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リハビリ以外にも、ジルド側に言い訳があったおかげで、彼との訓練はほとんど毎夜、行われた。
朝も、これまで以上に早起きをして、木の枝を使った懸垂や走り込みを続けた結果、ようやく同年代の男子と同じくらいに木剣を振れるようになった。
座学は、元から遅れをほとんど感じることはなかったが、授業内容が計算になって、立場が一変した。
担当教官がアマンダから校長のスミスに代わる。どうやら彼は、最初に感じた印象に違わず、意地の悪い性格のようだ。
生徒たちの嫌がる顔が見たくて仕方がないらしい。
「今日の試験は、二桁のかけ算です」
「えーっ」「そんなの、使う場面ないじゃないか」
期待通りの反応だったのだろう、いやらしい笑みを隠そうともせず、試験用紙を配った。
「問題多すぎるよ」
午前中すべてを使って、たった十問だけの試験だったが、それでも、レーヴを除く生徒たちは、時間が足りないようだ。
最初の四半時で、すべてを解き終え、ひまを持て余していると、スミスが楽しそうに近づいてきた。
「あれあれ、どうしました。あきらめるには早すぎませんか?」
その言葉に、周囲で小さく冷笑が起きる。
彼はそんな反応を楽しんだあと、机の上に視線を落とし、直後にはっと息を止めた。
「君、ちょっとこっちに来なさいっ」
そう言って、解答用紙を乱暴に掴んだかと思うと、もう片方の手でレーヴの腕を引く。廊下まで連れ出されたところで、校長は目を吊り上げた。
「どうやって事前に試験問題を知ったのですっ?正直に言いなさいっ。他に仲間はいるのですかっ?!」
入り口の扉のすぐ横だ。中で生徒たちがざわつき出すのが聞こえる。
「試験問題?不正はしてませんけど」
「そんな嘘が通るはずないでしょうっ。この短い時間にすべて解ける人間なんているはずないっ」
「そう言われても……。だったら、今この場で問題を作ってもらっても構いませんけど」
そう言うと、相手は顔を真っ赤にして、早足で教室に入り、前の黒板に新たな問題を三つ、殴り書きした。
「さあ、これを解いて下さいっ。他のみなさんは、試験を続けなさいっ」
そんな命令に従う者は誰一人いなかった。
全員が正面を向き、レーヴの動きに注目している。
こんな大ごとにするつもりもなかったが――とはいえ、わざわざ間違えるのも不自然か。
仕方なく答えを書いたが、出題範囲した本人が、まだ検算の途中だった。
これだけ差がつくのは、どうやらこの能力は、レーヴが習得したものではなく、前世からの持ち越しなのかもしれない。




