EP.25 初仕事と次なる挑戦
フレイミングパイのホームタウン松山は、春の訪れを感じさせる陽気となってきた。
桜の木に目をやれば、蕾が膨らみつつあるのがわかるようになった。
それでもまだ朝晩は冷え込み、一日の寒暖差には注意が必要だ。
そんな折、フレイミングパイは愛未の個人事務所「サトウ・ミュージック・オフィス」通称STM所属アーティストとしての記念すべき最初の仕事、ラジオ出演に臨んでいた。
*
「みなさーんこんにちはー! FMマツヤマ『カモンマツヤン』の時間です! パーソナリティはマツヤマ放送局、近藤エリカでお送りします」
明るい声がスタジオに響く。
マツヤマ放送局のスタジオは温かみがあり、何より電波に乗って音楽が届けられる魔法の場所だった。
ラジオ局の建物内には過去に出演したアーティストのサイン色紙が至る所で見られ、その歴史の重みを感じさせる。
ポンズとシーは興味深そうにミキシング機材を眺め、カグラは緊張で手を膝の上で軽く握りしめている。
レアはそんなカグラに笑顔で肩をポンポンと叩いて自分の緊張も和らげている。
*
「今日のアシスタントは、マツヤンプロジェクトから、イベント担当の美咲さんと、松山を拠点にお笑い活動をしているショータさんにも来てもらってまーす」
「よろしくお願いしまーす」
美咲の元気な声に続いて、ショータも軽やかに番組アピール用に撮影しているカメラに手を振る。
「先週行われた、『マツヤンドリームセッション』お疲れ様でした! いかがでした!?」
「もうサイコーでした! これまでみんなで準備してきたことが形になって、本当に感動しました。特にライブは最高でした!」
美咲が身を乗り出すように興奮した様子で話している。
その熱量に、フレイミングパイの四人は思わず微笑んだ。
*
「『マツヤンドリームセッション』でMCを務めましたショータです! 今回はなんと言っても、ライブが会場全体を一つにしましたね! 素晴らしいイベントでした!」
レアの兄、ショータも満足そうに付け加える。
レアは兄の姿を見ながら、少し誇らしそうに胸を張った。
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「そうなんです! なんと今日のゲストは、先日行われた『マツヤンドリームセッション』で会場を魅了したガールズバンド、フレイミングパイの皆さんが来てくれているんでーす!」
近藤がフレイミングパイを紹介すると、四人は思わず顔を見合わせた。
ポンズが小さく「いくで!」と口パクで合図を送る。
「フレイミングパイです! よろしくお願いしまーす!」
四人の声が元気よく重なる。
ポンズ、シー、カグラ、レアは、マイクの前に並んで座り、初のラジオ出演にワクワクと緊張が入り混じっていた。
レアはショータと目が合うと、少し照れたような表情をしたが、ショータは兄として誇らしげに温かく笑いかけた。
その瞬間、レアの緊張がふっと和らいだ。
*
「まずは、先日のライブの模様を聞いてもらいましょうか!」
近藤が曲名を紹介すると、四人の表情が一気に輝いた。
スタジオにライブ音源が流れ始める。
四人は顔を見合わせ、嬉しそうに微笑んだ。
シーは目を閉じて音楽に浸り、ポンズは小さく体を揺らしている。
カグラは自分のギターの音色に聞き入り、レアは指で軽くリズムを刻んでいた。
自分たちの音楽が電波に乗って、今この瞬間にもどこかの誰かに届いていることの喜びに胸が躍った。
*
ライブの様子がある程度進むと、音を少し下げ、そのまま近藤が弾んだ声で話題を進める。
「いやあ、素晴らしい演奏でしたよね! 会場も大盛り上がりでした。まずはリーダーのポンズちゃん、ライブを振り返ってみていかがでしたか?」
「え? うちリーダーやったっけ?」
ポンズは首をかしげてメンバーを見渡すが、メンバーは誰も否定しなかった。
そして、すぐに満面の笑顔になる。
「いつのまにかリーダーみたいです……ライブはめっちゃ楽しかったです! お客さんもノリノリで、うちらも最高に気持ちよく演奏できました。あんなに盛り上がってもらえて、ほんま幸せでした!」
ポンズが弾けるような笑顔で手をくるくると回しながら答える。
その無邪気な仕草に、スタジオ内が和やかな笑いに包まれた。
*
「MCはいつもポンズちゃんがされてるんですか? いつも楽しげな雰囲気ですよね」
「いやいや、いつも勢いだけで……でも、最近はシーもすごくフォローしてくれるんよな?」
ポンズはそう言いながら、シーに目をやって笑った。
「雑なフリやな……」
シーは苦笑いを浮かべながらも、頬を少し赤らめて
