EP.27 ほんじゃまたね
「みんないらっしゃい、よう来たねえ」
ポンズの祖父、光月邦彦は、一人暮らしの自宅に訪れたフレイミングパイを歓迎した。
三月末の陽光が、縁側から差し込んでいる。
「おじいちゃん、ごめんね、練習場所に借りちゃって」
孫のポンズは祖父にそう言うが、祖父は嬉しいに決まっている。
「お邪魔しまーす!」
シー、カグラ、レアは、初めて訪れるポンズの祖父の家に入ると、感嘆の声を上げた。
*
そう、この部屋は、まるで小さなロック殿堂のようだった。
祖父の愛するレッド・ツェッペリン、ローリングストーンズ、イーグルス、クイーン、そしてビートルズの写真が所狭しと飾られている。
そして、壁に貼られているのは、ポンズがポールに憧れるきっかけとなった1964年頃のビートルズのライブの写真、再結成したoasisのギャラガー兄弟のポスター、そしてフレイミングパイの写真だ。
「うわ、すごいメンツの中にうちらがおるやん」
レアはびっくりして声を上げた。
「かんちゃんがバンド作るって言うた時から、このスペースは開けとったんや。そうやCDも楽しみにしとるけんね」
「かんちゃんってポンズのこと?」
シーがポンズに尋ねる。
「シー! シーはうちの名前忘れがちやで、うちは光月寛奈! ミツカンや!」
ポンズがシーにお約束のように詰め寄ると、
「はいはい、ごめんごめん」
と、シーは適当にあやまった。
*
祖父はそんなポンズとシーのやりとりを見て笑いながら、アンプラグドライブ用に貸し出すシーガルのSS-66を準備し、カグラに手渡した。
「あ、ありがとうございます」
カグラはそのギターを手に、少し頬を赤らめてお礼を言った。
「シーポンズでやったバラード系の曲は、3本のアコギとレアちゃんのパーカッションで演ろう! で、ロック調のものは、うちベースをアンプ通して弾こうわい」
ポンズがそう提案すると、メンバーは楽器の準備を始める。
祖父は茶菓子を準備を始めた。
「あ、うちらも持ってきたんです」
と、シーたちはお土産のお菓子を祖父に差し出した。
「気を使わんでもかまんのに」
「いえ、せっかく使わせてもらうのに、これはお礼です」
三人はそう言って、持ってきたお土産を祖父に渡した。
*
フレイミングパイはこの日、「ROCK STEADY」15周年ライブの第1部で企画したアンプラグドライブのセットリストを決めていった。
「ええ感じになってきたな。シーポンズの経験が生きたと思うよ」
シーは満足げにポンズたちに言った。
「あんな、みんな聞いてほしいんやけど」
ポンズがエピフォンのテキサンを構えた。
いつもはノリノリで提案してくるポンズだが、今回は少し緊張気味だった。
ポンズはギターを鳴らし始めると、自身が作詞作曲した曲をメンバーたちに聴かせた。
ポンズには珍しい、バラード曲だった。
*
「どしたん? すごくいいじゃん」
シーが驚いてポンズに問いかけた。
「ほんま?……年末におじいちゃんらとライブした時、ラストに『Hey Jude』やったやん? 最後みんなで合唱になったとき、ずっとこのまま歌っていたいと心から思ったんよ。うちもそんな曲作りたいなって……」
「これの最後の部分、確かに一緒に合唱できるな。めっちゃええで!」
レアも大絶賛だ。
「カグちゃん、このコードやったら、ピアノどうかな?」
シーがカグラに提案する。
「うん、大丈夫。ポンズちゃんこれピアノが合うと思うよ。頑張るからぜひ弾かせてもらっていい?」
とカグラもその提案に賛成した。
「もちろんや! ありがとうみんな!」
この日、ポンズもソングライターとしての才能を開花し始めたのだった。
*
レコーディングの日から十日ほど経った頃、フレイミングパイはレコーディングを行った「STUDIO T-STEADY」にミックスダウンした音源を聴きにやってきた。
