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PONZ! ~ポール・マッカートニー大好きっ子が、路上ライブのシンガー、内気な天才ギタリスト、アクセ好きドラマーとバンドを組んだ話~  作者: 文月(あやつき)
第3部

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32/42

EP.29 オンエア!

 四月下旬、晴天の土曜日。一台のハイエースが松山市内のFM系列マツヤマ放送局に向かっていた。

 近くにはテレビ局もあり、この一帯はちょっとした放送局エリアになっている。

「あ、あの電波塔!」

 ポンズが声を上げた。テレビ局の敷地から空に向かって伸びる電波塔。正月の初詣の時、最寄りの駅でみんなを待っている間、ずっと眺めていた塔だ。

「あの時うち、あの電波塔見て、初詣で自分たちの音楽が電波に乗りますようにってお願いしたんよ」

 感慨深げにポンズが言うと、シーが笑った。

「うちの紹介した神社、なかなかのご利益やな」

 テレビ局の前を通り過ぎ左折すると、ラジオ局が見えてきた。

 ラジオ局は、外観からは何階建てかわからないようなビルだった。大きな円形と小さな円形の窓ガラスが目を引き、壁に「FMマツヤマ」のロゴが装飾してある。建物の前はちょっとした駐車スペースになっており、愛未はそこへハイエースを停めた。

 スライドドアが開くと、にこやかにポンズ、シー、カグラ、レア、フレイミングパイの四人が颯爽と降りてきた。

 運転席から愛未、助手席からヤマケンも車から降りた。楽器や機材を積んでいないおかげで、いつものレンタルしたハイエースに六人でゆったり乗ってくることができた。

 愛未の先導で、ラジオ局の建物に足を踏み入れる。ひと月前に、マツヤンプロジェクトの「カモンマツヤン」にゲスト出演のために来て以来だ。

「また来れたねー!」

 ポンズが目を輝かせてキョロキョロしている。エントランスには歴代の番組ポスターが飾られ、どこからか音楽が流れている。

「ゲストの時より緊張するかも……」

 カグラが呟く。

「今度は自分らの番組やもんね」

 レアが頷いた。

「わかっとるって! でもラジオパーソナリティデビューやよ? テンション上がるやん!」

「完全に番組仕切るわけやないんやろ?まだ」

 シーが突っ込む。

「もう、細かいなあシーは」

 愛未が受付で手続きを済ませ、一行は会議室へと案内された。


          ◇


 会議室には、二人の人物が待っていた。

 一人は、以前フレイミングパイがゲスト出演したマツヤンドリームセッションで、レアの兄ショータと共に司会進行をし、ゲスト出演したラジオではパーソナリティを務めていた近藤エリカである。

 近藤は二十代後半、愛未とはほぼ同年代で、明るい茶色のボブカットに、華やかな笑顔で親しみのある女性だ。

 もう一人は五十代前半の男性。穏やかな目元に、少し白髪の混じった短髪。着古したチェックのシャツがラジオ局らしい雰囲気を醸し出している。

「みんな、久しぶりー!」

 近藤エリカが手を振った。

「エリカさーん! ご無沙汰してまーす」

 ポンズが嬉しそうに駆け寄る。

「元気しとった? 番組決まってから、楽しみにしとったよ」

「はい! またエリカさんに会えて嬉しいです!」

 シーも気さくに声をかけた。

「カグラちゃんもレアちゃんも、元気そうやね」

「エリカさんがおってくれたら心強いです」

 レアがそう言う横では、カグラも表情が和らいでいた。


 男性が立ち上がり、愛未に声をかけた。

「さとうさん、お久しぶりです」

「シゲさん、随分とご無沙汰してます」

 愛未が頭を下げる。

「さとうさんがシンガーソングライターやっとった頃、何度かうちの番組に出てもらいましたよね。もう七、八年近く前になりますか」

「そうですね、懐かしいです」

「もうちょい前は、STEADY BEATにもよくゲストに来てもらったし、局主催のライブにも出てもらったなあ。岩田さん、田中さんと、お仕事したんでしょ?お二人ともお元気そうですね?」

