EP.26 音の壁
初めてのラジオ出演を果たし、ライブハウス「ROCK STEADY」の15周年の記念の日にライブをすることになったフレイミングパイ一行は、松山市内のレコーディングスタジオ「STUDIO T-STEADY」にやってきた。
三月も半ばを過ぎ、松山の街には春の気配が色濃くなっていた。
「STUDIO T-STEADY」は道後温泉近くにあり、中にはリハーサルスタジオや、オンラインライブができる環境が整っている。
音楽教室なんかにも提供しているようで、勧誘ポスターも貼られている。
レコーディングスタジオは、プロスタジオクオリティを謳っているだけのことはあり、最大で32チャンネルの同時録音、ミックスダウンやマスタリングに必要な選りすぐりの機器が完備されている。
*
スタジオの前に立った四人は、思わず息を呑んだ。
ガラス張りの立派な建物で、これまでとは全く違う世界がそこにあったが、STEADYという名前に親近感を覚えた。
「おお、愛未ちゃん! 久しぶりやな!」
スタジオの社長、田中が満面の笑みで迎えてくれた。
五十代の田中は、岩田とともにロックバンド「STEADY BEAT」の元メンバーであり、解散後このスタジオを経営してきた。
そして愛未や岩田とは長い付き合いの間柄だ。
「田中さん、お久しぶりです。スタジオ新装したんですね」
愛未が深くお辞儀をすると、四人も慌ててお辞儀をする。
*
「おお、会社の若いもんが育ってくれてな。それはそうと聞いたで、事務所立ち上げたんやってな。おめでとう」
「ありがとうございます」
「で、こちらの子たちが噂のフレイミングパイか」
田中が四人を見ると、四人は緊張感を持って背筋を伸ばした。
「はじめまして! フレイミングパイです!」
四人は楽器ケースや機材を抱えたまま、元気よく挨拶する。
「ええ子たちやな。よし、今日は機材の説明と、簡単な音出しだけやってみよか。プランを練ったら本格的なレコーディングは明日や」
「よろしくお願いしまーす!」
四人の声が少し上ずっていた。
*
田中はスタジオの中を案内してくれた。
リハーサルスタジオやミキシングルーム、様々な最新機材。
四人は目を見開いて、まるで異世界を見るような表情で見入っていた。
壁一面に並ぶアウトボード機材、天井から吊り下げられた複数のマイク、そして中央に鎮座するミキシングコンソール。
その全てが、プロフェッショナルの世界を物語っていた。
「すごい……これが本物のレコーディングスタジオなんや……」
ポンズが小さく呟いた。
声が震えている。
「ギターとボーカル録るだけとはワケが違う……ここで、うちが作った歌が、音楽が、みんなの手で形になるんやな」
シーが感慨深げに、そして少し緊張した様子で言った。
「緊張する……」
カグラが小さく呟き、楽器ケースを抱きしめる。
「大丈夫。楽しもうや……ひゃあPearlのドラムセットまであるやん!」
レアはカグラをほぐしながらも、そのレコーディング環境に興奮している。
*
田中が機材の説明を始める。
マイクの種類、録音の仕組み、ミキシングの基本。
四人は真剣な表情で聞き入り、時折「はい」「なるほど」と小さく相槌を打った。
普段の元気な姿とは違う、プロの現場への敬意と緊張感が漂っていた。
「じゃあ、試しに音出してみるか?」
「は、はい!」
四人は楽器を手に取り、何故か足音を立てないよう気を遣いながらブースに入った。
ヘッドホンを装着し、それぞれの位置につく。
普段とは違う環境に、全員の呼吸が少し速くなっていた。
「せーの……」
ポンズのカウントも、いつもより慎重だった。
*
音が鳴り始めた瞬間、四人の表情が一変した。
スタジオに響く音は、いつものライブハウスとは全く違う。
クリアで、繊細で、でも力強い。
自分たちの音が、こんなにも美しく聞こえるなんて。
「わ……」
シーが思わず声を漏らした。
「これ、うちらの音?」
ポンズが信じられないような表情でカグラを見る。
カグラは目を閉じて、自分のギターの音に集中していた。
レアも、ヘッドホンから聞こえる音に感動で胸を震わせている。
*
「おお……最初はおっかなびっくりやったけど、ええ音出すやない」
田中が感心したように言った。
「この子たち、基礎がしっかりしとるね。リズムも音程も安定しとるわ」
