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PONZ! ~ポール・マッカートニー大好きっ子が、路上ライブのシンガー、内気な天才ギタリスト、アクセ好きドラマーとバンドを組んだ話~  作者: 文月(あやつき)
第2部

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18/30

EP.16 シーポンズの松山散策

 フレイミングパイとブラックシトラスのSNSアカウントで、ある告知動画が公開された。

 動画の冒頭では、ブラックシトラスのマキが一人、「ROCK STEADY」の年季の入った看板の前に凛々しく立っている。

 秋の陽だまりが彼女の黒い衣装を柔らかく照らしていた。

「ブラックシトラスのベース、マキです。十一月から、ライブハウスROCK STEADYではB.F dayを始めます」

 彼女のクールな声が、街の静寂に響く。

「ねえねえ、B.F Dayってなに?」

 そこへフレイミングパイのドラム、レアが弾むように画面に飛び込んでくる。テロップも「フレイミングパイ レア(ドラム)」としっかり出ている。

 レアの無邪気な表情が、マキの真面目な雰囲気を一瞬で和ませた。

「B.F DayのBとFは、うちらブラックシトラスのB、フレイミングパイのFのことで、ブラックシトラスとフレイミングパイの日ってことです。この日には、『ROCK STEADY』にこの二組が出演するんです」

