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EP.7 シーのギター

 日曜日、ポンズ、シー、カグラは、松山から離れ、隣町の大きなショッピングモールに来ていた。

 ここには、大手の楽器店があり、シーのエレキギター探しの幕開けである。

「ドラマーとシーのエレキギター、一緒に見つかったらええのになぁ」

 ポンズはショッピングモールを歩きながら、つぶやいた。

「ドラムやります、みたいなんが掲示板に貼ってあったらええのにね」

 カグラは同調した。

「シー、お金はどんくらい出せるん?」

 ポンズがシーに今日の軍資金を尋ねる。

「まぁ、CD売ったり、ライブにゲスト出演したり、バイトして、コツコツ貯めたお金があるんやけど、15くらい。母さんにも少しもらったから18はある」

「え!それは万ですか?ねぇ?万ですか~?」

 ポンズが大げさに驚く。

「やめて」

 シーはいつものように一刀両断した。

 楽器店に近づくと、ガラス張りのおかげで店内がよく見えた。壁一面にギターが並んでいる光景に三人とも圧倒された。アコースティックギター、エレキギター、ベース、そして奥にはドラムセットも展示されている。

「すごい数…」

 カグラが呟く。

「シー、どんなギターが欲しいん?」

「そりゃあ、音がよくて、見た目も可愛くて…」

「可愛いって、ギターに可愛いとかあるん?」

 ポンズがからかうような口調で言う。

「あるよ!色とか形とか」

 シーは真剣な表情で答えた。ふりふり衣装が嫌なくせに、カタカナ表記が可愛いとか、ギターが可愛いとか、シーの可愛いの前提がよくわからないポンズであった。

 シーとカグラが店内に歩み寄ろうとしたが、ポンズは楽器店のすぐそばがペットショップだということを察知していた。

「シー!カグラちゃん!ちょっと癒されに行きません?」

「ちょっと、何しに来た思とんよ!」

 シーが呆れた声を出す。

「ええやん、せっかくなんやけん、ちょっとだけ!」

 結局、三人はペットショップで、子犬や子猫を見て、溶けていた。一応、シーも子猫や子犬は可愛いと思うらしいとポンズは安心した。

「かわいいな~」

「この子、めっちゃこっち見てる~」

「あ、この猫、シーに似てへん?」

「どこが!」

 そして、ポンズとカグラは犬派で、シーが猫派ということがわかった。

「やっぱシーは猫っぽいもんな」

「なんでや」

「ツンデレやし」

「やめて」

 ようやく、本題である楽器店でのシーのエレキギター探しが始まった。

「うおおお!これは!」

 ポンズが大声を上げる。

「どした!」

「リッケンバッカーのベースがあるよぉ!」

「ベース見に来たんじゃないやろ!」

「左!左利きのはないのかあ!」

「やれやれ」

 シーが呆れる。

「カグラちゃん、何がおすすめ?」

 シーはポンズはほっておいてカグラに尋ねた。

「こればっかりは、さっきもシーちゃんが言うたように自分が好きな見た目のものがええと思うよ。わたしは青が好きだったから今のを選んだし」

「見た目、色…確かに、うちはまだエレキの良し悪しはわからんしな」

「シーちゃんは、アコギ好きでしょ。セミアコって手もあるんやない?」

「セミアコ?」

「そう、こういうの」

 その時、シーの目に飛び込んできたのは、真っ赤なギブソンES-335というカグラの言うセミアコタイプだった。

「これ…いい」

 シーは一目惚れした。優美な曲線、鮮やかで深みのある赤色、そしてヴァイオリンのようにFホールが開いている構造と、アコギとエレキの中間のような存在感に惹かれた。

 しかし値段を見て、さすがのシーも驚愕した。

「ご、ごごご50万?」

 シーは膝から崩れ落ちた。

「シーちゃん!大丈夫?」

 カグラが心配そうにシーに声をかける。ポンズはそんなシーに気づいて、