ミキシングを担当したレコーディングエンジニアの一色は、目にクマをこしらえながら、
「楽しかったで!」
と親指を立てて言うが、完全に寝不足状態なのが見てとれた。
「社長、働き方改革はどこへやらじゃないですか?」
人懐っこいポンズは、早くも社長の田中に冷やかすようなことを言ってのけた。
田中は苦笑いしながら言った。
「一色のやつ、よっぽど気に入ったみたいやからな。しばらく有給取らしてやるかな」
*
一色は音源を流し始める。
「フレイミングパイいっくでえええええ!」
ポンズの第一声がそのまま使われ一曲目の「フレイミングパイ」が勢いよく始まった。
メンバーたちは、一色渾身の「音の壁」となった自分たちの楽曲に酔いしれた。
複数重ねたギターサウンドは重厚で、ドラムとベースもそれを負けじと支えている。
もともとアコースティックギターでの弾き語りをしていたシーのエレキの特徴的なピッキングがフレイミングパイの独特のグルーブ感を生んでいる。
「楽器の音に対して、うちとポンズのボーカル、埋もれることなくちゃんと際立ってるな」
シーが冷静に分析する。
「うん! いくつも重なってるコーラスもサイコーや! 嬉しい! 早くみんなに聞いてほしいな!」
ポンズは興奮しながら答えた。
詞と曲を共同で作っている二人にとっては、とにかく歌詞が伝わることが何より重要だ。
*
「この重厚な音の壁から、カグラちゃんのソロが切り裂くように入ってくるの、めっちゃカッコええな!」
レアがカグラににこやかに言うと、カグラは嬉しいような恥ずかしいような得意げなような、複雑な感情が混ざり合い、よくわからない笑顔になっている。
そんなカグラの初ボーカル曲は、エレキギター主体の三曲と違い、アコースティックサウンドと最小限のエレキギターで繊細な表情を見せている。
「これ、おんなじバンドがやってるんやからなぁ……」
ポンズは満足そうな表情で呟く。
カグラは自分の歌を聞いて今度は真っ赤になっている。
「録音した自分の声、別の人みたい……」
「最初はそう感じるって言うよね」
シーが優しくカグラに答えた。
*
そして、シーポンズで披露した「オレンジの坂道」が流れる。
メンバーたちは驚いた。
なんと、ストリングアレンジが施してあったのだ。
「お前! 連日の残業はこれか!」
田中が呆れたように一色に言い放つ。
「はい! この曲、めっちゃ良くって、勝手に編曲させてもらいました! 当然追加料金はいりません。ダメなら省いてもらっても結構です!」
一色は開き直っているが、音大で作曲を学んできただけあって、このアレンジに自信満々であった。
「一色さん、やってくれますね。サイコーじゃないですか!」
シーは絶賛した。
ポンズも大満足だった。
愛未は心配になって田中にいろいろ確認し始めるが、田中は大笑いしながら、
「しょうがないやつだ! クライアントに喜んでもらえたんなら文句も言えんわい!」
と言って、全く意に介さなかった。
*
こうして、フレイミングパイのミニアルバム「フレイミングパイ」は完成した。
曲目は01.フレイミングパイ 02.風のうた 03.青空ハイウェイ 04.Evening Calm 05.オレンジの坂道 の五曲だ。
今の彼女たちの魅力が全て詰まった、渾身のアルバムとなった。
*
そして、桜の花びらが開き始める四月、「ROCK STEADY15周年記念 フレイミングパイ ワンマンライブ」が開催される。
松山の街は春爛漫、道後温泉周辺の桜も満開を迎えていた。
15周年記念ライブは、「ROCK STEADY」に出演している人気バンド四組が1日ずつ出演する。
フレイミングパイは最終日、千穐楽を任された。
公演は12時開場、13時に開演される。
第1部はアンプラグド企画とトーク、第2部はバンドスタイルというプログラムだ。
前売りチケットは完売し、ライブハウスの外ではファンたちは列を作って、開場を今か今かと待ち侘びている。
