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PONZ! ~ポール・マッカートニー大好きっ子が、路上ライブのシンガー、内気な天才ギタリスト、アクセ好きドラマーとバンドを組んだ話~  作者: 文月(あやつき)
第2部

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24/30

EP.22 年越し三世代セッションライブ!

 クリスマスイブの日、カグラは学校を終え、校門を出た。あと1日で冬休みだ。

 バンド仲間ができて初めての年越しに、いろいろと想像をめぐらすと、自然に笑みが溢れた。

 そして、カバンの中のスマホをチェックする。

 数日前、ポンズから緊急集合がかかっていたのには本当に驚いた。

「え? 今日も!?」

 グループメッセージに、ポンズ、シー、レアから、以前バンドが四人になった時に打ち上げをしたファミレスへ集合の号令がかかっていたのだ。

 ポンズ『緊急! 今日16時にあのファミレス集合!』

 シー『了解』

 レア『オッケー』

 何事かと思い、カグラはその店へと急いだ。

 *

 カグラがたどり着くと、三人は神妙な様子で座っている。

 不安げに合流し、席に着く。

「ど……どうしたの?」

 三人とも無言のままだった。

 すると、レアが立ち上がり、大きな声を出した。

「お願いします!」

 すると、店のスタッフが、バースデーソングとともにデザートを運んできた。

 カグラは目が点になっている。

「カグラちゃーん誕生日おめでとう! そしてメリークリスマス!」

 十二月二十四日はカグラの十六歳の誕生日だった。

 驚いたカグラは、

「あ、ありがとうみんな……びっくり……した……う、うえ〜ん…」

 と泣き出してしまった。

「ごめん! カグちゃんそんなつもりじゃ……」

 シーが慌てる。

 ポンズもレアも、必死でなだめた。

「ごめんなさい、大丈夫、うれしいの……」

 四人はデザートを囲み、いつものように音楽について語り合い、笑いあった。

 クリスマスイブの夜、街はイルミネーションで輝いている。

 四人にとって、最高のクリスマスプレゼントは、こうして一緒にいられることだった。

 *

 クリスマスも過ぎ、冬休みとなったある日、ポンズは祖父、光月邦彦(みつきくにひこ)の家を訪れた。

「おじいちゃん、使ってないアコギとかある?」

 ポンズはアンプラグドライブを提案したカグラに貸すアコースティックギターを求めてやってきたのだった。

 久しぶりに足を踏み入れた祖父の部屋は、いつ見ても小さなロック殿堂のようだった。

 壁一面に飾られた祖父の愛するミュージシャンやバンドの写真——レッド・ツェッペリン、ローリングストーンズ、イーグルス、クイーン、そしてビートルズ。

 また、古いレコードジャケットが額に丁寧に入れられ、大切に飾られている。

 そして、1964年頃のビートルズのライブの写真、ヘフナーのヴァイオリンベースを弾くポール・マッカートニーが、すべての始まりだった。

 *

 しかしこの日、ポンズは大きな変化に気がついた。

 一つは再結成したoasisのギャラガー兄弟のポスターが貼ってあること、そしてもう一つ……

「あ、うちらの写真や!」

 祖父の愛する往年のロックバンドと肩を並べて、「フレイミングパイ」の写真が飾られている。

 アーティスト写真のなかったフレイミングパイは、カグラの誕生日を祝った後この写真を撮った。

 ポンズはその日のことを思い返した。

 *

 ライブハウス「ROCK STEADY」にて、あるバンドのクリスマスライブのリハーサルの隙間を借りて、ステージに腰をかけるフレイミングパイの四人。

 ポンズとシーが中央に座り、両側からはさみ込んでレアとカグラが腰をかける。

 シーは内股気味に可愛らしくちょこんと座っていた。

 なんだかそれが愛おしくて、ポンズとカグラはぎゅっと挟み込むようにシーに寄りかかり、その反動でシーが少し口をすぼめる。

 あぐらをかいて座るレアがにこやかにその様子を見ている。

 そんな微笑ましい瞬間が収められた写真が、フレイミングパイのアーティスト写真となっている。