「シー、こっち見てん」

 ポンズが指差した先には、ほぼほぼ同じ見た目で、そっくりなギターが7万8千円で売っている。

「え?」

 シーは驚いて、ポンズに詰め寄る。

「なんで?なんで?なんで?」

 シーの新鮮な反応に驚きつつ、ポンズは説明した。

「ギブソンやしなあ、材とかパーツとか、塗装とか、工程とか、アメリカの工場で手作業も多いし、材もパーツも高級なんやけど、こっちはアジアの工場生産やし、材もパーツもちょっと安いからと違うかな」

 シーは感心して聞いていた。

「でもこれ、見た目ほぼ一緒やん」

「音は違うと思うで」

「どう違うん?」

 店員を呼んで、ポンズが二つのギターについていろいろ聞いている。

「さっきのより少し高いけど、国産エレキも同じ型のがあるし、音も遜色ないらしいで。シーのアコギも国産やし、国産で揃えてみる?」

 ポンズは再び店員さんを呼んで、シーの持ってるギターについても話し、またいろいろ聞きだした。それを見て、シーはつぶやいた。

「ああいうところが、ポンズのいいとこなんよな」

「うん、羨ましいです」

 カグラもうなずいた。

 店員がシーのもとにやってきて説明してくれた。

「今、ヘッドウェイのアコギを持ってるというなら、ちょうどいいのがありますよ!ヘッドウェイのギターを作ってる株式会社ディバイザーが手がけるブランドのセブンティセブンギターです」

 店員は続ける。

「Japan Tune-Up Seriesと言って、海外の厳選された工場で製造されるんですが、国内のワークショップで職人さんがヘッドウェイの培った技術で最終的な調整を施すことで、価格を抑えているんです」

 店員は展示してあるギターとは別に、奥から、ちょうど入荷したばかりのギターケースを持ってきた。

「ちょうど昨日入荷したんですよ、あのES-335とはちょっと異なりますが、赤いギターですよ」

「え?いくらですか!?」

「17万6000円です」

 シーの目が輝いた。予算内だ。

「買いま…」

「もう一声いきましょうよ!この子は将来有望のシンガーなんですよ!」

 ポンズが割って入って、値切りの交渉に出た。店員は苦笑いをしている。

「わかりました。お待ちください」

 店員は奥へ引っ込んでいった。

「何よ、足りたのに」

「少しでも値切って、エフェクターとか、ケーブルとか、これから必要になるよ」

 店員は戻ってきて、金額を提示する。

「16万5,000円で、お好きな弦とストラップとピックをおつけしますが、どうでしょう?」

 シーはポンズの顔を見た。ポンズは満面の笑みを浮かべている。

「そ、それでお願いします!あ、試奏はできませんか?」

 シーは店員へ尋ねた。

「お買い上げのギターは、入荷したばかりで店舗での検品が終わっていません。品質は申し分ないので、細かい調整は必要ないと思いますが、一応うちの方針でもあるので、検品後のお渡しとなります。試奏でしたら色違いのものがありますよ。なんならギブソンのES-335と弾き比べてもいいですよ」

「なんですと!?」

 シーはおかしな声を上げる。カグラも目を輝かせた。

 三人は個室スタジオに案内され、そこで音出しを行った。ゲインやドライブの調整をカグラに教わりながら、シーは初めてのオーバードライブの音を心ゆくまで楽しんだ。ギブソンES-335の音は確かにすごかった。深みがあって、温かい音色。しかし、シーの選んだセブンティセブンのギターも遜色ない。むしろ、シーにはこちらの方が、ネックの太さもちょうど良く、扱いやすく感じられた。

 シーの選んだギターはセブンティセブンのEXRUBATO-CMT、店員の言ったようにJapan Tune-Upシリーズもので色はT-REDトランスペアレントレッド、ギブソンのES-335のチェリーとは異なり、少し黄色がかかったような明るい赤色で、メイプル材の虎杢が透けて見えて美しい。シーはとても気に入った。

