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腰の水気が体温で乾き始めた頃、いつも通る村の道に出た。
屋敷が見えたとき、彼女が声を低くした。
「あの霊石をくれた人以外に、あんたがレネゲードだって知ってる人、いるの?カトリア姉様とか」
「いえ、いません」
「そう。だったら。おじさまにも絶対に言っちゃダメだよ」
「もちろん、明かすつもりは――」
「そうじゃなくて。レネゲードって言葉自体、禁句だって意味」
辺境伯の妻が獣鬼に襲われ、落命したことは聞いていたが、そのときの詳しい経緯をアンナリーズは話してくれた。
夫人が絶命の危機に瀕しているとき、村には治癒の力を持ったレネゲードが逗留していたそうだ。
カトリアを含め、従者たちは、その人間を頼ることを強く申し出た。だが、領主として、違法な力を借りることはできないのだと、彼が首を縦に振ることはなかったのだそうだ。
「傷は深かったし、屋敷に運ばれて来たときには、もう手遅れだったって、あとからお父様に聞いたけど――」
それでも、辺境伯の中に、一片の後悔もないはずがないと、彼女は声を落とした。
屋敷の前で彼女は、レーヴの背中から軽やかに飛び降り、さっさと中へと歩いて行った。途中、玄関のところで、足を止める。
「今日はホントにありがとう。命を救ってくれたこと、一生忘れないから」
そう言って、振り向くことなく、中へと姿を消した。