「ROCK STEADY」オーナー岩田のベストショットだった。

 *

「かんちゃんが見つけた、ジョン、ジョージ、リンゴはみんなかわいいなあ」

 祖父は孫から送ってもらった画像を早速プリントアウトし、壁に貼ったのだった。

 そして、大切に保管していた一本のギターを持ってきた。

「これなんかボディも小さめやし、ええと思うけど」

「見せて!」

 ポンズが期待を込めてケースを開くと、ヘッドロゴにはSEAGULLと書かれている。

「シー……ガル?……シーがガル~……」

 ポンズは頭の中で、シーが両手の指を曲げて鉤爪のようにして歯をむき出している姿を妄想し、吹き出しそうになった。

「何かおもしろいか? シーガルいうのんはカモメやな。カナダにもシーガルいうメーカーがあるんやけど、これは日本製、しかもこの愛媛の製作家さんのギターや」

「え? ほんならこの子は愛媛県産なんや!」

 ポンズの目がキラキラと輝く。

「あっはっは、そやね、しかもこの人が作るギターは、もうほぼマーチンと言っていいやろな。このSS-60はアコギでのソロパートには向いていると思うで」

「ありがとうおじいちゃん、カグラちゃん喜ぶわ」

 *

「かんちゃんは年末、ライブはもうせんの?」

 祖父が尋ねる。

「うん、うちらのホームのライブハウスは、もう大人のバンドさんが抑えてるし、よそのオファーもあったらしいけど、今はマネージャーのサトちゃんがおらんから、活動は年明けやって」

「ああそうなんや、かんちゃんこれ見て」

 祖父がいたずらっぽい表情でポンズにチラシを見せた。

「昭和ロッカーズ年越しセッション」と書いている。

 場所は「ROCK STEADY」だった。

 十二月三十一日十八時開演となっている。

「かんちゃんらもこれに出てみん?」

「え~? なにこれ!」

 ポンズが驚きの声を上げる。

「年越しのセッションは仲間たちと都合があえば、昔からやりよったんよ。かんちゃんらがここでやり出したとき、会場おさえといたんよ」

 フレイミングパイとブラックシトラスの活躍で、「ROCK STEADY」は今では人気のハコだが、自分たちが出演しはじめた頃はまだ会場はおさえやすかったのだろう。

 祖父の優しい配慮に、ポンズの胸が温かくなった。

 *

「でも、うちら夜の出演はできんよ」

「いやいや、これはお客さん入れてやる公演やないで、仲間内の忘年会みたいなもんや。どうせなら、みんなの家族も呼んだらええ」

「おもしろそう! 昭和ロッカーズのおいちゃんらとは久しぶりや! みんなに話すわ」

 ポンズの声に弾むような喜びが込められていた。

 ポンズはメンバーに連絡したところ、全員の快諾を得た。


 ポンズ『大晦日にROCK STEADYでおじいちゃんたちと年越しセッションやります! みんな参加してね!』

 シー『おもしろそう! 行く行く』

 カグラ『楽しみです!』

 レア『年越しライブとか最高やん』

 そして、自分の家族にも招待するようにと付け加えた。

 ポンズ『家族も呼んでいいって! みんな誘ってね』


 *

 大晦日まではあと二日、練習スタジオではポンズ、シー、カグラが集合した。

 レアはコンビニのバイトが年末の大忙しで抜けられない。

 先日勝手に抜け出して、店内に日本語もままならない留学生二人だけ置いてきたので、店長にこっぴどく叱られていたのである。

「二曲頼まれたで。ただ、おじいちゃんらのリクエストで、ビートルズやってほしいって言うんよ」

 ポンズが興奮気味に二人に説明する。

「ええやん。ポンズの影響で最近よく聴いてるで、ビートルズ」

 シーがなんでも来いといった感じで気軽に返答した。

 *

「ひとつはいつもやってるポールの『Flaming Pie』にしようかと思うんやけど、もうひとつはシーにこれ歌ってほしいんよ」

 ポンズは祖父にコピーしてもらったスコアを渡した。

 ビートルズの「You Can't Do That」だった。

「これな、ジョン・レノンがギターソロとってるんやけど、リズムギターっぽくて荒っぽいのがジョンらしくてええんよ。シー、カッティングやバッキングうまいから向いてる思うんよな」