「はい、岩田さんも田中さんも、別の道で元気で頑張ってますよ。岩田さんとはライブハウスを一緒に経営しています。田中さんは先月レコーディングでお世話になりました」

「ええ、聞いとりますよ。で、さとうさんがマネージャーやっとるバンドがこの子らか」

 シゲさんと呼ばれた男性は、目を細めて四人を見た。

「初めまして、ディレクターの重松孝(しげまつたかし)です。シゲさんって呼んでね」

 四人は挨拶をした。

「初めまして、真白詩音、シーです。 ボーカルとギターです。」

「光月寛奈、ポンズです! ベースとボーカルとかコーラスもします。 よろしくお願いします!」

「か、神楽坂奏多、カグラです。ギターです。よ、よろしくお願いします」

「宝来鈴愛、レアです。ドラムっス。よろしくお願いします」

 重松は一人一人の顔を見て、うんうんと頷いた。

「元気があってええねえ。ゲストの時の聴いとったけど、ラジオ向いてる思っとったんよ」


          ◇


 全員が席に着き、打ち合わせが始まった。

 重松がいくつかの資料を配る。

「まず、放送枠やけど、毎週金曜日の夜十時半から十一時。三十分番組になります」

「深夜…って感じでもなかったな」

 レアが言う。

「金曜やから、若い子も聴きやすいんとちがう?ちょうどええと思う」

 シーがそう返すと、ポンズらもうんうん頷いた。

「四月改編には間に合わんかったけど、異例で五月からスタートすることにしたんです」

 近藤が補足する。

「中四国ツアーに合わせて番組持てるのは大きいけん、頑張ってね」

「はい!」

 四人が声を揃えた。

 重松が次の資料を示す。

「で、番組内容やけど、局としてはこういう案を考えとります」

 資料には「フレイミングパイのロックDEナイト(仮)」と書かれていた。

 内容は「音楽についてのトーク」「リスナーの悩み相談」「新曲紹介」など。

「……」

 四人の反応が薄い。

「どう?」

「あの、シゲさん」

 ポンズが手を挙げた。

「もっとこう、わちゃわちゃした感じにしたいんですけど」

「わちゃわちゃ?」

「なんていうか、うちらっぽい感じ? 決まったことやっていくんやなくて、わいわい自由にしゃべる感じにやりたいなって」

 重松は顎に手を当てて考えた。

「なるほどねえ。確かに、それが君らバンドの雰囲気出ててええけど」

「リスナーからの質問だとか、お題とかテーマもらって、それについてしゃべるって、どうスか?」

 レアが提案した。

「テーマに沿ってのしゃべりか。収録やしええかもね」

「じゃあ、放送前に質問やテーマを募集しましょうか? うちらのSNSで呼びかければ集まると思います」

 ヤマケンがスマホを取り出しながら言った。

「さすが山田くん、私はそういうの疎いのよね」

 愛未が頷く。

「番組用のアカウントもさっそく作ってるんですよ! 私もサポートします!」

 近藤が言った。


「あと、番組名なんやけど」

 重松が資料を指差す。「フレイミングパイのロックDEナイト」の文字。

 メンバーは微妙な顔をしている。

「これ、なんか……なあポンズ」

 シーがぼそっとポンズに言った。

「うん、ダサいな」

 ポンズははっきり言った。

「はっはっは、いやいや仮やから、てきとうに書いとるだけやけんね。みんなで決めてええよ! 『フレイミングパイのなんとか〜』みたいな感じで」

 重松が提案すると、四人は顔を見合わせた。

「フレイミングパイの……なんやろ、みんな適当に言うてって」

 シーが仕切りだすと、レアが一番に手を挙げた。

「はい、レア」

「フレイミングパイのイナズマロック!」

「そういう名前のフェスあるよ…はい、ポンズ」

「フレイミングパイの金曜から夜更かし」

「そんなテレビ番組あんで…金曜、別に夜更かししてもええやろ! はい、カグちゃん」

「フ…フレイミングパイのドキドキタイム……」

「あはは、カグちゃん、かわいいな、でもうちららしくはないかな……」

「シーは?」

「えー? う〜んと、フレイミングパイのブラックフライデー?」

「シーちゃん、それは十一月のアメリカの感謝祭の翌日の金曜のことで、最近は安売りの宣伝でよく言うやつ……」

 カグラが指摘すると、シーは真っ赤になった。

