8-2
次の朝、ヘンドリカが朝から慌てていた。
「どうかしたんですか?」
「アンナリーズ様が見当たらないんです」
それだけではなく、部屋の中がすっかり片付けられているという。まるで、旅に出たあとのように。
それを聞いて血の気が引いた。
自殺する人間は、最後に身の回りを整理する、という説を聞いたことがある。
屋敷の周辺に、飛び降りるような場所はないが、ロープをかける程度の木なら無数にあるのだ。
探しに出る許可を得て、森へと駆け出して間もなく、登校途中のフリッツとすれ違った。
「お前もさぼりかよ。二人揃っていいご身分だな」
「二人って、誰のことです?」
「朝一の帝都行きの馬車に、制服姿のあいつが乗ってるのを見たって聞いたぞ」
あいつとは、すなわち、アンナリーズだ。
前夜のやり取りを思い返した。
自暴自棄になった彼女が取りそうな行動。
今、レーヴよりも恨んでいそうな相手。
屋敷に飛んで帰り、当主に事情を話した。
帝都行きの便は朝と夜の二度しかない。
彼の迅速な指示で、庭の端で園芸用具の物置きとして利用されていた、古い客車に、借馬がつけられた。
辺境伯も同行するという。
壊れそうなキャビンに揺られながら、重力制御で行けば良かっただろうか、とも考えた。
だが、帝都のどこにサーチャーがいるかはわからない。
そして何より、アンナリーズが無茶をするはずがないと、浅はかにもそう信じようとしていたのだ。