愛未は誇らしげに微笑んだ。
娘たちの成長を見守る母親のような表情だった。
「ライブするたびに、着実に実力をつけていきましたからね」
*
演奏が終わり、四人がブースから出てくる時、その表情は興奮と感動で輝いていた。
「みんな、どうだった?」
愛未が尋ねた。
「めっちゃ……なんていうか……」
ポンズが言葉を探しながら、
「ヘッドホンから聞こえる音がクリア! ステージとか、練習スタジオとは違う、今まで聞いたことないくらい……!」
興奮で手を震わせながら話していた。
「自分の音も声も、はっきり聞こえて、集中しやすかった。でも同時に、いつも以上に気を遣った……」
シーも目を輝かせながら頷いた。
「うん、すごかった……でも、その、自分の粗もよくわかっちゃいました。普段は気づかない小さなミスまで……」
カグラが少し心配そうに呟くが、その表情は充実感で満ちていた。
「楽しかったわ~。でも、めっちゃ緊張した!」
レアが笑顔で言ったが、額に汗をかいていた。
*
田中が温かく笑った。
「ええ反応や。じゃあ、明日は本格的にやろう。ひとつ注文していいか?」
「よ、よろしくお願いします」
四人は何か粗相をしたのかと、身を縮こまらせて困惑の顔を浮かべた。
「わっはっは、そない身構えんでええよ」
田中は笑いながら説明を始めた。
「君らのライブの動画、岩田に見せてもらったよ。君らは完全に勢いと感情型のバンドや。レコーディングやからと言って、変に繊細になろうなんて思わんでええよ。『ラウドでダイナミック』これをテーマにしようや」
*
「ラウドってなに?」
ポンズが首をかしげてみんなに尋ねると、田中はズッコケるリアクションをした。
「あ、音が大きいとか、うるさい……かな」
カグラが少し自信なさげに答えると、
「お~っ」
と、ポンズに加えてシーとレアもと声を上げた。
「シーもレアちゃんも意味わかっとらんやんか!」
ポンズが不満げにツッコんだ。
「要はライブしに来る感覚で来いということですね」
シーが姿勢を正して、田中に真剣な口調で確認した。
「さすがやな。そのとおり! そのエネルギーをそのままパッケージしたる!」
四人は顔を見合わせて、ほっとしたような笑顔になった。
気負わず自分たちらしく演奏すればいいということが、何より嬉しかった。
*
「そういやあ、前に来た君らくらいの歳の女の子のバンドは、反対に緻密にやっていったなあ」
田中はそう言って、少し懐かしそうに苦笑いした。
「もしかして、ブラックシトラスですか?」
ポンズがピンときて、田中に問いかけた。
「ああ、そんな名前やった。難しいことや細かいこと要求されて、あれはあれで面白かったけどな」
「マキらも来てたんやな……」
レアの目がキラリと光った。
「おっしゃ! うちらはうちらのやり方で、負けずにいい音楽作っちゃろうで!」
レアが拳を天に向けて意気揚々と叫ぶと、三人も力強く拳を合わせた。
*
「ありがとう田中さん、あの子たちの特性を見抜いているなんてさすがですね」
愛未は盛り上がっている四人の様子を見ながら、安堵したように田中に語りかけた。
「愛未ちゃんはここで録った音源、デビューしてからは超えられんかったな」
田中は少し複雑そうな苦い表情で言った。
「最初は、メジャーで自分の音源が出ることが、ただただ嬉しかっただけですね。それからは何を言っても取り入れてもらえませんでしたね。でも、ライブで取り返してやるって逆に火がつきましたけど」
愛未も少し苦い表情を浮かべた。
「うん……岩田にも聞いたが、いろいろあったんやな。でもおもしろい子らと出会えたな。あの頃の愛未ちゃんが四人もおるわ」
田中は無意識にポケットからタバコを取り出したが、十代の少女たち四人に気を遣って、もう一度ポケットにしまい込んだ。
「あ! やめたんじゃなかったんですか!?」
それを愛未に見られて、突っ込まれてしまった。
「はっはっは、岩田には内緒やで」
*
田中は苦笑いを浮かべてから、少し真剣な表情になった。
「それはそうと、あいつはもう大丈夫なんか?」
「ええ、ライブハウスには顔を出していますよ。スケジュール管理とか経理とかだけお願いしています」
「そうか、元気そうやったらええわ」
愛未は田中の少し寂しそうな横顔に気がついた。