「まあ、すべってるのを放っておけないしね……後々の演奏に響くし……」
「そうやで、めっちゃあてにしてるよ~シーちゃ~ん♡」
ポンズが両手でハートを作って見せる。
「やめて」
「あ、これですね! この息の合った掛け合いが会場でも大人気でした」
近藤は笑いながらそう言うと、シーは真っ赤になってうつむいていた。
*
近藤はそんな可愛いシーに優しく話題を振った。
「シーちゃん、歌ってるときはどうでしたか?」
シーは恥ずかしさを振り払うように軽く頭を振ってから答えた。
「あ、大街道ではよく路上ライブをやってましたけど、屋外であんなに本格的な機材と大音量のライブは初めてでした。音の広がり方が全然違って、最初は戸惑いましたけど、お客さんがすごく盛り上がってくれて、途中からはもう夢中になって歌ってました!」
話しているうちに目が輝いてきて、その時のライブの感動がよみがえってきたようだった。
「シーちゃんの歌声、ほんまに心に響くんですよね。路上で初めて聞いた時から、ずっとファンなんです」
美咲が熱心に頷きながらそう言うと、シーはまた頬を赤らめた。
*
「そして、カグラちゃん、ギターソロのパートが特に印象的でしたが」
「あ、はい……」
カグラは恥ずかしそうに俯きながらも、嬉しそうな表情を浮かべる。
「すごく楽しかったです……みんなが聞いてくれるのが嬉しくて……普段は緊張してしまうんですけど、あの時は気持ちよく弾けました……」
「うちらにはカグラちゃんのギターは絶対に欠かせないんです! あの音色があるから、フレイミングパイの音楽がひと味もふた味も違うんですから」
ポンズが愛情たっぷりにフォローすると、カグラは「えへへ……」と照れながらも、心の底から嬉しそうに微笑んだ。
「みんなと演奏してると、すごく幸せです……」
カグラの素直な言葉に、他の三人も温かい表情になった。
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「うちの中では、カグラちゃんのソロはカグラタイムと呼んでいます。そしてパフォーマンスが最高潮に達した時、それをカグラゾーンと呼びます!」
ポンズが調子に乗ってきたところ、カグラは真っ赤になっている。
「また調子に乗ってるわ」
シーが呆れる。
「そんなん初めて聞いたで!」
レアもシーに同調してポンズにツッコミを入れた。
スタジオ内に笑いが広がり、リスナーにも四人の仲の良さが伝わっているようだった。
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近藤はレアにも話題を振った。
「最後にレアさん、ドラムとして今回のステージはいかがでしたか?」
「最高でした!」
レアは体を前に乗り出すように元気よく答える。
「この三人の自由奔放な演奏を後ろから見てるんが、めっちゃ楽しいんですよ。みんなの音楽への愛情を肌で感じながら叩けるって、最高の贅沢ですよ」
レアが心の底からの笑顔で答えると、アクセサリーがキラキラと光った。
「レアだって自由奔放だと思うけど、でもそんなレアだから安心感ありますね」
シーが嬉しそうに言い返すと、レアも「えへへ」と照れた笑顔を見せる。
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「まあ、これがうちらの良さというか、魅力やと思ってます。みんながそれぞれの個性をぶつけ合いながらも一つの音楽にまとまっていく。それがフレイミングパイです」
ポンズが自信を持ってまとめると、他の三人も力強く頷いた。
「みなさんのお話から、フレイミングパイの魅力がグイグイ伝わってきます! それでは、マツヤンの美咲さん、今回のイベントを企画してみていかがでしたか?」
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「今回、マツヤンメンバーにフレイミングパイの大ファンの子がたくさんいて、イベントにゲストを呼ぶなら絶対にフレイミングパイだ! ってみんなで盛り上がったんです。それが実現して、本当に夢みたいでした。ライブも最高で、企画した甲斐がありました! シーちゃん大好きです!」
相変わらずの美咲の推しの強さと突然のラブコールに、またもシーは真っ赤になって照れながら机に突っ伏しそうになる。
それを見てポンズは腹を抱えて笑い、カグラとレアも楽しそうにくすくす笑っている。
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「ショータくん、MCとしての感想は?」