 ポンズはそんなシーを笑いながら、またしても手をあげる。

「はい!フレイミングパイのパイパイラジ…」

「やめて」

 すかさずシーが却下した。


 なかなか決まらない。

 ポンズがうーんと唸りながら、ふと思いついたように言った。

「シーポンカグレアは?」

「は?」

 全員が振り向いた。

「シー、ポンズ、カグラ、レア。繋げたらシーポンカグレアやん」

 一瞬の沈黙の一同。

「シーポンカグレア?」

「シーポンカグレアって…」

「シーポンカグレアか…」

「ホラ、もう、みんな、言いたなっとるやん」

「シーポンカグレア……意外と語呂というかリズムがええな」

 シーが呟いた。

「フレイミングパイのシーポンカグレア!……ぷっ、なんじゃそら」

 レアが吹き出す。

「呪文みたいで、可愛い気もする……」

 カグラも気に入ったようだ。

「可愛い?…ま、誰の真似でもないし、ええんちゃう?」

 シーがそう言うと、

「ほんなら、『シーポンカグレア』で決まり?」

 重松が確認すると、四人とも頷いた。

「よっしゃ、ほんならこれでいこう」

 重松がそう言うと、エリカが手を叩いた。

「いい名前! 呼びやすいし、四人の名前入っとるし、何よりみんならしい! 魔法少女の呪文って考えたら可愛いし、完璧!」

 みんなも手を叩いたが、可愛いと言われて、微妙な顔をしていたのはシー、ということは言うまでもない。


          ◇


 五月に入り、収録当日を迎えた。

 四人はスタジオに入った。防音の分厚いドアを抜けると、調整室とスタジオの二つの部屋に分かれている。

 調整室には重松と技術スタッフが陣取り、ミキサーやモニターが並んでいる。ガラス窓越しに、スタジオの様子が一望できた。

 レコーディングスタジオに似てはいるが、スタジオには中央にテーブルが鎮座しており、テーブルの上にはアームで固定されたマイクが人数分準備されている。

 マイクには、ボーカルを録った時と同じように、ポップガードまで施してある。ヘッドフォンも人数分あり、マイクをオン・オフできるカフボックスもある。椅子は回転式で、座り心地が良さそうだ。

 壁には防音材が張られ、時計とオンエア中を示す赤いランプがある。窓のないその空間は、外の世界から完全に遮断されていた。

「やっぱり……緊張する……」

 カグラは相変わらずオロオロしている。

 ポンズは正反対に相変わらずウキウキ気分で機材を見渡している。

 シーは比較的落ち着いていた様子だが、ポンズ同様機材に興味がある様子だ。

 レアは前回と同様、ガチガチのカグラをなだめながら自分を落ち着かせている。

「うち、絶対噛む……」

「は〜いカグラちゃん、息して」

「息してるよ……多分……」

 エリカが四人の前に立った。

「大丈夫、私もおるけん。詰まったらフォローするし、言い間違えても収録やけん撮り直せる。リラックスしてね」

「はい……」

「ほんじゃ、始めよか!」


 ディレクターの重松がガラス越しにサインを出す。

 調整室の照明が少し落ち、スタジオ内の赤いランプが点灯した。

 全員の表情が引き締まる。

 収録開始。


「FM系列マツヤマ放送局から毎週金曜夜十時半にお届けします、フレイミングパイの……シーポンカグレア! パーソナリティはわたくし近藤エリカと、フレイミングパイのメンバー、今夜は四人全員でお届けしまーす!」

 エリカの明るい声でオープニングが始まった。

「まずは自己紹介からいきましょう。シーちゃんから!」

「はい、ボーカル・ギターのシーです。よろしくお願いします」

「続いてポンズちゃん!」

「はいはーい! ベースのポンズです! よろしくお願いしまーす!」

 ポンズは絶好調だ。

「カグラちゃん!」

「え、えっと、ギ、ギターのカグラ、です……よろち、よろしく、お願い、します……」

 盛大に噛んだ。カグラの顔が真っ赤になる。

「緊張しとるねえ、大丈夫大丈夫!」

 エリカがすかさずフォローする。

「最後はレアちゃん!」

「ドラムのレアです。よろしく!」

「では、全員で〜」

「フレイミングパイです! イエー!」

「はい、息ぴったり! 今夜は記念すべき第一回放送です! 最後までお楽しみくださーい!」

「イエーイ!!」

 