「STEADY BEAT」という、松山から全国デビューしたバンドのギタリストだった田中は解散後、このレコーディングスタジオを作った。
これまでも、松山から巣立ったバンドのデモ音源や、インディーズCDの制作に携わってきた。
バンドでドラムだった岩田とは、高校時代からの昔馴染みだ。
「田中さん、うちはしばらくは松山拠点で活動を続けようと思っています。一度だけでなく今後とも、フレイミングパイをよろしくお願いします」
愛未が深々と頭を下げると、田中は嬉しそうに顔を輝かせた。
*
翌日、再びフレイミングパイ一行は、「STUDIO T-STEADY」にやってきて、楽器や機材を運び始める。
朝の光がスタジオのガラス窓に反射して、まるで四人を歓迎しているようだった。
スタジオ内に入ると、田中が部下である男性をメンバーに紹介した。
「おはよう、こいつは今回のレコーディングエンジニアで参加する、一色や」
レコーディングエンジニア一色は三十代くらいのスラッとした男性だ。
彼は、音大出身で主に作曲を学び、レコーディングに興味を持ってここに就職した。
「よろしくお願いします!」
気合充分の四人は、田中と一色に挨拶すると黙々と準備を始めた。
妙に怖い目つきをして、昨日と明らかに雰囲気の違う四人。その様子を見て、田中が愛未に歩み寄って聞き出す。
*
「どしたの? 嬢ちゃんたち? えらい気合入っとるね」
「田中さんが、『ラウドでダイナミック』とか、ライブのつもりでいいって言ったからですよ。それに……」
愛未は今朝、集合した時のことを明かし始めた。
*
「サトちゃん! サトちゃんも田中さんとこでレコーディングしたんやろ? うちらどう臨んだらええ?」
ポンズたちは、そう愛未に質問した。
四人の目は、愛未の言葉から何かを掴もうという目をしている。
「気持ち一発! やり直しは効かないほどの気合で臨んだわ」
愛未はニヤリとしてそう四人に伝えたが、最近の若者ならそんな精神論的なことじゃなく、具体的な何かを教えてくれと突っ込んでくるかなと思っていた。
ところが、
「気持ち一発ね」
と、四人とも顔を見合わせながらうなずいて、いつものハイエースに乗り込み、車中ではおしゃべりもほどほどに、気持ちを作り始めていたのだった。
*
「なんでえ、愛未ちゃんも一役買っちゃってるやない」
「そうなんですよ。あの子たちライブに臨むとき、どっちかと言うと気楽に楽しもうって感じなのに、変に気合入っちゃてて……」
「ちょっと面白くなりそうやから、そのままにしておこうか」
田中は悪戯っぽく、そう提案した。
「まあ、いつも私の想像を超えてくるから、ちょっと見てみたいかも」
愛未までその提案に乗ってしまった。
*
レコーディングブースで、四人はすでにスタンバイを終えた。
いつものライブのようにボーカルマイクの前にはポンズとシー、中央にはカグラ、ドラムスクリーンの向こうにはレアがドラムの前に座る。
音は、コントロールルームのスピーカーからも流れ、ミックスされた音と自身の音は、メンバーのヘッドフォンから聞こえるようになっている。
レコーディングエンジニアの一色の指示のもと、マイクの声、楽器の音の入力音量とモニター音量等、一通り調整していく。
ブースの中の空気は、張り詰めた緊張感に満ちていた。
四人の表情は真剣そのもので、普段のライブ前とは明らかに違う集中力が漂っている。
*
「田中さん、一色さん、多分あの子たち一発コードを鳴らしてから演奏に入ると思います」
愛未がいつものライブを思い出して田中に言った。
「よっしゃ、その瞬間に調整してやれや」
田中は、一色に命じた。
「え? いきなりですか?」
「そうや、来るぞ」
ポンズがブースから呼びかける。
「音出しまーす」
コントロールルームから、OKサインを出す。
四人は一発ドカンとコードをかき鳴らし始めた。
*
「うお! すごい音や」
田中が驚く。
一色は素早く、メーターを読み取り、ミキシングコンソールのフェーダーを調整していく。
その指先は、まるで楽器を演奏するかのように正確で素早かった。
「録音開始しとけ!」
「はい!」
次の瞬間、ポンズがマイクに向かって叫んだ。
「フレイミングパイいっくでえええええ!」
まるでいつものライブのオープニングのように演奏を始める四人。
