6-2
午後、太陽が半分ほどに傾いた頃、辺境伯領の貴族たちが顔を揃えた。
その子女である、士官学校の生徒たちも何人か同席しているようだ。
「この屋敷にこんなに人が入るんだな」
晩餐の準備に追われていたレーヴのそばに、フリッツがやってきた。
「帝都からの人が来たら、これの倍にはなるみたいです」
「今回の遠征、お前も行くのか?」
「まだ、指示はされてないですが。そちらは?」
そう言うと、相手は残念そうにうなずいた。
「一生、初陣なんてなければいいって思ってたんだけどな。ソーサラーだって、いい気になってたけど、これが現実だ」
戦力どころか、相手の素性すら未知の状況で、不安にならない人間などいないだろう。
「カエサルさんは……来てないみたいですね」
「知らないのか。休学したよ」
「え。そうなんですか?」
「あいつには家督を継いだ、年の離れた兄貴がいるんだけど、最近、東の国境警備隊に配置転換されたんだ。本人は寄宿舎に住み続けるっていう選択肢もあったはずだけどな」
そう言って、首を傾げたが、密告したのがカエサルなのだとしたら、転属はそのことが関係している可能性はある。あるいは、アンナリーズが逮捕されたことを耳にして、学校に居づらくなったのかも。
フリッツが去って間もなく、ワゴンを押して食堂を出たあたりで、制服姿のアンナリーズが廊下の壁を背にしていた。
「今日の会合に、出席する……んですか」
あちこちに見知らぬ大人がいる。さすがになれなれしい言葉遣いはまずいだろうと、その程度の考えだった。
だが、彼女はすぐには返事せず、しばらくしてから背を向け、首だけ傾げてこう言った。
「どうして敬語なの?今日の午後、どこかに出かけてた?」
落ち込んだ様子なのは、父親の安否を気遣っているから、のはずだが、なぜか、それだけが理由でない気がした。
「午後――は、食材を揃えるために何度か村まで行ったけど」
だが、問いかけに答えたにもかかわらず、どこか不満そうに「そう」とだけ言って、目線を下げる。
帝都からの来客到着まで、猶予がない。すぐに業務を再開したかったが、相手の気配がそれを許さなかった。
再びの沈黙のあと、彼女はまた不思議な質問をした。
「わたしに何か言うことない?」
なるほど、そういうことか。
「気づかずにごめん。明日、お父さんはきっと無事に帰還するから――」
「そうじゃなくてっ。いや、それもそうなんだけど……」
怒ったあと、また顔をそむけた。表情がくるくると変わるわけがわからない。
「……屋敷の外で、誰かと会ってたりしなかった?」
「外で……?ああ、見てたんだ」
周囲を確認し、一歩近づいた。
「彼女がルノアなんだ。前に話したことあったよね。この霊石をくれた人」
小声でそう言って、胸のあたりに手をやった。だが、相手の苛立った様子が解消しない。
「ふーん。何だか親しかったよね。だ、抱き合ってたりしてて……」
「我ながら恥ずかしい。実際にはそうでもないんだけど、すごく久しぶりに会った気がして、気づいたときにはあんな真似を――」
「わたしにはしたことないよね」
「え……。いや、だって、そんな機会なかったじゃないか――」
だが、アンナリーズはレーヴの言葉を最後まで聞かず、肩を押しのけたかと思うと、早足で離れて行った。