 マキが丁寧に説明すると、レアが茶目っ気たっぷりに割り込む。

「高校生がいるからフレイミングパイは夕方の部、ブラックシトラスが大人の時間って感じ?」

「まあ、そういうことや。あんたらがわちゃわちゃやった後は、うちらがクールに決めるけん」

 マキの口元にかすかな笑みが浮かぶ。

「なにぃ!? 誰がわちゃわちゃバンドや!」

 レアが大げさに憤慨する演技で、ヘタクソな芝居ながらも愛らしい取っ組み合いが始まる。

 *

 そこへフレイミングパイのメインボーカルのシーとブラックシトラスのボーカル、ユズが絶妙なタイミングで現れる。

「詳細はROCK STEADYのホームページで!」

 二人が息ぴったりで声を合わせると、ポンズらフレイミングパイとブラックシトラスの残りのメンバーが画面狭しと全員登場し、

「待ってるでー!」

 と手を振りながら、両グループが微笑ましい茶番劇を演じて動画は終了する。

 見る人の心が自然と温かくなる、そんな可愛らしい動画となっていた。

 *

「ポンズ、またそれ見てんの?」

 シーが呆れたような、でも愛おしそうな声で尋ねる。

「みんなかわいいなー思て、再生数上げとかんとな」

 ポンズが無邪気に答えながら、スマホの画面を見つめている。

 その横顔は、自分たちの活動を心から楽しんでいる証拠だった。

「まあ、こう見ると向こうが活動期間長い分、フォロワーも再生回数も多いな、でも相乗効果でうちらも伸びとるし、ありがたいよな」

 シーが客観的に分析する。

「これ見たら、レアちゃんマキちゃんが険悪やないことぐらいわかるやろ」

 ポンズの声に安堵が込められていた。

 マキがレアをクビにしてしまったという、ネガティブな噂に終止符を打つ策として、まずはマキとレアが絡むシナリオとしたのだった。

 *

 他愛のない会話を交わしながら、ポンズとシーは松山城の城山へ登るリフトの前で、券売機と向き合っていた。

 十一月の松山は、秋の深まりを感じさせる穏やかな陽気だった。

「ねえ、ロープウェイにせんの?」

 シーが少し不安げに提案する。

「なに? シーこわいん?」

 ポンズが意地悪そうに微笑む。

 その笑顔には、シーをからかう楽しさが滲み出ていた。

「な! そんなことないわ!」

 シーは慌てて否定したものの、実際のところ、そういう乗り物に乗った経験がない彼女は心臓がドキドキしていた。

 ステージでは堂々としているシーが、こういう場面では意外と臆病になるのが、ポンズには可愛くてたまらなかった。

 *

「ほら来たで!」

 ポンズが何の躊躇もなく、慣れた様子でリフトに腰をかけ、ゆっくりと空中へ舞い上がっていく。

 シーも係員の優しい誘導で定位置につく。

 係員が座りやすいようにスピードを調整してくれたにもかかわらず、シーは慌ててしまい、尻餅をつきながら座って、リフトを大きく揺らしてしまった。

「何してんの!?」

 前方のポンズが振り返って、心配そうに声をかけた。

「何でもないわ!」

 シーは両手でポールを死ぬほど握りしめながら、顔を真っ赤にしてポンズに叫び返した。

 普段は冷静沈着なシーが、こんなにも取り乱している姿は珍しい。

 リフトはそれほど高くないことに安心したシーだが、前方のポンズを見ると、足をプラプラと楽しそうに動かしているし、スマホ片手に風景を撮影している姿に、

「何やってんの! スマホ落としたらどうすんの」

 と、心配性の本領を発揮してただただ不安感でいっぱいだった。

 *

 ところが、恐る恐る辺りを見回すと、秋の紅葉が燃えるように美しく、眼下には「ことばのちから」という市民から公募した、たくさんの温かみのある「ことば」の掲示が見えた。そういえば路面電車にもラッピングされていたし、ここにくる途中の街灯のタペストリーにも、その「ことば」たちがあったことに、シーは気づいた。