「やだ、あの子たち、ほんとにライブみたいに……!」
「はっは!こいつはおもろいで!」
苦笑いする愛未をよそに、田中は大笑いを始める。
一色はメーターがピークを振り切らないよう注意を払いながらも、その目は興奮で輝いていた。
*
「いつもなら、気合が空回ってアンバランスになって、修正したりするのに、今回は一発で決まってる!」
愛未はまたしても予想を超えてくる四人に興奮を覚えた。
四人は演奏が進むにつれて、気合の入った表情から一変して楽しそうな弾ける笑顔になっていく。
シーの声は力強く、ポンズのベースラインは正確に楽曲を支え、カグラのギターは繊細かつ大胆に空間を彩り、レアのドラムは全員のリズムを一つにまとめ上げていた。
バンド全員で演奏してのライブレコーディング方式は、フレイミングパイのパフォーマンスから生まれる一体感と爆発的なエネルギー、そして偶発的に生まれるノイズもそのまま取り入れることで、田中の提案した「ラウドでダイナミック」そのものの音源となった。
四人はこの調子で、ライブの定番のオリジナル曲を三曲、一発でレコーディングすることに成功した。
*
「いやあ! いいっすね。このラフな感じこそロックってもんすよ。社長、ミックスダウンは任せてもらっていいですよね!?」
一色が興奮気味にミキシングに志願してきた。
その目には、音楽への情熱が燃えていた。
「ブリックウォーリングする気やな! お前好きやもんなあ」
「いけませんか!?」
「かまん! 俺もそれが一番ええと思うで!」
*
四人はコントロールブースで、自分たちの音源を聞き返した。
スピーカーから流れる音は、まさに自分たちのライブそのものだった。
荒削りながらも生のグルーヴ感、エネルギーが自分たちらしく感じられ満足のいく出来だった。
「これ……うちらの音……」
シーが感動で声を震わせた。
「すごい……ほんとうに形になってる……」
カグラも目を潤ませている。
*
時間が余ったということで、四人はギターサウンドが分厚くなるよう要求した。
田中と一色のアドバイスを聞き、シーとカグラはギターの多重録音をすることとした。
シーはローポジションで弾いていたコードをハイポジションで鳴らしてより厚みをもたらした。また、一部の曲ではアコースティックギターも重ねていった。
カグラは納得いかなかったギターソロのオーバーダビングも試みた。また、曲のあちこちに、さまざまなフレーズを入れ込んだ。
ポンズはシーとコーラスをオーバーダビングしていく。時に三声、四声とハーモニーを追加していった。
レアはパーカッションをいくつか試し、シーのハープも加えるよう提案した。
*
ライブレコーディングした自分たちの音源に、さらに自分たちの手で重ね録りをして、よりラウドな音像を作り上げていく。
四人にとっては楽しく、夢のような時間となった。
一色は四人のアイデアを次々と形にしていき、その表情は職人のような真剣さと、音楽を楽しむ少年のような輝きが同居していた。
そんな夢のような時間は、ライブのように、あっという間に過ぎてしまい、タイムリミットを迎えてしまった。
四人は初めて感じる何とも言えない充実感を味わった。
*
「ようし、これでリズム隊の音にはディレイ、ギターとボーカルにはプレートリバーブで深みを与えて、あとは全体音量を平準化するコンプをかけていく。これで『ラウドでダイナミック』な音が完成する!」
一色の言葉に、四人は高揚した。
「『ウォール・オブ・サウンド』ってやつや、俺ら『STEDY BEAT』もそういうやり方で音圧を求めていったんや。今日、みんな最高の仕事したで。次は俺らの番や、ミックスダウン楽しみにしといてや!」
田中もそう言って、今日の四人の仕事を絶賛した。
「はい! ありがとうございました!」
四人は満足そうに声をそろえてお礼を言うと、慣れた手つきで後片付けを始めた。
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ケーブルを巻いているポンズたちを見て田中が感心して愛未に語りかけた。
「お、8の字巻きも完璧やな」
「ライブハウスでも積極的にお手伝いをするようになったんですよ。『ROCK STEADY』以外のステージでライブをやってから、あの子たちステージのセットアップにも興味あるみたいで」