「うち、これに決めてよかったわ。軽いし、生でも音鳴るし、アンプの調整によってギターの音色も変わるし、特に赤色が可愛い!おもろいなエレキギター!カグラちゃん、弦とかケーブルのこと教えて!」

 嬉しそうなシーを見て、ポンズもカグラも笑顔になった。シーは、弦とストラップ、ピックを選択し、余った予算でカグラに教わったケーブルも購入した。

 購入の手続きをしているとき、店内のスタジオから練習を終えたバンドが出てきた。いかにも遊んでいる感じの男の子のバンドだった。

「ほんじゃ、本番の日もお願いしまーす。」

「は~い、まかせといてな~」

 そんな遊んでいる感じの男の子のバンドの中で、一人だけ雰囲気が違う女の子がいた。男の子たちはその女の子に何やら色々お願いをして、店を出て行った。女の子はいかにもバンドマンの服装だが、両手首、両手の指、耳のピアス、首、ベルト、至るところにアクセサリーを身につけている。銀色の髪を後ろで一つに結び、切れ長の目が印象的だった。

「なんかすごい人らおったなぁ」

 出て行ったさっきのバンドを見ながら、ポンズがシーに言った。

「ライブハウス行ったら、あんな人らばっかやで」

 シーが答える。カグラはなぜか青ざめて怯えていた。出て行ったバンドを目で追っていたポンズは気がついた。

「あ、あの女の子、スティック持っとる」

「じゃ、ドラマー?」

「ええ?声かけるんやないやろな」

「でも、なんかさっきの男の子らの仲間って感じせんかったやん、助っ人的な何かやない?」

 確かに、他のメンバーとは明らかに違う雰囲気を纏っていた。

「あ、ポンズ!」

 ポンズの行動は早い。さっきの男の子のバンドを追って店を出て行ってしまった。

 シーは手続きをし、お金を払って、ギターの引換券をもらった。そうこうするうち、ポンズが戻った。

「ねぇ!あの人ら、来週松山のライブハウスで、何組かのバンドでライブするんやって。仲間内の思い出ライブやからってチケットも安い。んで、ドラムの人はやっぱりその日の助っ人やって、もうおらんかったけど」

「たいしたもんやわ、ポンズ」

「気さくな人らやったで、ライブ楽しみやわ」

「え?行くの?」

「シーのこと、あの人ら知ってたよ~、ほら」

 店の外では、さっきのバンドメンバーらが手を振っている。シーはちょこんと頭を下げた。

「また来週~!」

 男の子たちは去っていった。

 店の外で、今度は黄色い歓声が上がった。今度は中学生か高校生くらいの女の子たちがシーに手を振っている。

「シーすごいな。人気あるんやな」

 ポンズが言うと、シーはまた頬を赤らめて外に手を振った。外ではまた歓声が起こっていた。

「シーちゃんってほんとにすごいね。こんな人とバンドできるなんて…」

 カグラも感心したように呟いた。

 三人は夕暮れの中、楽器店を後にした。

「エレキギター買っちった…」

 そうつぶやくシーの手には、一週間後に受け取れるギターの引換券が握られていた。

「来週、ライブハウス行こな」

 ポンズがシーの顔を覗き込みながら言った。

「うん、まあええか」

 シーが微笑みながら答える。

「ドラマー、見つかるとええね」

 カグラもにこやかに言った。

「ご飯食べて帰ろか」

 三人はショッピングモール内のレストラン街へ向かった。フレイミングパイのメンバー探しは、もう少し続く。

登場人物

フレイミングパイ

光月寛奈みつき かんな15歳(高1) ポンズ Vo. &Ba.

真白詩音ましろ しおん15歳 シー Vo. &Gt.

神楽坂奏多かぐらざか かなた15歳(高1) カグラ Gt.

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