*
列の中には、シーの路上ライブ時代から来ている美咲たちをはじめ、山田の大学生仲間、インディーズフェスからのファン、シーポンズで獲得した中年層、アーケード街でのイベントで集まった高校生たち、そして、ラジオを聞いてやってきた人もいた。
「シーちゃん今日も絶対カッコいいよね!」
美咲が興奮気味に友人に話しかけている。
「アンプラグドってどんな感じなんやろ」
「楽しみすぎて昨日眠れんかった」
そんな声があちこちから聞こえてくる。
*
ライブハウスの中では、岩田をはじめスタッフたちが準備を整え、最終チェックをしている。
ドリンクコーナーの一角には、フレイミングパイのグッズとして、Tシャツとタオル、ミニアルバムとともにシーのソロCDまで置かれた。
これらに描かれたバンドロゴは、燃え盛るパイとポップなカタカナで書かれたバンド名が組み合わさったデザインとなっている。
これはレアがデザインしたものであった。
STMのインターンとライブハウスのスタッフをしている山田は、忙しそうにバタバタと走り回っていた。
*
会場の上の階にある、スタッフルームのそばの控室には愛未とフレイミングパイのメンバーたちが最後のミーティングを行なっている。
「みんなリラックスしてる?」
愛未は緊張していることを悟っていながらも、メンバーにそう問いかけてみた。
「いつもですけど、正直怖いです」
カグラが珍しく、一番に口を開いた。
それを聞いて愛未が口を開こうとすると、シーが先に語り出した。
「うち、ひとりのときはいっつもそうやったよ。ひとりの時はいっつもこう考えてたんよ。自分が怯んだら自分の歌もギターも怯む。自分の歌は自分の味方、ギターもね。だから自分も歌とギターの味方にならんと……ってね」
ポンズはいつの日か岩田に見せてもらった、愛未がシーに贈った言葉だと気がついた。
愛未はそっとシーの肩に手を置いた。
シーは愛未に微笑むと、こう付け加えた。
「今は、自分の歌とギター、そしてみんながおる。せやけん今はめっちゃ心強いよ」
*
シーの言葉にポンズとレアはにこやかにカグラの顔を見た。
「うちは、大好きなみんなと音楽できることが嬉しいだけやな。それしか勝たん」
ポンズがニカっと笑う。
「うちもや、後ろから見る三人が大好きすぎるから、楽しみしか勝たん」
レアもそういうと、カグラのこわばった表情は柔らかい笑顔になった。
「うん、わたしもみんなと演奏しているときが一番楽しい。うん……楽しみしか勝たん」
カグラが真似して言うと、四人は元気よく笑い合った。
そんな雰囲気に今日のライブはきっと成功すると愛未は確信した。
*
開演の時間となった。
ライブハウスは、オールスタンディングでキャパ一杯の120名を動員した。会場は愛未の提案でPA席の配置換え等により、少し余裕ができたほどだった。。
準備したグッズもCDも完売し、ほとんどの人がグッズのTシャツに着替えていた。
「フレイミングパイ! フレイミングパイ!」
自然発生的にコールが沸き起こる。
第1部はアコースティック楽器だけで演奏するアンプラグド企画だ。
観客たちはメンバーの登場を心待ちにしている。
*
そして、照明が落ちると、一斉に歓声が上がる。
照明は暗転したままで、街のザワザワしたSEが鳴り響く。
多くの人々が行き交う足音や活気ある声、車のクラクション、そして近づいてくる足音がひとつ、次第に大きくなる。
その足音が止まった。
まるでその足音の主が、観客一人一人のそばに立ち止まったようだった。
その瞬間バンッとスポットがセンターを照らす。
そこにはギターケースを持ってシーが立っていた。
「きゃーーー!」
「シーちゃーん」
まるで、路上ライブの頃のシーがそのままステージに現れたようだった。
当時から知るファンたちは大歓声を上げた。
*
シーは笑顔もなく、まっすぐな瞳で歓声を上げるファンたちを見渡した。