「マツヤンメンバーの皆さんが、企画から本当に楽しそうに取り組んでて、素晴らしいイベントになったと思います。特にフレイミングパイの皆さんは、観客との距離感がとても近くて、会場全体が家族のような一体感に包まれていましたね」
ショータが温かい口調で答える。
レアは兄の言葉を聞きながら、とても誇らしげな表情を浮かべ、小さく胸を張った。
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「さて、フレイミングパイの皆さん、今後の活動予定を教えてください」
「はい!」
ポンズが元気よく手を挙げる。
「普段はライブハウス『ROCK STEADY』を中心に活動しています。みなさんぜひライブハウスにお越しください。絶対に楽しんでもらえます! あと、時々うちとシーは路上でも演奏していますので、見かけたら遠慮なく声をかけてくださいね」
「それから、うちらはこの松山から音楽の輪をどんどん広げていきたいって思ってるんです。もっとたくさんの人に、うちらの音楽の楽しさを伝えていきたいです」
シーが希望に満ちた声で付け加えると、目がキラキラと輝いていた。
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「では、他のライブハウスに出演したり、ツアーに出たりとかする予定はありますか?」
近藤が興味深そうに身を乗り出した。
「はい、実は先日、正式に事務所所属のアーティストになったんです! これからもっと多くの人に音楽を届けるために、いろんな準備を進めています。楽しみにしていてください!」
シーが嬉しそうに答えるとメンバーたちも誇らしげに大きく頷いた。
四人の表情には、未来への確信が宿っていた。
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「それは楽しみです! 当分は『ROCK STEADY』で皆さんに会えるということですね。そういえば『ROCK STEADY』はもうすぐ15周年を迎える歴史あるライブハウスですよね」
「そうなんです。あそこはうちらにとっては大切なホームグラウンド、フレイミングパイの原点です。15周年の時は盛大にお祝いしたいです!」
シーは目を輝かせ、感謝の気持ちを込めて答えた。
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「本当に楽しみが尽きないですね! それでは最後に、リスナーの皆さんにメッセージをお願いします」
四人は顔を見合わせ、アイコンタクトで心を一つにした。
「えっと……」
ポンズが深呼吸をしてから話し始める。
「うちらフレイミングパイは、音楽が大好きで、毎日楽しく演奏している四人組です。まだまだ成長途中ですけど、音楽を通じてたくさんの人と繋がっていきたいです。『ROCK STEADY』で待ってますので、ぜひ会いに来てください! 音楽で最高の時間を一緒に作りましょう!」
ポンズが心を込めて言うと、
「待ってまーす!」
四人は力いっぱい声を合わせ、番組アピール用のカメラに手を振った。
*
「ありがとうございました! それでは、フレイミングパイで『フレイミングパイ』を聞きながらお別れです。この曲はメンバーそれぞれの個性が光るソロパートがあって、四人の魅力が詰まった楽しい楽曲です! どうぞ!」
スタジオに再びライブ音源が流れ始めた。
四人の心には、音楽への愛と未来への期待が満ちあふれていた。
自分たちの音楽が多くの人に届いている実感に、胸が熱くなった。
「それでは皆さん、また次回までごきげんよう! フレイミングパイの皆さん、素敵な時間をありがとうございました!」
*
生放送が終わり、スタジオを出ると、愛未が満面の笑顔で待っていた。
「お疲れ様!」
「サトちゃん! どうやった?」
ポンズたちが弾むように愛未の元へ駆け寄る。
興奮で頬が紅潮していた。
「完璧! みんな最高だったよ! 自然な掛け合いで、それぞれの魅力が伝わってた。聞いてる人みんながフレイミングパイを好きになったと思う」
「やったー!」
四人が飛び跳ねながら小さくハイタッチする。
その無邪気な喜び様に、愛未も思わず笑顔になった。
*
「レア!」
ショータが嬉しそうに声をかけてきた。
「アニキ! まさかラジオでも会うとは思わんかった」
レアが笑いながら言うと、ショータは誇らしげに微笑んだ。
「レアの成長ぶりを間近で見てて、本当に頼もしくなったなって思った。あのステージは最高やったで」
