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その夜は、緊張からか、あまり眠れなかった。
何度目かの目覚めのとき、外が白み始めていて、庭のあたりが騒がしいことに気づいた。
雑魚寝をする使用人たちを起こさぬよう、制服に着替えて屋敷を出ると、兵装を終えた第一陣が馬車への荷積みをしていた。
その様子に何かの違和感を覚えて間もなく、彼らのやり取りを聞いて、事情を把握した。
どうやら、テューダー男爵が雇った傭兵が、夜のうちに逃げ出してしまったらしい。
「元より、忠誠心のかけらもない、金で動くような連中に頼ろうとしたのが間違いだった」
指揮官は、あきらめたようにそう言って、残る部下に行軍準備の指示をしたが、互いに顔を見合わせた兵士たちの誰の目にも不安の色が宿っていて、隊列が整うまで、短くない時間がかかる。
下士官による覇気のないかけ声のあと、部隊が前方からゆっくりと移動を始めたとき、男爵の騎乗した、その馬の陰にアンナリーズの姿が見えて、心臓が痛くなった。
泣きそうな表情で父を見上げていた彼女は、制服姿だったのだ。
今日、学校は臨時休校だ。
もちろん、戦地へ父を送る娘として、正装の意味はあるだろう。前夜の、宰相たちの会話を聞いていなければ、悩むことなくそう解釈したに違いない。
彼女はレーヴに気づくと、目をそらせ、早足で屋敷の中へと姿を消した。
身代わりになることを、拒否などできなかったのだろう。
いや、大丈夫だ。
彼女がいるのは、もっとも警護が厳重な皇女のそばで、危険の度合いは低いはずなのだから。