「へえ~おもろいな」

 フレイミングパイの作詞のほとんどを手がけるシーには、そのたくさんの「ことば」たちが心の琴線に触れた。

 一つ一つの言葉が、誰かの想いを込めて紡がれたものだと思うと、胸が温かくなる。

 不安な気持ちが徐々に落ち着いていくのを感じた。

 そしていつの間にか、あっという間に頂上に到着していた。

 *

 松山城は、日本に現存する十二の天守閣のひとつで、江戸時代に建てられた優美な姿は、防御に優れた城郭として日本三大平山城の一つにも挙げられている歴史的建造物だ。

 日本史など全く詳しくない二人だが、城山や天守閣から一望できる松山市街の絶景に、ただただ心を奪われていた。

 瀬戸内海まで見渡せる雄大な眺めに、二人は言葉を失う。

「うちらの街も捨てたもんやないな」

 シーが感慨深くつぶやく。

「うん、ええとこやと思うで松山」

 ポンズが誇らしげに同意する。

「こっからうちらの音楽、全国へ、いや世界へ発信したいよな」

 ポンズの瞳に野望の炎が宿る。

 その真剣な横顔を、シーはそっと見つめた。

 この子と一緒なら、本当にできるかもしれない。

 そんな気持ちが、シーの胸に静かに広がっていく。

 *

 二人はベンチに腰をかけ、地元の名産ポンジュースを飲みながら、フレイミングパイの楽曲の作詞のアイデアを自然と出し合っていた。

 風が頬を撫でて心地よく、創作意欲が湧き上がってくる。

「ポンジュース飲んでるポンズって、なんかおもろいな」

 シーがくすくす笑う。

「何よ、シーが付けたくせに」

 ポンズが頬を膨らませて抗議する。

「光月寛奈でミツカン、だからポンズって、我ながらええネーミングやと思うわ」

「自画自賛かい!…って、今すっとうちの名前言うたな…やっと覚えたか」

「でもな、ぽん酢のポンって、柑橘って意味らしいで。ポンジュースのポンも、日本一って意味もあるけど、柑橘のポンも含んどるんやって」

 シーが得意げに解説する。

「へえ~、じゃあポンズとポンジュース、つながっとるやん!」

 ポンズが目を輝かせる。

「愛媛出身のポンズが、柑橘のポンジュース飲んでる。なんか運命的やな」

「シー、うち今からポンジュース大使になるわ」

「なれるか」

 シーがツッコミを入れると、二人で声を上げて笑った。

「次、道後に行ってみん?」

 ポンズが提案する。

「そうやな、地元やのになかなか行かんもんな」

 シーが笑顔を浮かべながら頷く。

 *

 大街道から道後温泉前まで、のんびりと路面電車に揺られる。

 松山の街並みが車窓をゆっくりと流れていく中、シーはいつもの作詞用のノートに、心に浮かんだ言葉たちを丁寧に書き綴っていく。

 城山で見た「ことばのちから」に刺激を受けたのか、ペンが止まらない。

 ポンズも真似をして、スマホのメモアプリに思いついた言葉を次々と紡いでいった。

「シー、何書いてんの?」

 ポンズが覗き込もうとすると、シーはさっとノートを胸に抱えた。

「まだ見せられん」

「えー、ケチ」

 ポンズが唇を尖らせる。

 その表情があまりにも可愛くて、シーは思わず噴き出してしまった。

 *

 道後ハイカラ通りの入り口まで着くと、ちょうど坊っちゃんカラクリ時計が威勢よく動き始めていた。

 夏目漱石の『坊っちゃん』に登場するキャラクターたちが、音楽に合わせて踊り出す。

 ポンズとシーはそれを見上げながら、二人スマホで記念写真をパシャリ。

「ポンズ、ちょっとしゃがんで」

「なんで?」

「うちの方がちっちゃいけん、顔切れる」

「シーがジャンプしたらええやん」

「無茶言うな」

 二人でああでもない、こうでもないと言い合いながら、何枚も写真を撮る。

 通りがかりの観光客が、微笑ましそうに二人を見ていた。

「足湯あるよ!」

 ポンズが興奮気味に指差す。

伊佐爾波(いさにわ)神社行ってからにしようや」

 シーが落ち着いて提案する。

 *

 伊佐爾波神社は、道後温泉の近く、急峻な石段の上に鎮座し、朱色が鮮やかな社殿が印象的な神社で、石段上から望む松山市街の展望は圧巻である。

「おお! すごい階段やな」

 ポンズが見上げて圧倒される。

 石段は急ながら、大正時代に地元の有志たちによって、登りやすく改造された歴史があった。

「このくらい、うちは毎朝走ってるからな」

 シーが自信満々に胸を張る。

 毎朝のランニングで鍛えた脚力には自信があった。

「うちだって、毎日ポスティングのバイトで走り回ってるよ、チャリやけど」

 ポンズが負けじと対抗心を燃やす。

「よ~し、いっちょやりますか!」

「のぞむところや!」

「よーい…ドン!」

 ポンズとシーは百三十五段の石段を、意地とプライドをかけた妙な張り合いで駆け上がり始めた。

 *

 息を切らしながらもなかなかいい勝負だった。

 序盤はポンズがリードしていたが、中盤からシーが追い上げる。

「はあ、はあ、負けへんで!」

