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EP.8 ライブハウス

「シー!うちら出演してくれないか?って」

「急に何の話?」

 学校を終えて、ポスティングのバイトを終えたポンズはシーに電話した。夕暮れの松山の街に、オレンジ色の光が差し込んでいる。

「ほら、シーのギター買った日に会った、あの男の子たちの、ライブによ。連絡先交換してたんよ。チケット代のこと聞いたら、出てくれるんやったらいらんよ~だって」

「あの銀髪のドラムの子来るんよね?」

「そ!うちらもあの子の演奏を見極めて、うちらの演奏も見せつける。ちょうどええやん」

「うち、エレキの引き換え日まだやけど」

 シーはいつも突発的にものごとを決めるポンズに少し慎重気味になった。新しいギターの引き取りはそのライブの翌日だった。

「前、三人で路上でやったようにやろうや」

「え?あんな自己中なセッション見せつけんの?」

 ポンズは電話の向こうで笑った。

「あっはは、さすがに自重するけん」

「なんか、たくらんでんの?」

 シーの勘は鋭い。

「え?いやいや、シーやカグラちゃんの時みたいに絶対誘っちゃろうなんて、まだ考えてないで」

「ねぇポンズ」

「うん?」

「うちもカグラちゃんも、ポンズの衝動的な勢いで声かけたかもしれんけど、今は三人なんやからね」

 ポンズはハッとした。バンドは自分だけのものじゃない。ポンズとシーとカグラのバンドなんだ。フレイミングパイはみんなで作り上げていかなくてはいけない。

「うん、そうやな、わかってる。勝手には決めんけん」

 ポンズは練習の約束などを交わし、カグラにも連絡した。


 ポンズが声をかけたバンドが行うライブは、ライブハウスを借りて、仲間内だけで楽しもうとするものだった。彼らのバンドは、通っている大学の仲間やバイト先で知り合った友人と結成したようだが、就職活動に向け解散することになったらしい。ドラムはすでに家業を継いで、県外の実家へ帰ったという。そして、知人の伝手で繋がったのが、ポンズが目をつけたドラマーというわけだ。

 ライブは彼らと後輩バンドが二組で、彼らの解散ライブ、後輩バンドの初ライブを行うという。出演者やライブを聴きに来る仲間たちのほとんどが、路上でのシーを知っていて、みんな楽しみにしているらしい。


 ライブ当日、リハーサルもあるということで、ポンズたちは楽器を携え、ライブハウスに早めに着いた。

 松山のライブハウス「ROCK STEADY」は、古い倉庫を改装した小さな箱だ。入り口には手書きの看板があり、中に入ると独特のカビ臭さと機材の匂いが混じり合っている。

 初めてのライブハウスの雰囲気に、ポンズとカグラは緊張した。薄暗い照明、むき出しの配管、黒く塗られた壁。ステージには大きなスピーカーが鎮座し、マイクスタンドが何本も立っている。

「みんな、今日はほんとにありがとう。真白さんの歌が聴けるなんて、ええ思い出になるわ」

 楽器店でも会った、本日主催のバンドのリーダーがポンズたちに挨拶した。彼は髪を金色に染めた、いかにもバンドマンという風貌の青年だった。

 ポンズとカグラにとっては、ライブハウスは初めてである。カグラは当然だが、祖父の音楽仲間とのライブ経験があるポンズは川沿いステージとか、小さな集会所でしか経験がない。

 「やあ、詩音ちゃん久しぶりやね。バンドになって戻ってくるなんて思いもせんかったよ」

 ライブハウスのオーナーがシーに声をかけた。シーは数回ここのステージに立ったことがあり、オーナーやPAのスタッフとは中学生の頃から顔見知りである。それがきっかけで、オーナーが市に申請をしてくれて、路上ライブができている。