「このアルバムのジョンの曲ってみんなええよな。変わったギターやと思ってたんやけど、ジョンやったんや。やってみたい!」

 シーの目が挑戦への意欲で輝く。

「よっしゃ、カグラちゃん、この曲はリフがキモやからよろしく頼みます」

「うん、わかった」

 カグラが決意を込めて頷く。

 この練習で、シーは少しチョーキングに手間取ったが、持ち前の集中力ですぐにマスターしてしまった。

 *

 そしてポンズは祖父に借りたアコースティックギターをカグラに見せた。

 カグラはほぼ初めて手にするアコースティックギターの感触を確かめた。

「押さえるの硬い……シーちゃんよくこういうの弾いてるね。でも、ポンズちゃん、ありがとう。ほんとに使っていいの?」

「いいのいいの、愛媛県産のマーチンギターや」

「は? 一瞬で矛盾したんやけど」

 シーが即座に反応した。

「でも、さすがに生ギターはうちでは鳴らせないかな……」

 カグラが不安そうに呟く。

「ああ~それもそうやなあ……持ち運びもたいへんやし、アンプラグド企画決まったら、おじいちゃんち借りて練習やってもいいかもね。頼んどくわ」

 *

「ポンズっておじいちゃんっ子やったんやな」

 シーが微笑ましそうに言うと、

「シーはパパっ子やもんな」

 ポンズがにこやかに返す。

「わたしはママっ子かな……実は今、挑戦していることがあるの」

 カグラが恥ずかしそうに話し始める。

「え~? なになに?」

「ピアノ……お母さんに教えてもらってたんよ。少し伴奏くらいはできるようになった。ポンズちゃん喜ぶと思って、『LET IT BE』も練習したよ」

「おおー! サトちゃんのピアノ借りて、やってみる?」

 ポンズが興奮して提案する。

 *

「待ってよ、あの曲ギターソロあるよ」

 シーが心配そうに指摘する。

「シーがやればええやん!」

「え?」

「シー、今から特訓や!」

「今からって、さすがにスコアは?」

「あるよ」

 とカグラが差し出す。

「ええ~!?」

 シーは覚えたてのチョーキングをこれでもかと弾く羽目になった。

 幸いアコースティックで鍛えた指先は大丈夫だった。

 *

「レアちゃんにメッセージしとこ」

 ポンズ『大晦日のセトリはビートルズの「You Can't Do That」と「Let It Be」です。なんとシーがリードギター、カグラちゃんがピアノに挑戦です!』

