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次の日から、トレーニングに使える時間が、登下校時を除いてほとんどなくなった。
代わりに得たものは二つだ。
一つは、アンナリーズからの二人称がお前から、あんたになったこと。あとの一つは、校舎の最上階にある図書館に初めて入ったことだ。
そこは上級生のフロアで、下級生が足を踏み入れることはあまりないが、昼休みも無駄にできない状況の中、アンナリーズが他の生徒にレーヴと一緒のところを見られたくないとわがままを言った結果だ。
士官学校は、歴史がそれなりにあるらしく、読書家だったレーヴの知識にないような書物も並んでいた。
重力制御について、何か参考になるものがないかと、教え子が練習問題を解く間、背表紙を眺めていると、彼女は怪訝そうな声を出した。
「あんた、本なんか読むんだ。軍人になりたいんじゃないの?」
「ええっと。どんな仕事を選ぶにしても、時間の節約になりますし」
「節約って、どういう意味?」
「本は、誰かが長い時間をかけて得た知識を要約したものですから。それを読むことはつまり、著者の経験を擬似的に追体験することになります」
「擬似的に追体験……?よくわからないけど、たくさん読みたいなら、いつか本校に行ってみるといいよ。あっちの図書館の大きさは、こことは比べ物にならないから」
「そうなんですね。それは一度見てみたいです」
流れでそう返事をしたものの、実際に本校を訪ねる機会はやって来ないのだろうなと、このときは考えていた。
日々の仕事と、実技の時間を人並みに過ごしたいという小さな野心を除けば、今もルノアとの再会が最大の関心事だったのだ。