          ◇


 番組は順調に進んでいった。バンドの近況、中四国ツアーの意気込み。近藤が上手くリードしてくれるので、四人も徐々にリラックスしてきた。

 そして迎えた質問コーナー。以下、突然の書き起こし形式で、そのわちゃわちゃぶりを見ていこう。


近藤「さて、ここで事前に募集していました質問コーナーにいきましょう!」

四人「イエー!」

近藤「たくさんの質問、ありがとうございました! えーと、どれどれ……あのね、質問、シーちゃんへのものがすごく多いんですよ」

シー「え?」

近藤「たとえば、シーちゃんの好きな食べ物は?とか シーちゃんの休日の過ごし方は?とか シーちゃんの好きなタイプは?とか、ほら見て」

ポンズ「すごいなシーへの質問ばっかりやん!」

近藤「シーちゃん人気者やねえ」

カグラ「そ、そういえば、街におっても、シーちゃんいろんな人に声かけられたり、手振ってもらったりしてた…」

レア「あ、そうそう、うちがバンドに入る前、ライブハウスの出演者の掲示にさ、『真白詩音withフレイミングパイ』って書いとったやん」

ポンズ「ああ!あったあった、思い出したわ」

レア「うちがそれ指摘すると、ポンズが『いやいやいや三人でフレイミングパイでやらせてもらってます』ってな! あれおかしかったわー」

シー「ポンズ、ときどき芸人さんみたいやもんな」

ポンズ「うち、小さい時から、家族とお笑い見るやろ? で、自分の部屋に帰ったらベースする。またお笑い見る、ベースする、そういう生活しとったから」

シー「いや他にあるやろ」

ポンズ「思い当たりません」

全員 爆笑

カグラ「自分も、似たようなものかも…部屋でずっとギター弾いてたから……」

レア「うちも、部屋こもったら消音パッド、ひたすら叩いてたな……」

シー「確かに、曲、自分の部屋でひたすら書いてた……」

ポンズ「バンドマン、部屋こもりがち〜」

四人 爆笑

近藤「あのう〜そろそろ質問コーナー行っていい?」

四人「すみません…」

近藤「ラジオネーム、キラキラ星さん、シーちゃん、好きな食べ物教えてください!」

シー「えーと、なんでも食べるよ……これっていうのは特にないかなあ……」

ポンズ「シー、前にお母さんの炊き込みご飯好きやって言ってたやん」

シー「ああ、言ったな。それが好き!」

ポンズ「あとシーは朝ごはんにパン派か、ご飯派かっていったら、確かパン派なんですよ」

シー「まあ、パンやな」

ポンズ「パンにマーガリン塗って、その上にジャムも塗るっていう贅沢派で」

シー「それ、いる?」

ポンズ「シーが特にないとか言うから、うちの助け舟やん! リスナーさんは膨らんだ話が聞きたいんよ!」

シー「それはそうやけど……本番中ダメ出しやめて」

近藤「ふふふ、続いていきましょう。ラジオネーム、シーちゃんLOVEさん、お休みの日は何をして過ごしてますか?」

シー「えーと、曲作り……」

ポンズ「シーは休みの日、朝からランニングして、午後は作曲して、夜は読書するんですよ。で、本開いたまま絶対寝落ちするんです」

シー「なんで全部知っとるん」

ポンズ「シーのことならなんでも知っとるよ、うち」

シー「怖いんやけど」

全員 爆笑

近藤「あ、これは全員に答えてほしいですね、ラジオネーム、松山の薔薇さん、好きなタイプを教えてください! シーちゃんからどうぞ!」

シー「え?それは……パスで」

近藤「じゃ、後でね、ポンズちゃーん」

ポンズ「えーと、背が高くて、優しくて、ギターが弾けて、ベースも弾けて、ピアノもドラムもできて、歌が超うまくて、作曲できて、タレ目が素敵で、元ビートルズで…」

レア「ポール・マッカートニーやないかい!」

ポンズ「正解!」

近藤「……レアちゃーん」

レア「YOSHIKI様!」

ポンズ・シー「誰?」

レア「え?知らんの?うそや! X JAPANやで! サイコーやん、あのドラム!」