シンガーソングライター真白詩音が、今そこに姿を現したのだ。
シーはその場でギターケースを床に置き、蓋を開けて、ギターを取り出す。
ギターストラップをかけ、ギターケースを開いたまま、観客たちによく見えるように向きを調整した。
そのギターケースのフタの裏には
「フレイミングパイの真白詩音 - Shion Mashiro - 16歳 CD2,000円 買ってくれた?」
と、手書きのポップが貼れている。
ファンたちはドッと爆笑すると、
「買ったよー!」
「もちろん!」
などと、反応している。
*
そしていつもの路上ライブのようにシーはマイクに向かって声を出す。
「ワンツー、ワンツー、フレイミングパイの真白詩音でーす。今日はみんな来てくれて本当にありがとう! 第1部はアンプラグドライブってことで……まずはこの曲から!」
そう言うと、シーはギターをかき鳴らし、路上ライブで定番だった曲を始める。
ファンたちは一斉に手拍子を始め、あっという間に一体感のある空間が出来上がった。
父親の形見であるヘッドウェイのHMJ-WX、今日のステージではマイクで生の音を拾っている。
タイトで引き締まったトーンに、シーの軽快なタッチにレスポンスよく反応し、たった一人で見事なグルーブを生み出している。
そして、シーの特有のハスキーながらも透明感のある美しい歌声がライブハウス内に響き、あっという間にファンを魅了していく。
*
シーの歌がBメロに入る頃には、下手からエピフォン テキサンを持ってポンズが現れる。
ファンたちの歓声がまた沸き起こる。
「ポンズー!」
「待ってたー!」
ポンズは、いつかのシーの路上ライブに押しかけたときのように、シーの演奏に合わせギターを乗せていく。
そしてサビのところでコーラスに入ってハモるとまたしても歓声が湧き上がった。
サビの途中には上手からカグラがポンズの祖父に借りているシーガルSS-66を持って現れる。
「カグラちゃーん!」
「かわいい!」
やはり歓声が上がり、曲は間奏部分に入っていく。
*
間奏に入ると、カグラは初お披露目となる、アコースティックギターでのソロを弾き始める。
この瞬間、ポンズがソロデビューで悩んでいるシーのもとに挑戦状を叩きつけたときの路上ライブの再現となった。
ただ、あの時のように一人一人が好き勝手に演奏するのではなく、それぞれの個性をぶつけつつも完全に調和した演奏となっている。
観客たちは息を呑んでカグラのギターに聴き入っている。
繊細でありながら、確かな芯のある音色。
カグラが堂々とソロを弾いている姿を見て、愛未は目頭が熱くなった。あの内気な人見知り少女は、こんなにも成長したのだ。
*
間奏が終わるころ、パーカッション用ブラシを持ってレアが愛想良く現れ、スネアドラムを叩き始める。
「レアー!」
「揃った!」
ついに全員が揃うと、観客たちはさらに大きな歓声と拍手を送った。
四人によるアコースティック主体の編成は、この日が初お披露目となった。
このオープニングはまるで、シーのソロからフレイミングパイ誕生までの軌跡をたどったような演出となった。
曲のエンディングでは、ギターのかき鳴らす音に合わせ、レアがウインドチャイムを美しく鳴らして締めた。
ライブの始まりと、この演出に感激した観客たちは、大きな歓声と拍手を四人に送った。
*
その歓声と拍手が収まるのを見計らって、ポンズが観客に向かって喋り始める。
「フレイミングパイです! うちは光月寛奈です。人呼んで~~?」
「ポンズーー!」
「麗しき、バンド一の長身リードギター~~?」
「カグラーー!」
「今日も揺れるアクセサリー、超絶ドラマ~~~?」
「レアーー!」
「そしてそして~、メインボーカル、最近読書を始めた~~~?」
「シーー!」
これが、最近定番となったコール&レスポンスである。
*
