格好や髪の色もそっくりだ。
もし――数年の時が経ったあと、彼女と入れ替わった誰かが現れたとして、それを別人だと指摘できる人間はいるだろうか。事故で記憶を失い、ずっとどこかをさまよっていたのだとしたら。
その考えを思いつくと、歓喜で体が震えた。
何の希望もなく、ただ、父と母の恨みを晴らすことだけを胸に抱いて生きてきた人間に対する、神様からのささやかな贈り物だと確信した。
三人から売れる物をすべて奪い取り、いつもは野生動物が骨にするのに任せていたが、そのときは、慎重を期すため、死体に火をつけた。