シー「ああ、はいはい、でも、好きなミュージシャン言うやつやったっけ?」

近藤「もう、それでもいいよ〜、カグラちゃーん」

カグラ「シーちゃん、ポンズちゃん、レアちゃん…です」

三人「照れるやん」

ポンズ「カグラちゃん、うちも大好きやで〜!」

近藤「ひと回りしたので、シーちゃん!」

シー「え! え〜と…夢に向かって頑張ってる人かな……」

ポンズ「はい! 正解出ました」

レア「うん、それ以上の答えはないな」

カグラ「うん…」

シー「えー、なんなんよそれ、うちだけ恥ずかしい目合うてるやんか!」

近藤「シーちゃんが真っ赤になったところで、終了〜! それにしてもポンズちゃん、シーちゃんのこと詳しいねえ。このコーナー、『教えてポンズ先生』にしよっか!」

レア「教えてポンズ先生! ええやん!」

シー「やめて」

ポンズ「では、シーのことは何でもこのポンズ先生に聞いてください!」

シー「やめてって言っとるやん」

ポンズ「やめません!」

レア「シー、諦め」

近藤「もちろん、シーちゃんだけじゃなく、カグラちゃんやレアちゃんのこと、バンドのこと、その他なんでも、ポンズ先生に聞きたいことを募集します!」


          ◇


 番組の終盤、中四国ツアーの告知に入った。

「さて、ここでフレイミングパイから大事なお知らせです!」

 近藤がシーに振る。

「はい。フレイミングパイ、今月、五月から中四国ツアーを開始します」

「おおー!」

「まずは五月のゴールデンウィーク明けに香川からスタート。その後、高知、徳島、広島、淡路と回っていきます」

「各地のライブハウスでお待ちしてまーす!」

 ポンズが元気よく言う。

「チケットはうちら…フレイミングパイの公式SNSやホームページ、各会場のホームページでチェックしてね」

 レアが補足した。

「それでは最後に、フレイミングパイのミニアルバムから一曲お届けします」

 近藤がそういうと、四人は声を揃えて、曲紹介した。

「聴いてください、『オレンジの坂道』」


 曲が流れる間、四人は顔を見合わせた。ヘッドフォンから自分たちの曲が流れている。不思議な感覚だった。

 初めてのラジオ収録。緊張したけど、楽しかった。

 近藤がにっこり笑って、親指を立てた。四人も笑顔で応えた。

 曲が終わり、エンディングへ。


「シーポンカグレア、第一回放送、いかがでしたか?」

 近藤が締めに入る。

「次回は、また4人に来てもらいます。その次の週からは二人ずつでお届けしていきます。誰と誰の組み合わせになるかはお楽しみに!」

「最後に、ポンズちゃん締めの挨拶お願いします!」

「はい。シーポンカグレア、また来週もよろしくお願いします。ほんじゃまたね、See You!」

「See You!」

 収録終了のランプが消えた。

 スタジオの空気が一気に緩む。四人は椅子の背もたれに身を預け、ふうっと息をついた。


「いやあ〜よかったよ。よく喋るねみんな」

 調整室から出てきた重松が、苦笑いとともに迎えてくれた。

「どやった〜?サトちゃん」

 ポンズが愛未に、ぴょんぴょん跳ねながら尋ねる。

「あはは、編集が大変そうだってぼやいてたよ、スタッフさんたち」

 愛未も苦笑いだった。

「でも、100%みんなの良さが出た! 2本目もその調子で行こう!」

 重松からお墨付きをもらって、俄然やる気出た四人は、二本目もサービス旺盛に収録し、タイトルコールの録音も自分たちの楽曲に乗せて録音した。


          ◇


 第1回、第2回のラジオの収録を終えた四人は、中四国ツアーに向け、ゴールデンウィークはリハーサルに余念がなかった。

 そして、ゴールデンウィーク明けの金曜日、夜十時二十五分。

 ポンズは自分の部屋で、父親から借りたラジオの前に座っていた。机の上のラジオは、父が若い頃に使っていたという年代物だ。ダイヤルを回して周波数を合わせると、かすかなノイズとともに、マツヤマ放送局の音声が流れてきた。