「やめてや、みんなおるのに……」
レアは照れながら頭をかく。
「ま、ありがとう」
レアの頬が嬉しそうに赤くなった。
「じゃあ、ボクはこれで。みなさん、これからも頑張ってください。レアをよろしくお願いします!」
ショータは軽やかに手を振って去っていった。
レアはその背中を見送りながら、充実した微笑みを浮かべた。
*
放送局を出ると、松山の街に夕日が美しく沈んでいく。
春の風が心地よく頬を撫でていった。
「みんな、今日は記念すべき第一歩だったね」
愛未が感慨深く言った。
「うん! なんか、夢への道筋がはっきり見えてきた気がする」
ポンズが希望に満ちた表情で夕焼け空を見上げる。
「これからが本当のスタートや」
シーが決意を新たに言った。
「みんなと一緒に、もっと素敵な音楽を作っていきたいです」
カグラが優しく微笑む。
「ああ、これからトークも磨いていかなあかんな」
レアがジョークを飛ばす。
「それはポンズにまかせとこ」
シーがそう返すと、四人は心の底から嬉しそうに笑った。
今日、フレイミングパイの音楽は電波に乗って、どれだけの人々に届き心に響いただろうか。
フレイミングパイの情熱はますます熱くなっていく。
*
ラジオ出演から数日後、過労で倒れてしまっていたライブハウス「ROCK STEADY」のオーナー岩田は、退院してから自宅療養を経て、ライブハウスに顔を出すようになった。
しかしながら実質的にはスタッフやアルバイト、愛未と山田でなんとか切り盛りしている状況であった。
「ROCK STEADY」には出演バンドも増え、フレイミングパイは平日と土曜に週二回ほど出演しており、ラジオ出演の影響もあって集客も順調に伸びていた。
ライブがない日でも、メンバーはいつものように事務所に集まっている。
そばにはライブハウスのデスクワークをしている岩田の姿も見える。
「ROCK STEADY」のスタッフルームに事務所を構えているSTMならではの光景である。
*
「さて、次の仕事は……」
愛未が四人を見回した。
事務所の空気が一気に引き締まる。
「ROCK STEADY 15周年記念ライブに出演します! 岩田オーナーの正式なオファーを受けて決定しました!」
「おお~!」
フレイミングパイの四人は声を上げ、パチパチと拍手をした。
ポンズは椅子から飛び上がり、シーに抱きついて拒否られている。
カグラは嬉しそうに手を握りしめ、レアは「やったー!」と拳を突き上げた。
*
「まあ、さっき『出てよ』って言っただけやけどね」
そばのデスクに座っている岩田がそう言って苦笑した。
「それでも15周年という節目の大事な日のライブに、フレイミングパイを選んで企画してもらったことはとても光栄なことよ」
愛未はキラキラした笑顔で四人に語りかけた。
「めっちゃプレッシャーや!」
そう言いながらも、ポンズは顔を興奮で輝かせている。
*
シーもにこやかに頷きながら答える。
「うん、でもほんと光栄やね。『ROCK STEADY』は、うちが初めてステージに立った場所やし、このメンバーが全員揃った場所でもある」
「うん……私たちの始まりの場所……」
カグラも感慨深そうに頷いた。
「ヤマケンさんにも、サトちゃんにも、ここでお世話になったもんな」
レアがアクセサリーをチャラチャラ鳴らしながら付け加えた。
*
「それと、もう一つ」
愛未は続けた。
四人の視線が愛未に集中する。
「その15周年ライブに向けて、レコーディングを始めるよ!」
「レコーディング!」
四人の目が一斉に輝いた。
まるで星が瞬いたような表情だった。
「オリジナル曲を、ちゃんとした形で残す。そして、15周年ライブでCDを販売するの。もちろんストリーミングサービス配信もスタートする! どう?」
「おお~! やる! 絶対やる!」
ポンズが椅子から立ち上がって即答した。
*
「グッズも作ろうや!」
レアが勢いよく提案する。
「うん!」
「やりたい!」
メンバーたちは、ライブハウス15周年の記念すべきライブに向けて、ファンのためのさまざまなアイデアを次々と出していく。
興奮で頬が紅潮し、目は希望の光で満ちていた。
*
「あ、ライブの時間はどのくらい?」
シーがふと、思い出したかのように愛未に尋ねた。
「三時間くらいの予定。ただフレイミングパイの曲数の関係もあるし、二部制にするのはどうかな?」
「じゃあ、前にカグラちゃんが提案してくれた、アンプラグド企画を第一部に持ってこん?」
ポンズがカグラの方を向いてそう提案すると、
「お、そやそや! うちも使いたいパーカッションあるんよね」
レアも嬉しそうに同調した。