「その、うちん時だけ些細な最新情報入れるのやめてくんない?」
シーが文句を言うと、ポンズはこう暴露する。
「初めて図書館行ったとき何にも借りずに帰ってきましたからね。でもシーも成長して今は熱心に読んでますよ、恋愛小説」
「きゃーかわいい!」
「シーちゃーん」
そんなシーのプライベートな話はファンたちの大好物であることはポンズは承知している。
でもシーは少し迷惑そうだ……。
「そういう自分は、ミステリーとか怪奇現象ものばっかやん」
「今度は宇宙もの読もうかと思うております」
「はよ、次の曲いけよ」
ポンズとシーのやりとりに痺れを切らしたレアが一喝する。
これもお決まりのパターンとなっていた。
観客からは笑いが起こり、会場は温かい空気に包まれた。
*
フレイミングパイは続けてアコースティックナンバーをいくつか演奏していく。
合間には少しトークの時間も入れて、シーポンズの時と同じように自分たちの家に友人を招いたかのように、ゆったりとした空間を作り上げていく。
後半は、フレイミングパイのロック調の曲をアコースティック用にアレンジしたものを披露する。
この時ばかりはポンズはベースをアンプに繋いで、しっかりした土台となるようにリズムを刻んでいった。
*
「ミニアルバムに収録されている、カグちゃんのオリジナルです。素敵な歌詞がつきました。聴いてください。『Evening Calm』」
シーの曲紹介で、カグラが初めてボーカルをとる。
カグラは声が震えることなく、心を込めて詞の一言一言を大切に歌う。
ポンズとシーのコーラスがそれを支え、レアがトライアングルやクラベスで優しくリズムを刻んでいく。
観客は静かに、聞き入っている。
美しい旋律に、時折入る変拍子が妙に心地いい。
そして、カグラのアコースティックギターで奏でるソロが曲の世界観を引き立てていく。
曲が終わると、一瞬の静寂の後、観客たちは惜しみない拍手を送った。
「カグラちゃん最高!」
「泣きそう……」
そんな声が会場のあちこちから聞こえてきた。
*
そして、第1部アンプラグド企画のラストは、ポンズとシーが松山を歩いて作った「オレンジの坂道」だ。
シーがバンドに加入してから初めて作った、アコースティックのバラードナンバーだ。
ともに歩む大切な友、あるいは恋人、あるいは仲間、普遍的な歌詞と温かい「ことば」で溢れたこの曲は、ファンにも大人気の曲となっている。
そして第1部はフィナーレを迎える。
「ありがとうございました。フレイミングパイの新たな一面を見せることができたと思います。第2部はぶっ飛ばしていくから覚悟しといてくださーい!」
ポンズがそう煽って、ステージを後にしようとすると、愛未がマイク片手に登場する。
*
「は~い、ちょっといい?」
「何、何、何? 怖いんやけど」
こういうシチュエーションは、サプライズで重大発表しがちなので、メンバーたちは身構えた。
「実は、『ROCK STEADY』15周年のお祝いに、このライブハウスにゆかりのある人のメッセージが届いています!」
ステージ横に、岩田たちがモニターを準備し、映像が映し出される。
なんとそこにはブラックシトラスのメンバーが映っていた。
観客たちは「うおお!」と声を上げている。
彼女たちは、以前のように黒を基調としたクールなコスチュームは変わらないが、何かこう、バージョンアップしたようにも見える。
*
「ユズでーす」
「ナツでーす」
「ミオでーす」
「マキでーす」
「ブラックシトラスでーす」
ブラックシトラスメンバーは軽快に自己紹介を終えると、ボーカルのユズが代表して話し始める。