 カグラのギター伴奏に合わせ、シーがポンズに習ってギターパートを入れていく。

「さすがシー、飲み込み早いなあ」

「あんまり複雑やないからなんとかなりそうやわ」

「よっしゃフレイミングパイらしい選曲になったで! おじいちゃんに曲連絡しとこ。あ、レアちゃんから返信や」

 レア『どっちもたたいたことあるよ』

 そして「楽しみ~」というスタンプが一緒だった。

 翌日、ポンズたちはもう一度集まって練習し、レア不在のまま、ほとんどぶっつけ本番で大晦日を迎えることになった。

 *

 大晦日の「ROCK STEADY」は、幸いポンズの祖父たちだけの予約しかなく、ポンズたちは午前中から練習に入っていた。

「レアちゃん大丈夫か?」

 ポンズが久しぶりに合流したレアを心配そうに見つめる。

 レアは、忙しい時間帯のシフトに連日入り、疲労困憊の様子だった。

「大丈夫大丈夫、前はその上にライブも出てたからね。それより、カグラちゃんピアノ弾くんやって?」

「うん……自信はないけど、何か新しいことでバンドに役に立ちたかったの」

 カグラの声に決意が込められている。

「さすがカグラちゃんやなあ、シーもギターソロやるんだって?」

「左の指ボロボロや」

 シーが苦笑いを浮かべる。

「シーもさすがやなあ」

 *

「じゃ、早速やってみよう!」

 ポンズの号令で、四人はステージで位置に着く。

 ポンズは念願だったビートルズナンバーを仲間とともに演奏できる喜びを噛みしめていた。

 もちろん、B.F祭の演奏に比べたら、学園祭レベルのような演奏だった。

 ポンズは、テンポがあやしいカグラのピアノと、ギターソロに必死でずっとうつむき加減のシーが愛おしくてたまらない。

 そんな二人が必死な様子をレアと目を合わせて微笑ましく見守っていた。

 数回演奏を続けたところで、買い出しから戻ったオーナーの岩田がメンバーに声をかけた。

「その構成、フレイミングパイの新しい方向性が見えて面白いね」

「ピアノが入ると楽曲の幅も広がるし、これからの曲作りもすごく楽しみ!」

 ポンズはキラキラした表情で、希望に満ち溢れている。

 *

「ポンズもポール様のお弟子さんなら弾けなくちゃね」

 シーがニヤニヤしてそう言うと、

「え?うちもいくつか弾けるで! うちがピアノを弾くときは、シーがベースやけんな!」

「げっ」

 最近、シーはポンズにやり込められることが多くなっている。

「みんなで担当楽器を交代していくなんて、考えただけでもおもしろそうやろ!」

 ポンズは高らかに笑って、上機嫌だった。

 シーは苦笑いしながら、バンド名を決めた時のことを思い出した。

「あんときも、あんなテンションやったな……よっぽどうれしいんやな……」

 *

 この一連の様子を見て、岩田は愉快そうに笑いながら、

「『You Can't Do That』もなかなかの選曲だね」

 ポンズはいたずらっぽい顔になり、ニヤリとして言った。

「これは、シーからサトちゃんへのメッセージソングとして選んだんや」

「You Can't Do That」は、所有欲の強さと嫉妬心がテーマで、彼女に「自分以外の誰かと話すんじゃない、前にも言っただろ、そんなことするんじゃない」と歌っているのだ。