「いいんじゃない。ね? カグちゃん」
シーがカグラに優しく話を振った。
「うん、わたしの次の挑戦、アコースティックでのリードギター……ぜひやりたいです!」
カグラの瞳がキラキラと輝いた。
*
「一部はシーポンズでやったうちのソロ曲とバンドの曲いくつかアコースティックバージョンで演ろう。『オレンジの坂道』もね……そして持ってる曲の残りを二部でぶちかます!」
シーがそう提案すると、ポンズもカグラもレアも手を叩いて賛成した。
シーのデモ音源CDを聞き込んでいる三人なら、すぐに対応できる。
*
「あと、どの曲をレコーディングするか決めなあかんな」
レアが現実的な提案をすると、ポンズが指を折りながら数え始めた。
「バンドの代表曲『フレイミングパイ』は絶対やな。それから『風のうた』と『青空ハイウェイ』も」
「インディーズフェスの時に初めてバンドで作った三曲やもんね。あと、『オレンジの坂道』と……カグちゃんの『Evening Calm』もやってみる?」
シーがポンズに同意しながら、カグラのオリジナルも提案する。
*
すると、カグラは恥ずかしそうに呟いた。
「あ、あの……歌詞できたの……」
三人の視線が一斉にカグラに向いた。
「えっ! ほんまに?」
ポンズが驚いて身を乗り出す。
「いつ作ったん?」
シーも興味深そうに尋ねた。
「つい先日……シーポンズの『オレンジの坂道』にすごく感化されたの。みんなと一緒に演奏してるとき、すごく楽しくて……その気持ちを曲にしたくて……」
カグラが小さな声で説明すると、レアが嬉しそうに手を叩いた。
「おお! 見せて見せて!」
カグラはレアに手渡すと、レアはシーとポンズと一緒に歌詞を読み始めた。
*
「シーちゃん……どうかな?」
カグラは緊張して、ソングライターの大先輩、シーの意見を求めた。
シーは真剣な表情で、歌詞を読んでいる。
カグラはドキドキしながらシーの様子を窺っていた。
「素朴だけど、何だろう……うちじゃ書けない繊細さがある……」
シーがそう分析すると、ポンズも頷いている。
*
「カグちゃん、歌ってみる?」
シーがそういうと、カグラは心臓がひっくり返るほど驚いた。
「な、いや、その、え? え? え?」
カグラは完全に動揺しまくっている。
「だめだよ、わたし、歌なんて、その、無理です! 書き直してもいいからシーちゃんが!」
シーはそんなカグラを見ても、冷静な表情をしている。
「この歌詞がだめだったら、うちはインストで演るって言ったと思う。でもこの歌詞はいい。でもねカグちゃん、この歌詞はカグちゃんにしか歌えない」
*
カグラの表情が変わり始めた。
そんなカグラの表情や、シーの真剣な言葉にレアが反応する。
「カグラちゃんの声が乗って、この曲は完成するんやな。この曲はカグラちゃんそのものやもん、な?」
レアの言葉に、シーもポンズも大きく頷いた。
「カグラちゃん、やってみようよ。うち、この歌詞大好きや!」
ポンズもそうやって励ますと、カグラは意を決したように顔を上げた。
「みんな、ありがとう。頑張ってみる」
三人は満面の笑顔をカグラに返した。
愛未はそんなメンバーたちのやり取りを見守りながら、胸が温かくなるのを感じていた。
*
「じゃあ、その五曲でミニアルバムにしましょう。レコーディングは今週末から。もうスタジオは押さえてあるの。15周年ライブまでに完成させるわよ!」
「おお~!」
四人の元気な声が事務所で響いた。
事務所の窓から見える夕空が、美しいオレンジ色に染まっていた。
*
四人の目には未来への期待が輝いている。
ROCK STEADY 15周年という記念すべき舞台。
初めてのレコーディングという大きな挑戦。
これまで以上に多くの人に音楽を届けられるよう、フレイミングパイにとって、今までで一番大きな挑戦になるだろう。
それでも四人と愛未には確信があった。
どんな困難が待っていても、みんなで一緒なら必ず乗り越えられる。
自分たちのチームなら何も怖くない。
新しい春に、新しい音楽の風を、フレイミングパイが吹かせるのだ。
登場人物
フレイミングパイ
・光月寛奈16歳(高1) ポンズ Vo.&Ba.
・真白詩音16歳 シー Vo. &Gt.
・神楽坂奏多16歳(高1) カグラ Gt.
・宝来鈴愛17歳 レア Dr.
マネージャー
・さとう愛未
ROCK STEADYオーナー
・岩田恒太郎
ポンズの祖父
・光月邦彦
レアの兄
・宝来翔太 ショータ
マツヤンメンバーのリーダー
・山田健太 ヤマケン
シーの追っかけ
・美咲
マツヤマ放送局のアナウンサー
・近藤エリカ