「この度は、『ROCK STEADY』15周年おめでとうございます。うちらこれからと言う時に、ホームのライブハウスを無くしてしまいました。そんな時、オーナーの岩田さんに新しいホームとして数多くのライブをさせていただきました。それからたくさんの思い出を『ROCK STEADY』で作ることが出来ました。なんといっても、フレイミングパイのみんなと一緒に、このライブハウスを盛り上げていけた経験が、今のうちらの支えとなって、こっち大阪で頑張っていけています。ほんまに感謝してるよ~」
そんなユズの言葉にフレイミングパイのメンバーたちも笑顔になっている。
*
最後にリーダーのマキが締めくくる。
「もちろん、簡単なことばかりではないけれど、フレイミングパイを見習って楽しむことだけは忘れずにやっていきます。そのうち、そっちにも顔出すので、また一緒にライブやりましょう。せーの」
「ブラックシトラスでした~!」
映像はそこで終わる。
フレイミングパイのメンバーも観客たちも大きな拍手と歓声を上げた。
第1部はそんな和やかな雰囲気で無事終了した。
*
会場は、第2部まで休憩の時間となる。
観客たちは、ファン同士で交流する者、開演前に買えなかったグッズを求める者、ドリンクをおかわりする者、それぞれ思い思いに時間を過ごした。
「カグラちゃんの歌、やばかったね」
「シーちゃんとポンズちゃんの掛け合い、生で見ると最高」
「第2部楽しみすぎる」
そんな会話があちこちで交わされている。
会場では、フレイミングパイメンバーのお気に入りのナンバーが流れている。
SEが何曲か流れていくうちに、観客たちは会場に戻り、第2部を心待ちにし始める。
*
そしてビートルズの「Sgt. Pepper's Lonely Hearts Club Band」が流れる。
最近はこの曲がライブ開始の狼煙となっている。
観客たちがざわめき始め、コールをはじめる。
「フレイミングパイ! フレイミングパイ!」
そして、会場は暗転する。
大きな歓声が上がる。
暗闘の中、メンバーたちがそれぞれの場所にスタンバイするのがうっすらと見える。
フレイミングパイはいつものように大音量でコードをかき鳴らす。
同時に照明が四人を照らし始め、さまざまのカラーのムービングライトが揺れ始める。
「フレイミングパイ、いっくでえええええ~~!!」
いつものようにポンズが掛け声を上げる。
レアがクラッシュシンバルでカウントを叩くと、勢いよくフレイミングパイの演奏が始まる。
観客たちの沸点が一気に上がった。
*
シーのSeventy Seven EXRUBATOのカッティングが小気味よく鳴り響き、ポンズはHofnerヴァイオリンベースを歌わせていく。
カグラのIbanez AZ2402が斬りかかるようにさまざまなフレーズで彩りを与える。
レアのPearlのドラムが、リズムを刻むごとに彼女のアクセサリーと一緒に輝いている。
シーとポンズのボーカルは、第1部とは打って変わって力強く響き、演奏のアクションも大きい。
四人は一曲目から汗を光らせている。
*
観客たちもそれに合わせて、体を揺らし、拳を突き上げ、跳躍し、胸を熱くし始めている。
最前列では若い女性ファンたちが声を張り上げてメンバーの名前を叫んでいる。
中央では友人同士で肩を組んで揺れている男性グループ。
後方では腕を組んで目を閉じ、音楽に浸っている中年の男性。
壁際では涙を流しながらステージを見つめる女性。
それぞれがそれぞれのやり方で、フレイミングパイの音楽を受け止めていた。
*
フレイミングパイは定番曲全て、間奏やアウトロを延長し、カグラとシーのギターソロや、ポンズのベースソロ、レアのドラムソロ、コール&レスポンスを追加させている。
今日のこの日だけのアレンジに観客たちは喜び、歓声を上げ拍手を送る。
カグラのソロでは会場全体が息を呑み、レアのドラムソロでは地響きのような歓声が沸き起こった。
ポンズのベースソロでは「ポンズ! ポンズ!」のコールが自然発生し、シーのギターソロやハープソロでは美咲たちが黄色い声援を送っていた。