 先日のシーによる愛未への誤解から始まった、フレイミングパイ全員号泣事件に対する、ポンズからシーへの愛情たっぷりの仕返しだった。

 歌詞の意味を知る岩田は大笑いを始めた。

「あっはっはっは……さすが……ポンズちゃん……はっはっはっは!」

 シーは「ジョンの彼女に対しての嫉妬の曲」とだけ聞いているが、ポンズとオーナーが何を笑い合っているか、気づかずポカンとしていた。

 *

 すると後方から、

「レアちゃん!」

 と、カグラの心配そうな声が聞こえてきた。

 レアは昨日までの激務で、目が虚ろになって、ドラムセットで船を漕いでいる。

「ああ、スタッフルーム使っていいよ」

 岩田に言われ、カグラは

「レアちゃん、こっち」

 と、介護するように、レアをスタッフルームに連れていった。

 *

 午後には、ポンズの祖父らの「昭和ロッカーズ」と仲間の「ネンキンボーイズ」がやってきて、機材を搬入し、音出しを始める。

 フレイミングパイはライブハウスのスタッフらと、会場へテーブルや椅子を並べた。

 レアにはスタッフルームで仮眠を取らせていた。

 ポンズは聞き慣れた、しわが刻まれた温かいメロディを耳にしながら、各テーブルを布巾で丁寧に拭いている。

 シーは椅子を持ったまま、彼らの演奏を見つめていた。

「手が止まってんでシー」

「うん……ねえポンズ」

「なに?」

「うちらもあの歳まで一緒に音楽やってるやろか?」

 シーの言葉に、深い想いが込められていた。

 ポンズはニコーっと笑って、シーに後ろから抱きつき、

「やってたいな」

 と言ったが、

「やめて」

 と、久しぶりに一刀両断されてしまった。

 *

 夕方になると、いつも若者たちであふれる「ROCK STEADY」は異様な風景だった。

 地域コミュニティに集まる住民たちのように、多世代の人々がテーブルを囲み、運ばれたオードブルを前に、開演を心待ちにしていた。

 会場には、ポンズの両親や、カグラの両親もいる。

 ポンズとカグラは、会場で家族と談笑しながら、主催である祖父の出番を楽しみに待っている。

 *

 スタッフルームでは、今まさに目を覚ましたレアが、大きく背伸びをしていた。

「うわぁ、めっちゃ寝たわ」

 そこへシーが現れた。

「おはよう。よう寝とったね」

「ああ、シー、もう始まるん?」

「うん、まあうちらは出番はまだ先やし」

 シーはストレッチを始めるレアを見ながら、少し照れたように話し始める。

「あの……こないだはごめんね。うちのせいで、仕事ほっぽってきたんやろ?」

「いやあ、ポンズが珍しくオロオロしとったねえ。ほんとポンズはシーのことが大好きよな」

 少し赤くなったシーは申し訳なくなると同時に、レアのことはあまりよく知らないなと思った。

 *

「今日、ポンズもカグちゃんも家族来とるって、うちは母さん仕事で遅くなるらしい。レアん家は?」

「うちは親はおらんのよ、アニキが一人、まだ仕事のはずやけどね」

 レアがさりげなく答える。

「そやったんや、お兄さんおるんや? いくつくらい?」

「二十一歳やったかな? まあまあ離れてるやろ。お笑い芸人になりたいらしいで」

「へえ、じゃあ、面白い人なんや」

「いや、ど真面目! 高校んとき演劇部入っとってな、舞台でお客さんにウケたことがあって、なんかそれがめっちゃ嬉しかったんやって」

「へえ!演劇か…今日来るん?」

「今晩、ここでやることだけは言ってある。呼んでないけど」

「え〜、会ってみたいなあ」

「いやや、恥ずかしいわ!」

 シーとレアは自然と笑い合った。

 ちょっと珍しいツーショットで、お互いちょっぴり照れ臭かった。

 *

 レアはクスクス笑うシーの笑い顔を見て言った。

「シーとこうして話してると、ポンズの気持ちわかったわ。可愛いて、妹みたい」

「な、なに言うてんの」

 シーが頬を赤らめる。

「こないだのサトちゃんの唄、マキらとやったシーの唄、ほんますごかったな。うち、ドラムやったら他の楽器には負けんって思ってるけど、やっぱ『()』には勝てんな」

「レア……」

「うち、あんたら三人の背中大好きや。来年もっともっと上に行こうや」

「もちろん……」

 シーとレアは拳を合わせた。

 二人の間に、新たな絆が生まれた瞬間だった。

「始まるで、行こ」

 二人は、会場へと一緒に向かった。

 *

 この日、ポンズの祖父ら「昭和ロッカーズ」が、ビートルズやレッド・ツェッペリン、ローリングストーンズを熱演した。

 年齢を感じさせない、エネルギッシュな演奏だった。

 若い頃から何十年も弾き続けてきた曲たちは、彼らの体に染み込んでいる。

 それに対し「ネンキンボーイズ」はベンチャーズやビーチボーイズを演奏し、季節はずれとガヤを入れられ笑いが起こった。

 会場は温かい笑いと拍手に包まれていた。

 *

 そして、フレイミングパイの番がやってきた。

 今夜はビートルズナンバー「You Can't Do That」と「Let It Be」を演奏する。

 シーは初めてギターソロを担当し、カグラはピアノを伴奏する。

「You Can't Do That」では、シーの見事なボーカルと、ポンズとカグラのコーラスが美しく響き渡る。

 そしてシーはソロを見事に弾きこなした。

 会場の大人たちは拍手喝采、祖父の仲間の一人は目頭を熱くしている。

 孫世代の女の子たちが自分たちの青春を熱くしたビートルズを演奏している。

 祖父はそんな仲間たちに何やら耳打ちを始める。

 何か企んでいるようだ。