「今日、演奏してくれる後輩バンドの子らです」

 主催バンドのリーダーが、後輩バンドの二組を紹介した。

「初めまして、真白さん、何度か路上ライブ見させてもらってます」

「わたし、ファンです。CDも持ってます。握手してください!」

 今日、初ライブの二組は男の子の学生バンドと女の子の学生バンド、ほとんどがシーのことを知っていて、シーに握手や写真を求めた。

 シーは照れながらも、丁寧に応じている。

「シー、ほんまにすごいな。うち、声かけてよかったんやろか」

「今さらやね」

 カグラはポンズににこやかに返した。

「みなさんは大トリお願いしていいですか?」

「いや、逆にいいんですか?みなさんがメインなのに」

 シーが恐縮した。

「もちろんです。路上でみなさんの実力はみんな知ってますから」

 どうやら三人の自己中セッションも見られているらしい。

「そういえば、ドラムの人は?」

 ポンズが尋ねた。

「あぁ、宝来さんならライブの時間には来てくれます。今は別のとこで叩いてるんやないですかね」

「ホウライ…?」

宝来鈴愛ほうらいれあさん、まだ16くらいやのに、貫禄あるでしょ。ほうぼうでドラム叩いてるみたい」

「へぇ~」

 あちこちで声をかけられるんなら、腕前は申し分なさそうだ。

「なんで、決まったバンドに入ってないんやろね」

 ポンズたちはふと疑問に思った。

「あぁ~、本人曰く、前おったとこクビんなったって言ってました。理由は知りませんけど」


 ポンズたちは、隅でリハーサルを聴きながら、自分たちの番を待っていた。後輩バンドも彼らのバンドも、お世辞にも上手な演奏ではないが、仲間の温かさが感じられるまとまりがあった。

 控室として使われている小さな部屋で、三人は最後の打ち合わせをして立ち上がる。

「よし、うちらも行くか」

 上手にシー、下手にポンズ、中央奥でカグラという位置でセッティングを始める。シーは父が取り付けたピックアップがついたヘッドウェイHMJ-WX、ポンズはヘフナーのヴァイオリンベースHTC-500、カグラはFernandes RST-50、それぞれケーブルをアンプにつなぐ。

「カグラちゃん、やっぱそのストラト系もかっこいい!それに鮮やかな青!」

「うん、練習で両方使い分けとったけど、3系統の方が、なんかあってもどうにか対応できるかなって思って、今日はこっち持ってきた」

 三人は先にやったバンドの音量を基準に、音合わせをしていくが、シーのギターがハウリングを起こしてしまう。

「詩音ちゃん、上手にいるから、前のモニターを少しずらして、なるべくスピーカーは背にしてみて。あとはこっちでEQ調整して様子見ましょう」

 シーの顔見知りのPAさんが、指示を出してくれた。ポンズはその様子を見ながら少し感激をしていた。

「これかぁ、ステージをみんなで作り上げてる感!ステキやん!」

「みなさん、バンド名は?」

 ポンズが胸を張って、声を上げる。

「はい!フレイミングパイです!」


 ライブハウスが開場された。観客は出演するバンドの友人たちがほとんどだった。

「え?真白詩音出演すんの?ラッキーすぎる!」

 などと、歓声が上がっている。

「ワクワクしてきたぁ」

 ステージ袖近くの楽屋にいたポンズはシーとカグラに、ウキウキしながら語りかける。

「ポンズってベーシストって感じじゃないよね」

 シーはそう言ってポンズをからかうが、しっかり土台を支えようとする演奏ができることはわかっている。

 そうこうしているうちに、ライブが始まり、初ライブの二組は初々しい演奏を終えた。

「困ったな、宝来さんがまだ着いてないんよ」

 メインバンドの一人がやきもきしている。

「うちら、先にやりましょうか」

 シーが提案する。

「うーん、俺らより場数踏んでる真白さんを先になんて…」

「遅くなってごめんなさ~い」

 ついに現れた銀髪の助っ人ドラマー、今日も身体中のアクセがチャラチャラ揺れている。

「あ、ほんとに真白詩音ちゃんがいる~。会えて嬉しい」

「どうも」

「今日出てくれるんだって?真白詩音ちゃんとフレイミングパイのみなさん」

「いやいや三人でフレイミングパイでやらせてもらってます」

 ポンズが芸人のようなノリで反論する。

「え~?表に書いてたよ。”緊急参戦!真白詩音withフレイミングパイ”って」

「なぬっ!」

 ポンズは主催のバンドメンバーを睨んだ。

「ごめーん、ホントの勘違い、真白さんで客を引くためでは決してなく…」

「あっはっは~じゃあいきましょか」

 彼女らと本日のメインバンドはステージへと向かった。

「ぶっつけで叩くんか。うちらも客席から見よう」

 ポンズらは客席へ移動し、目立たないよう後方へと移動した。


登場人物

フレイミングパイ

光月寛奈みつき かんな15歳(高1) ポンズ Vo. &Ba.

真白詩音ましろ しおん15歳 シー Vo. &Gt.

神楽坂奏多かぐらざか かなた15歳(高1) カグラ Gt.

助っ人ドラマー

宝来鈴愛ほうらい れあ16歳


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