フレイミングパイは、準備したセットリストをノンストップで駆け抜け、メンバーも観客も汗だくとなって、心ゆくまで自分達の音楽を楽しんだ。
そして1曲を残して一度ステージを後にする。
*
当然のように、観客たちがアンコールの声を一斉に上げ始めた。
「アンコール! アンコール!」
その声は次第に大きくなり、会場全体が一つの大きなうねりとなっていく。
メンバーたちは汗を拭き、グッズのTシャツに着替え、水分補給を行う。
その間、山田たちがギターのチューニングを行なっていく。
四人は観客たちのアンコールの声を聞きながら、自分達の気持ちをもう一度作り直していった。
そして四人はもう一度ステージへ帰ってゆく。
観客たちは大歓声を上げて、喜びを爆発させている。
*
「アンコールありがとうございまーーーす!」
ポンズが大きな声でお礼を言うと、残りのメンバーたちも頭を下げた。
そして、最後の曲紹介をしようとした時、またまた愛未がマイクを持って現れた。
「は~い、ちょっといい~!?」
「うわ! また来た! 今度は何?」
ポンズたちはまたまた身構える。
「今日、来てくれたみなさんに、大事なお知らせがありま~す」
「え? なになに?」
会場はまたもざわめき始める。
*
「実はですね……フレイミングパイは松山を飛び出し、中四国ライブツアーを決行します!!」
「うぉおおお!」
会場は大興奮の歓声が起こる。
メンバーたちは目を大きく見開いて、驚きを隠せない。
ツアーは香川、高知、徳島、淡路、広島の五ヶ所の会場で10回程度の公演を行うという手製のパネルが示された。
「いつから? ねえいつから?」
ポンズが興奮して愛未に詰め寄る。
「五月が最初、夏休みと、十月頃を予定しています。みなさん、これからフレイミングパイの新しいファン獲得に向けて、SNSの拡散をはじめ、たくさんの応援とご協力をよろしくお願いしまーす!」
愛未がそういうと、観客たちは大きな拍手で応援を承諾した。
「すごい、県外でライブ! 県外でライブ!」
ポンズたちがはしゃいでいる。
*
「もうひとつ!」
「え? まだあんの?」
会場はまたしてもざわつき始める。
「フレイミングパイ、ラジオ番組のパーソナリティーが決定!」
「きゃーー!」
立て続けのサプライズに、メンバーの気持ちが追いつかない。
愛未の説明は続く。
「FM系列、マツヤマ放送局さんでお世話になることになります。収録番組で、放送は遅い時間帯になりそうですが、みんな聞いてくれますか~?」
「おお~!」
「もちろん!」
「絶対聞く!」
会場も大盛り上がりで、声を上げる。
「タイトルも色々未定ですけど、これから決まっていきますから、SNSでチェックお願いします。あと、お便りを募集すると思いますから、こちらもみなさん、ご協力をよろしくお願いしま~す!」
「は~い!」
会場が大きく返事をしたところで、愛未はさっさと引っ込んでいった。
*
メンバーたちは大きなサプライズに佇んでいたが、やがてポンズが喋り出す。
「なんか、うちらもまだ整理できてないけど、フレイミングパイが色々走り出したってことです。みんなついてきてくれますか!?」
「おお~!」
「おめでと~!」
「ずっとついていく!」
観客たちは、歓声と共に、お祝いや激励の言葉を投げかけてくれている。
「え……と、次が……いやや! 終わりたくないなあ」
ポンズが言葉に詰まって、そうシーに訴えた。
シーはそばに近づいて、そっと手をポンズの背中にやると、
「ほら、しっかりリーダー」
と、優しく耳元で囁いた。
ポンズはぐっと堪えて、大きく頷くともう一度喋り出した。
*
「つ、次が最後の曲になります。うちが、路上ライブをやっているシーを見かけ、思い切って声をかけたあの日から1年間、止まることなくここまで来ました」
ポンズがいつになく、心を込めて語っていく。
カグラがピアノの前に座ると、観客たちはざわついた。