 *

「Let It Be」では、カグラがピアノの前に座る。

 カグラにピアノを教えた母親が心配そうに眺めている。

 鍵盤を前に表情の固いカグラ、指先が少し震えている。

 その様子を見ていたレアは、

「カグラちゃん」

 と、優しくクローズドリムショットでリズムを刻み出した。

 カグラはホッとしたように、それに合わせて鍵盤を鳴らす。

 誰もが聞いたことのあるピアノの前奏が響き、ポンズが歌い出す。

 女の子には低いキーだが、シーも被せて一緒に歌いサポートし、コーラスもこなした。

 リズムガイドをしていたレアは次にハイハットを入れる。

 ポンズのベースが加わり、リズム隊がカグラのピアノを温かく包み込む。

 やはり、ストリングやオルガンがないと少し寂しいが、シーのギターがそれを見事にカバーする。

 *

 そして間奏に入る。

 シーはディストーションを効かせると、ソロを弾き始める。

 口を真一文字に結び、カグラのようにうつむいて必死に指板と自分の指を確認しながら弾いている。

 カグラもずっと鍵盤を見つめている。

 ポンズとレアはニコニコしながら二人を見守っている。

 シーは見事にソロを弾きこなすと、岩田オーナーがマラカスで参加してきた。

 終盤は、ポンズのボーカルに絡みつくように、シーのリードギターが響く。

 シーは最後までリードを必死に弾き切り、エンディングを迎えた。

 *

 会場は割れんばかりの拍手で四人を包み込んだ。

 シーはやっと顔をあげ、会場を見渡すと自分の母親を確認した。

 シーは子供の顔になり、にこやかに母親に向けて笑顔を見せた。

 母親はシーに笑顔で手を振った。

 カグラの母は感激のあまり涙していた。

 初めての挑戦にカグラも涙していた。

 シーはホッとした表情で、カグラの元に近寄ると、温かいハグを交わした。

「ありがとうございました!」

 とポンズが会場に挨拶すると、祖父たち「昭和ロッカーズ」が楽器を持って乱入してきた。

「かんちゃん、あれやって終わりにしようや」

「あれね!」

 ポンズの目が輝く。

 *

 ポンズはベースとして残った。

 祖父はギターを持って、シーの前に譜面台と譜面を置いた。

 祖父の仲間の一人がカグラに代わってピアノに座る。

 またある仲間はレアに何か耳打ちし、レアがOKの合図を出すと、タンバリンを構えた。

 カグラはギターに持ち直すとシーの横に立った。

 ポンズは出だしの音を耳でとると、マイクに向かって歌い出す。

「Hey Jude~」

 フレイミングパイと昭和ロッカーズが即興でビートルズの「Hey Jude」の演奏を始めた。

 世代を超えて、みんな笑顔で一つの曲を演奏し、会場は温かい雰囲気に包まれる。

 会場では、それぞれの家族たちが手拍子をしている。

 ポンズのボーカルに祖父たちがハーモニーを入れていく。

 ポンズは昭和ロッカーズと幾度となく演奏しているので慣れたものである。

 *

 そして終盤、

 "Remember to let her under your skin, Then you'll begin to make it Better better better better better better..."

「Ahhhhhhh!!!」

 ポンズがシャウトする。

 それを合図に全員が大合唱を始める。

 “Na na na nananana nananana Hey Jude……”

 何度も何度もリピートする。

 ポンズもシーもカグラもレアも大きく口を開けて歌っている。

 年金暮らしの祖父たちも、ポンズの両親も、カグラの両親も、シーの母親も、会場にいるすべての人たちが、この一つのフレーズを何度も何度も歌う。

 ポンズとシーが順番にフェイクを入れていく。

 カグラが即興でリードギターを弾いていく。

 ポンズは、いつまでもいつまでも、このまま歌っていたかった。

 そしていつまでもこのままでありますようにと、心から願っていた。

 *

 ついに曲がエンディングを迎え、ポンズとシーとカグラがジャンプし、レアがタイミングよくフィニッシュ!

 この瞬間

「ブラボーー!」

 と一人の若い青年が叫んだ。

「ドラムサイコー! レア!」

「げ! アニキ!」

「え?」

 とポンズとカグラがキョトンとしていると、

「あれがレアのお兄さん……」

 とシーが呟いた。

「ええ~!」

 ポンズとカグラは驚き、この日のライブの曲目はすべて終わった。

 *

 そして会場では年越しカウントダウンを迎え、みんな新しい年を迎えるのだった。

「あけましておめでとうシー」

「あけましておめでとうポンズ」

 ポンズとシーは新年の挨拶を交わした。

 レアとカグラが二人に歩み寄る。

「あけましておめでとう、今年もよろしくね」

 四人は手を重ね合わせた。

 フレイミングパイの新しい年が、希望の光と共に始まった。

登場人物

フレイミングパイ

光月寛奈みつき かんな16歳(高1) ポンズ Vo.&Ba.

真白詩音ましろ しおん15歳 シー Vo. &Gt.

神楽坂奏多かぐらざか かなた16歳(高1) カグラ Gt.

宝来鈴愛ほうらい れあ17歳 レア Dr.

マネージャー

・さとう愛未あいみ

ROCK STEADYオーナー

岩田恒太郎いわたこうたろう

ポンズの祖父

光月邦彦みつきくにひこ

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