「こっちこそ!」

 二人とも顔を真っ赤にして、息を荒げながら駆け上がる。

 最後はタッチの差でシーが勝利を収めた。

「しゃー!」

 シーは我を忘れて勝鬨を上げたが、すでに参拝に来ていた観光客の注目を一身に浴び、笑われてしまった。

 朱色の社殿と同じくらい真っ赤になったシーは、ただただポンズに笑われるのだった。

「シー、顔真っ赤やん」

「うるさい! ポンズだって真っ赤やん!」

「いやいや、シーの方が赤いって」

 息を切らしながらも、二人は笑い合った。

 *

 二人は心を込めてお参りを済ませ、石段を下ろうとした時、日が傾き始めた美しい松山の街並みを見下ろすその絶景に、足を止めて見惚れてしまった。

 夕焼けがオレンジ色に染め上げた街は、まるで絵画のように美しかった。

 石段が夕日に照らされ、黄金色に輝いている。

「オレンジの坂道……」

 ポンズが夕焼けに染まる街を見つめながら、詩的にぽつりとつぶやく。

 その瞬間、シーが雷に打たれたように背筋を伸ばした。

 今日一日書き綴ってきた作詞ノートのページを慌ててめくると、サラサラと文字を踊らせていく。

「ポンズ、できたで。今日歩いてできた詞や、タイトルは『オレンジの坂道』や」

 シーの目が輝いている。

「あ! さっきうちが言うたやつ!」

 ポンズが嬉しそうに驚く。

「ふふ、もらうで」

 シーが茶目っ気たっぷりに微笑む。

 *

「しゃあないな、見せて!」

 シーはポンズに詞を見せた。

 松山の街並みや、一緒に歩くかけがえのない人について、温かい想いを込めて綴られている。

 城山で見た「ことば」たち、路面電車の車窓から見えた景色、そして今見ている夕焼けの坂道。

 今日一日の全てが、この詞に詰まっていた。

「これうちのこと?」

 ポンズがドキドキしながら尋ねる。

「なんでや、誰にでも当てはまるように作っとるわ」

 なぜか頬を赤らめながら答えるシーに、ポンズもそれ以上は追求しなかった。

 でも、二人の間には、言葉にしなくても伝わる何かがあった。

「シー! 温泉入って行こうや!」

 ポンズが話題を変えるように提案する。

「え?」

「地元やのに一回も行ったことないし、行こや!」

 ポンズは恥ずかしがるシーの手を引いて、道後温泉本館に向かった。

 *

 道後温泉本館は日本最古の温泉とも言われ、最近大規模な保存修理工事が完了したばかりの歴史ある建物だ。

 夕暮れの中、ライトアップされた建物は幻想的な美しさを放っていた。

「霊の湯」の女性浴場では、中央の大国主命と少彦名命の二神像が優しく見守り、開放的な浴槽が神秘的な雰囲気を醸し出している。

「深っ」

 体の小さなシーが目を丸くして驚いた。

 浴槽は深めで、ポンズでも膝立ちをして肩が出るくらいの深さだった。

「シー、溺れんなよ」

「溺れるか!」

 シーが頬を膨らませる。

 その姿が可愛くて、ポンズはまた笑ってしまう。

 温かい湯に浸かりながら、二人は今日一日のことを振り返った。

 リフトでのシーの慌てぶり、石段レース、そして生まれた新曲。

「ええ一日やったな」

 シーがしみじみと言う。

「うん、また来ような」

 ポンズが微笑む。

 *

 二人は湯上がりに肌触りの良い貸し浴衣に着替え、二階にある趣のある大広間で、お茶とお茶菓子を味わいながらゆったりとくつろいだ。

 畳の上に座り、窓から見える松山の夜景を眺める。

「いやあ~よかったな~ほんまにここで寝てもええくらいやなあ」

 ポンズが心底満足そうにため息をつく。

 隣を見ると、シーが必死に目を開けようとしていた。

 どうやら石段ダッシュで体力を使い切ったらしく、睡魔が襲ってきているようだ。

「シー、眠いん?」

「ね、眠くない」

 シーは強がるが、その瞼は何度もゆっくり落ちかけては、はっと持ち上げるを繰り返している。

 お茶を飲もうとして、湯呑みを持つ手がふらふらと揺れた。

「危なっ、こぼすで」

「大丈夫……うちは……まだ……」

 シーの頭がこくりと傾きかけて、また慌てて起き上がる。

 その仕草が可愛くて、ポンズは思わず笑ってしまう。

「無理せんでええのに」

「せっかくの……道後温泉やけん……ちゃんと……味わいたい……」

 途切れ途切れの言葉で抵抗するシーだが、目はほとんど閉じかけている。

 普段は凛としているシーの睡魔に負けまいと必死に抗っている姿が、ポンズにはたまらなく愛おしかった。

「ほら、お茶菓子も食べとき。甘いもん食べたら目ぇ覚めるかもよ」

 ポンズがお茶菓子を差し出すと、シーはもぐもぐと食べながら、なんとか意識を保とうとしていた。

 二人は利用時間のギリギリまで休んで、名残惜しそうに道後温泉本館を後にした。

 *

 帰りの路面電車の中、温泉でぽっかぽかになった二人は隅の席で寄り添って座っている。

 夜の松山の街が、車窓をゆっくりと流れていく。

「シー、新しくできたやつ、どうする?」