 スマホでフレイミングパイのグループメッセージ画面を開いて待機する。ラジオアプリで聴かないのは、みんなとメッセージをやりとりしながら聴くためだ。


 ポンズ『あと五分! みんな準備できた?』

 カグラ『緊張する……自分の声聴くの恥ずかしい』

 レア『カグラちゃん、大丈夫よ』

 シー『始まるね』


 十時三十分。

 ラジオからジングルが流れる。それに続いて、自分たちの楽曲の前奏が響き、自分たちの声でタイトルコールが叫ばれた。


『フレイミングパイの……シーポンカグレア!』


 ポンズ『きたーーー!!』

 カグラ『うわー始まった』

 レア『タイトルコール、決まってる』

 シー『いいタイトルコール!』


 自己紹介が始まる。シーの声、ポンズの声、そして……


『え、えっと、ギ、ギターのカグラ、です……よろち、よろしく、お願い、します……』


 ポンズ『カグラちゃんめっちゃ噛んどる笑』

 カグラ『消えたい……』

 シー『可愛いやん』

 レア『カグラちゃんらしくてええと思う』

 カグラ『慰めになってないよぉ……』


 番組は進んでいく。四人はそれぞれの部屋で、自分たちの声を聴きながら、メッセージを交わし続けた。


 そして、あのわちゃわちゃ「質問コーナー」、どのように編集されているのか……。


 シー『改めて聴くと恥ずかしいんやけど』

 ポンズ『シーの反応最高やった』

 レア『ボケとかツッコミのところ、めっちゃSEが入ってて、ほんと面白い』

 カグラ『教えてポンズ先生、第2回の収録も面白かったよね』

 ポンズ『このコーナー盛り上げていく所存です シーへの質問、どんどん応募せんとな!』

 シー『やめて』

 ポンズ『あ、出た! やめて!』

 レア『メッセージでもやってんのか!もう定番やな』

 カグラ『笑 集中攻撃やめてあげて…』

 シー『カグちゃん優しい…』


 ツアーの告知、そしてミニアルバムの曲が流れる。


 レア『SNS見て。反応来とるよ』

 ポンズ『ほんと? なんて?』

 レア『「シーポンカグレア最高」「シーちゃん可愛い」「カグラちゃん可愛い」が多いな』

 カグラ『噛んだのに優しい……』

 シー『よかったな、カグちゃん』

 ポンズ『「ポンズ面白い」は? ないの?』

 レア『確認できず』

 シー『自分で探しや』


 そして、エンディング。


『シーポンカグレア、第一回放送、いかがでしたか? 次回は、また4人に来てもらいます。その次の週からは二人ずつでお届けしていきます。誰と誰の組み合わせになるかはお楽しみに! 最後に、ポンズちゃん締めの挨拶お願いします!』

 近藤に続いて、ポンズの声が流れる。

『はい。シーポンカグレア、また来週もよろしくお願いします。ほんじゃまたね、See You!』

『See You!』

 全員の声が流れ、フレイミングパイの楽曲が流れ、フェードアウトしていく……番組は終わった。


 ポンズ『終わったー! おもしろかったよね?』

 レア『ええ番組やったと思う』

 カグラ『恥ずかしかったけど……楽しかった』

 シー『第3回からは二人ずつか。組み合わせとかどうするんやろ?』

 ポンズ『じゃんけんで決めよ!』

 レア『そこは、サトちゃんが決めるやろ』

 カグラ『そうよね……』

 ポンズ『ほんじゃシーポンズみたいに、ふたりの組み合わせの呼び方考えとかん?』

 シー『また、わけわからんことを…』

 レア『うちとカグラちゃんやったら、カグレアでええやんな?』

 カグラ『シーちゃんとわたしやったら、シーグラ?』

 ポンズ『それええ! うちとカグラちゃんやったら、グラポン!』

 カグラ『笑』

 シー『レアとポンズは、レアポンやな』

 レア『あっちゅーまに決まるやん、うちとシーは……シーレア、レアシー?』

 ポンズ『マシライ』

 シー『急に苗字かよ』

 カグラ『レアシーに1票』

 シー『うちもレアシー』

 レア『マシライ、おもろいやん』

 ポンズ『お、割れた』

 シー『最年長の言うとおりに』

 レア『おい!』

 ポンズ『決まりやな!』

 

 時刻はてっぺんになろうとしていた。


 ポンズ『ほんじゃ、そろそろ寝よか。明日から香川やし』

 シー『ツアー初日や!頑張ろうで』

 カグラ『頑張ろうね』

 レア『煽ったる〜!』

 ポンズ『ほんじゃまたね、See You!』

 シー『おやすみ』

 カグラ『おやすみなさい』

 レア『おやすみー』


 画面が消えた。

 ポンズは窓の外を見た。五月の夜空に、星が瞬いている。夜風が気持ちよさそうだった。

 ラジオ番組が始まった。中四国ツアーが始まる。

 新しいことが、次々に始まっていく。

 ポンズは大きく両腕をあげて伸びをして、ベッドに潜り込んだ。

 明日からのツアー初日、香川。どんな景色が待っているだろう。どんな出会いがあるだろう。

 ポンズはベッドの中で、明日からの期待に思いを馳せ、わくわくしながら目を閉じた。

 でも、なかなか寝付けなかった。遠足の前の夜みたいだ、と思いながら、ポンズは何度も寝返りを打った。


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