そのカグラの表情はいつもと違い凛としている。
「今日という日は、これで終わるけど、またステージでみんなに会いたいです。すぐにでも会いたいんです。だから、来てくれたみんなといっしょに、ほんじゃまたねって歌いたくて作りました。聴いてください『SEE YOU』」
*
この日初めて、ポンズが作詞と作曲全てを手がけたバラード曲が披露された。
バンドへの想い、メンバーや家族への想い、そしてファンたちへの想いを寄せたポンズ渾身のバラードだ。
カグラのピアノの伴奏で、ポンズが心を込めて歌う。
シーがハーモニーを乗せ、レアが途中からリズムを刻み出す。
そしてポンズのベースとシーのギターが重なり合い、曲は最高点に達する。
「ほんじゃまたね、See You!」
と、最後の歌詞が歌われると、
「La La La La……See You!」
と、アウトロを何度もリピートする。
観客たちはわかりやすいメロディーと歌詞にすぐに対応し、一緒に歌いだす。
*
「これや……こうしてずっとみんなと歌っていたい……!」
ポンズは自分が作った歌を、今日集まったみんなが大合唱していることに感極まった。
涙を流しながら、大きな口を開けて歌い続けた。
シーはポンズの表情を見て、もらい泣きしそうになるのを堪えたが無理だった。
一緒に涙を流しながらやはり大きな口を開けて歌う。
カグラは涙を流しながら一生懸命鍵盤を叩いている。
レアはそんな三人を笑顔で眺めながらドラムを叩いている。
その目には、うっすらと潤んでいた。
愛未も山田も岩田もスタッフたちも、綺麗な笑顔で一緒に歌っていた。
会場ではいつまでもいつまでも、そのメロディーが流れ、温かい愛につつまれていた。
*
ついに最後のフレーズが歌われ、ポンズとシーとカグラは最後のコードをかき鳴らし、レアがドラムを乱れ打つ。
そしてポンズがジャンプをしてレアがフィニッシュを決める。
会場は大歓声と拍手が盛大に沸き起こり、いつまでも鳴り止まなかった。
「ありがとうございましたぁーー!」
メンバーたちは大声でお礼を叫び、ライブはフィナーレへと突入……
「今日は、ほんまにありがとうございました! ほんじゃまたね! See You!」
フレイミングパイの四人は手を振り、投げキッスをし、手でハートを作って、ステージを後にした。
観客たちの歓声と拍手は、彼女たちのライブへの賞賛と、これからの活動への祝福がこもっていた。
*
ステージを降りた四人は、控室で抱き合った。
誰もが涙を流していた。
「みんな、最高だったよ」
愛未が四人を優しく見つめて言った。
「サトちゃん……うちら、ここまでできるようになった」
ポンズが涙声で言った。
「うん…でも、これから先、まだまだいくで!」
シーが笑いながら涙を拭いた。
「わたし、みんなと出会えて、ほんとに良かった……」
カグラが震える声で言った。
「うちもや!この四人やったら、まだまだいけるって思ってる!」
レアがみんなの肩を抱いた。
窓の外では、春の夕暮れが松山の街を優しく照らしていた。
出会うまで、それぞれの道を違えていた四人は、今やプロのアーティストとして、新たなステージへと踏み出そうとしている。
フレイミングパイの物語は、第3部へと続いていく。
第2部 完
登場人物
フレイミングパイ
・光月寛奈16歳(高1) ポンズ Vo.&Ba.
・真白詩音16歳 シー Vo. &Gt.
・神楽坂奏多16歳(高1) カグラ Gt.
・宝来鈴愛17歳 レア Dr.
マネージャー
・さとう愛未
ROCK STEADYオーナー
・岩田恒太郎
ポンズの祖父
・光月邦彦
レアの兄
・宝来翔太 ショータ
マツヤンメンバーのリーダー
・山田健太 ヤマケン
シーの追っかけ
・美咲
マツヤマ放送局のアナウンサー
・近藤エリカ
STUDIO T-STEADY
・社長 田中
・レコーディングエンジニア 一色




