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結局、試験も公開問題もすべて正解だった。
そのことが、学校中はおろか、辺境伯の耳にまで伝わったことを知ったのは、それから二日後のことだ。
夕食の配膳をしていたときだった。
彼の前に皿を出したその手を、いきなり掴まれた。
「お前。計算の試験で教師よりも早く答えを出したそうだな」
「よくご存知で」
彼の隣に座っていたアンナリーズから、舌打ちが聞こえた。どうやら彼女は、数字全般が苦手のようだ。ビクトル情報では、毎回追試を受けているらしい。
「体調などに関係なく、常にその力は発揮できるのか?」
「だと思います」
「食事のあと、仕事場に来るように」
片付けを終えたあと、屋敷にきて初めて三階への階段を上った。
案内された部屋は書斎、というより執務室のようだ。壁の書棚はすべて本と書類で埋め尽くされていて、それとは別に、三つある長机の上に紙が散乱している。
彼はその中央付近に立っていたが、レーヴを見咎めると、紙を二枚手にして、近づいてきた。
「農作物の収穫量の記録だ。徴税は、生産量に応じて決めている。こちらは、行商人の売上報告だ。一割を税として集めている」
それら以外にも、道の整備や、治水にかかる費用の見積もりなど、どうやら、領地を治めることの大半の業務は、金、すなわち数字との戦いようだ。
「屋敷の雑務はもういいから、明日から私の仕事を手伝いなさい」
「一点、お願いがあるのですが」
「まさか断るつもりか」
「いえ、そうではなく。ヘンドリカさん一人では、業務が回りません。これまでの仕事はそのままに、当主様のお手伝いをさせていただくことはできませんか?」
そう言うと、彼は小さく眉を上げた。
「お前がそれで良ければ、もちろん構わんが」
登下校で、走る時間は確保できている。就寝前の訓練の時間を削れば、どうにかなるだろう。