愛未がそう説明すると、田中が唸った。
「大事なことや。ほうぼうでライブをやるとき、設営の時間短縮もできるし、現場のスタッフらとコミュニケーションもとれる。そうなればスタッフもいい印象を持ってくれるし、ライブでも気持ちよく演出してくれるようになる。一番大きいのは、自分に関係する機材や配線を理解していると、トラブルのリスクも減らせれるし、何か起きてもすぐ対処できる。いやあ立派なことや」
このことは愛未やシーがソロ中心のステージをやっていた時には、あまり気にしていなかったことだった。
こういったことは、ポンズとレアの力が大きい。どちらかというと、人懐っこい二人がいつも先陣を切ってスタッフたちと関係を作っていけることが、大きな要因であった。
「演奏だけやなく、チームワークにおいてもバランスが取れてるんやな」
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「田中さん……本当にありがとうございました。来週、あと二曲はアコースティックナンバーです。よろしくお願いします!」
「任せといて! アコースティックナンバーも楽しみにしとるで」
田中の言葉を胸に、愛未は四人とともに、「STUDIO T-STEADY」をあとにした。
*
スタジオを出ると、夕暮れが松山の街を美しく染めていた。
オレンジ色の空が、まるで四人の充実した一日を祝福しているようだった。
「今日は、すごく大きな体験だったね」
愛未が感慨深く言った。
「うん。なんか……いよいよ部活感はなくなってきたな」
ポンズが空を見上げて呟いた。
「プロとして契約して、ラジオ出て、レコーディングもして……そして、それを引っさげてライブ……か」
シーがひとつひとつを振り返るように呟く。
「次、わたしボーカル録るんだ……大丈夫かな……」
カグラが少し不安そうに言った。
*
「大丈夫やって」
レアが振り返って、安心させるように笑った。
「一人やない四人おるし、サトちゃんもヤマケンも、オーナーも、家族もみんなついてるんが、うちのチームや」
「レアちゃん、ええこと言うやん」
ポンズが感心して目を丸くする。
「そうね。田中さんは演奏だけじゃなく、そういうチームワークも褒めてくださったよ。見てくれる人はちゃんと見てくれるから、私も鼻が高かったよ」
四人はそう言われると、満面の笑顔で並んで歩き始めた。
夕日が四人のシルエットを美しく照らしていた。
*
「あと二曲録ったら、次は15周年ライブに向けて始動や! 絶対成功させような」
ポンズが決意を込めて言った。
「おー!」
三人が力強く答える。
愛未は少し離れて、四人の背中を見つめていた。
夕日に向かって拳を上げる彼女たちは、もう迷いを感じさせない絆が見えた。
「これなら次のステージへ行ける!……この子たちなら、きっと大丈夫」
愛未の心には、誇らしさと期待が温かく広がっていた。
*
翌週、フレイミングパイはミニアルバムに収録予定だった全ての曲の録音を終えた。
カグラはみんなの励ましを受けて、初のボーカル録りを成功させた。
最初は緊張で声が震えていたが、シーが隣で優しく寄り添い、ポンズとレアがブースの外から温かい視線を送り続けた。
何度目かのテイクで、カグラの歌声は自然と伸びやかになり、その繊細な響きがスタジオ全体を包み込んだ。
シーやポンズとは違う、カグラの繊細な歌声は、フレイミングパイに新しい彩りを加えたのであった。
「ROCK STEADY 15周年ライブ」まで、あと少し。
フレイミングパイはこのミニアルバムを引っ下げ次の挑戦へと向かうこととなる。
登場人物
フレイミングパイ
・光月寛奈16歳(高1) ポンズ Vo.&Ba.
・真白詩音16歳 シー Vo. &Gt.
・神楽坂奏多16歳(高1) カグラ Gt.
・宝来鈴愛17歳 レア Dr.
マネージャー
・さとう愛未
ROCK STEADYオーナー
・岩田恒太郎
ポンズの祖父
・光月邦彦
レアの兄
・宝来翔太 ショータ
マツヤンメンバーのリーダー
・山田健太 ヤマケン
シーの追っかけ
・美咲
マツヤマ放送局のアナウンサー
・近藤エリカ
STUDIO T-STEADY
・社長 田中
・レコーディングエンジニア 一色