 ポンズが尋ねる。

「うん、シーポンズ用に、アコースティックナンバーにするつもり……」

 シーが眠そうな声で答える。

「そういう曲久しぶりやなあ」

「今日は、楽しかったで。よその街も行ってみたいな……」

 シーの声に満足感が滲んでいる。

「うん、こういう無計画な旅もおもろいな。バンドで遠征できるようになったらみんなで行こうな」

「そや、な……」

 ポンズの肩にシーがそっと寄りかかる。

 まるで電池が切れたかのように、シーは瞼を閉じてしまった。

 *

 路上ライブでもステージでもいつも堂々としているシーの無防備な寝顔が幼くて、ポンズは胸がキュンキュンしてしまう。

 長いまつ毛が頬に影を落とし、穏やかな寝息を立てている。

「へえ~シーってやっぱ可愛いんやな。業界の人がアイドルみたいにしたかったワケや……」

 ポンズがそっとつぶやく。

 ポンズはこっそりシーの寝顔をスマホに収めた。

「これはうちだけのもんや」

 路面電車は、ガタゴトと心地よいリズムを刻みながら、松山の夜の街を穏やかに走っていく。

 車窓には、二人の姿が映っていた。

 肩を寄せ合う二人の姿は、まるで一枚の絵のように美しかった。

 *

 二大看板作戦で始まったB.F Dayのある日、シーポンズは待望のアコースティックライブを開催した。

 フレイミングパイの時ほどの集客はないものの、相変わらずシーの熱心な固定ファンたちが足繁く通ってくれていた。

 シーは父親の形見であるHeadway HMJ-WXとブルースハープ、ポンズはEpiphoneテキサンを手に、フレイミングパイの楽曲のアコースティックバージョン、心に響く洋楽のカバーをポンズのボーカルで、国内で活躍するシンガーソングライターの楽曲をシーのボーカルで、丁寧に披露した。

 そして、

「この松山をポンズと二人で歩いてできた曲『オレンジの坂道』を聞いてください」

 路上ライブ中心だった頃以来、久しぶりのアコースティックナンバーの新曲に、シーの固定ファンたちは感動で目を潤ませた。

 地元愛と、ともに歩む大切な人への想い、そして温かい「ことば」に溢れたこのナンバーに、数人の観客は静かに涙を流していた。

 *

「ありがとうございました」

 曲が終わり、シーが深々と頭を下げる。

「どしたのポンズ、今日は口数少なくない?」

 シーが心配そうに尋ねる。

「いやいや、感動しとったんよ。この曲良くないですか?」

 ポンズが観客に向かって呼びかけると、温かい大きな拍手が会場を包んだ。

 いつも元気いっぱいのフレイミングパイのライブとは対照的に、しっとりとした雰囲気で歌声を届けられた今回のライブは、心温まる空間を作り出し、観客から大きな支持を得た。

 二人が楽屋へ戻ると、出番を控えるブラックシトラスとレアの姿があった。

「めっちゃいい雰囲気やったなあ」

 レアが笑顔で二人を迎えた。

「レアちゃん来てくれとったん?」

 ポンズが嬉しそうに驚く。

「新しい武器になるな。さ、うちらもぼちぼち準備するか」

 マキたちがそう言うと、集中して準備にかかる。

 二人の心のこもったステージを見て、負けじと気合が入ったようだった。

 *

 一方、自分の部屋で勉学に励んでいたカグラは、机に向かって黙々と問題集を解いていた。

 定期テストまであと数日。

 みんなに迷惑をかけないために活動を休ませてもらっているのだから、ここで結果を出さなければ意味がない。

 カグラはペンを走らせながら、一問一問丁寧に解いていく。

 部屋の隅に立てかけられたギターには、あえて目を向けないようにしていた。

「今頃、ポンズちゃんとシーちゃんのライブ終わった頃かな……」

 ふと時計を見て、そう呟く。

 新しい曲『オレンジの坂道』、生で聴いてみたかった。

 でも、今は我慢だ。

 カグラは小さくかぶりを振って、再び参考書に視線を戻した。

 数学の公式を暗記し、英単語を繰り返し書き取る。

 集中して、集中して、テストが終わったら思い切り弾くんだ。

 そう自分に言い聞かせながら、カグラは夜遅くまで机に向かい続けた。

 しかし、その頭の片隅では、まだ言葉にならない美しいメロディが、静かに産声を上げようとしていた。

 それは勉強の合間にふと浮かんでは消える、カグラだけの音の欠片だった。

フレイミングパイ

光月寛奈みつき かんな16歳(高1) ポンズ Vo.&Ba.

真白詩音ましろ しおん15歳 シー Vo. &Gt.

神楽坂奏多かぐらざか かなた15歳(高1) カグラ Gt.

宝来鈴愛ほうらい れあ17歳 レア Dr.

マネージャー

・さとう愛未あいみ

ROCK STEADYオーナー

岩田恒太郎いわたこうたろう

ブラックシトラス

・マキ Vo.&Ba.

・ユズ Vo.&Gt.

・ナツ Gt.

・ミオ Dr.

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