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EP.11 相棒

 フレイミングパイのメンバーはいつもの練習スタジオに集合した。マネージャー候補のさとう愛未の課題をクリアし、インディーズフェスに出演するためだ。

「まずは聞かせてもらおうか。ポンズの企みとやらを」

 レアが期待を込めて促す。

「お、赤いなんとかや!」

「彗星?」

「それそれ」

「わからん話を、膨らまさんといて」

 シーが脱線しそうになるところをもとに正す。ポンズは頭を掻きながら説明を始める。

「シーのデモ音源の中に、未完成や言って、冒頭しかできてないのが二曲あったんよ。でもどっちもいい出来でカッコよくて、早く続きが聴きたくなるような曲やった」

「ああ、まあ出だしの歌詞のフレーズとか、ギターのリフとか、結構気に入ってたから、いずれ続き作ろう思て記録してたんよ」

「で、これまで路上で歌ってたシーの曲の傾向からすると、少し重厚になる感じがするやん。これはシーのいつものオリジナルで、これまで路上での弾き語りやから受けが良かったん」

「それから?」

「今回はインディーズフェスや。きっと純粋にロックを楽しむ人が来る。シー、この曲あたまから弾いてみて」

 シーは作りかけだが、冒頭部分が気に入っている自分のオリジナルを歌い始めた。ポンズはそばで自分のエピフォンのテキサンを取り出し、一緒にリズムを刻みだす。

 シーが作りかけ部分まで歌い終わったが、そのリズムをキープしたまま、ポンズが曲を継いでいく。

「これからこうするんや!」

 続きはポンズのオリジナルだった。自然にシーの曲から繋げてみせた。シーのどちらかというと重々しい曲が、突然ポンズらしい軽快なロックンロールに大変わりした。

「お、おお~!」

 レアが興奮して拍手をした。シーも驚きを隠せない。カグラも笑顔になった。

「どう?うちのは歌詞がアレやから、シーに書いてもらうとして、もう一つの作りかけも、うちのオリジナルがうまいこと繋がるんよ」

「驚いたわ。この展開は今のうちには書けんかったかも。それにバンドならではって感じの曲作りとも言えるし、ちゃんとロックフェスにあう曲調やと思うわ」

 シーに続いて、レアもうなづいた。

「ドラムも、前半と後半で、雰囲気変えたら、より一層面白くなるよ~」

 ポンズは満足そうな様子で頭の中で呟いた。

「レノン=マッカートニー作戦成功や…!」

 ビートルズにはジョンの曲の中で、後半や中間でポールの曲になることがある。その逆も然り、ポンズはそれを真似してみたかったのだ。

「もう一つ、提案があるで~」

 ポンズは今度はギターをかき鳴らして歌い始めた。

「英語?洋楽?」

 軽快なロックンロールで、英語の歌詞はよくわからないが、メンバーみんながわかる単語が聞こえた。

「あ、Flaming Pie!」

 カグラが言った。

「そうや、この曲はポール・マッカートニーの『Flaming Pie』や!うちらがカバーするならこれやろ!」

「これが、そうなん!ポンズの軽快なのりはこの影響受けてるんやな。ほんでもめっちゃカッコええし、なんか楽しくなるなこの曲」

 シーも、新しい境地に入って興奮を隠せない。カグラはスマホで音源を検索した。そして特徴的なオリジナルのピアノのリフをすぐにギターで弾いた。

「カグラちゃんすご!」

「途中裏拍になるとこもおもろいなぁ」

 レアも気に入ったようだ。

「3曲できたで!」

 四人は3曲をそれぞれのパートでアレンジのアイデアを出し合っていった。これまでとは違うバンドの形を心ゆくまで楽しんだ。

 そして、シーはポンズとの合作となる2曲の続きの歌詞を書き留めていく。そして何か思いついたように、他の三人を見つめながら、その2曲とは別に詞をサラサラと書き出した。


 スタジオを出て、カグラとレアと別れた後、ポンズとシーはカフェに寄って新曲2曲のおさらいをしていた。

 曲構成や作詞に夢中になっているうちに外はすっかり夜になっていた。カフェを出ると雲一つない空に、満月が煌々と輝いている。ポンズはシーとギターケースを抱え歩いてゆく。

「ポンズ、今日改めてバンドだからできること、いっぱい教えてくれてありがとうな」

「何?シー、照れるやん」

 シーは自分が書いた詞を1枚ポンズに差し出した。

「3曲、あっという間に形になったからな。それ、今日みんなを見ながら作詞したんよ。これ、ポンズが作曲してよ」

 シーが差し出してきた詞、タイトルはカタカナで「フレイミングパイ」と書いてあった。

「うちらのテーマソングみたいなもんや!頭ん中に構想はあったけど、今日ポンズの曲をつけるんがふさわしいと思ったんよ」

「シー…シーー!」

 ポンズは感激し、シーに抱きついた。

「やめて」

 またもや即座に切り返された。

「ありがとうシー、うちやってみる!」

「ふふ、あ、きれいな月やね」

 シーが見上げる。

「うん」

 二人は並んで歩き始めた。月明かりが、アスファルトに二つの影を落としている。

「あんなポンズ」

「なに?」

「うち、一人やったら、きっと音楽やめてたかもしれん」

 ポンズは立ち止まった。

「何言ってんの」

「ソロって、やっぱり孤独やったんよ。サトちゃんもよく言ってたけど、全部一人で背負わなあかん。1曲生み出すんも、演奏するんも、まあまあ苦しみを味わうこともあるんよ。こないだきたソロデビュー受けて、何もかんも他人に任せて、他人が作ったイメージのまんま演じてても楽やったかもしれん。でもうちのことやから、これじゃいかんてきっと悩んで悩んでつぶれたと思う。でも、あんときポンズが新しい選択肢をくれたんよ。ポンズと出会って、みんなと出会って、音楽つくることがこんなに楽しいものやって初めて知った」

 月光に照らされたシーの横顔は、普段の強気な表情とは違い、どこか儚げだった。

「うち、今はこう思てるんよ」

 ポンズが静かに言う。

「うちは、ただバンドがやりたかっただけ。で、シーとカグラちゃんと、レアちゃんを見つけた。でも今思うんよ。うちが3人を探して見つけたんやないな、シーの曲が、シーの唄が、うちらを引き寄せたんやって。やけん、お礼言うのはうちの方や」

 二人の影が、月明かりの下で一つに重なった。二人はニカっと笑って見つめ合った。

「これからも、よろしくな」

「うん、こちらこそ」

 軽く拳をぶつけ合う。その瞬間、二人の間に見えない絆が結ばれた。それは、月の光のように優しく、でも確かな繋がりだった。ポンズの押しかけセッションから数ヶ月、光月寛奈と真白詩音の絆は一層深くなり、生涯の相棒となった。


 それから四人は猛練習に明け暮れていた。

 ポンズは学校、バイトから帰ると、シーの歌詞と向き合い、メロディーを紡いでいった。

 シーの未完成曲からの繋がりを完璧にするため、何度も何度も前半部分を聴き返した。シーの重厚なメロディーから自然に繋がるように、でも自分らしさを失わないように。ベースラインも単純な8ビートではなく、曲の展開に合わせて変化をつけていく。特に転調する部分では曲に躍動感を与えた。

「ここ、もっとファンキーにしてみよか」

 独り言を言いながら、ポンズは指板を滑る指の動きを確認する。そして時にはシーと二人で夜遅くまで曲作りをした。

 カグラは、三曲それぞれに異なるアプローチを試みた。一曲目はシーの世界観を壊さないよう、控えめながらも印象的なアルペジオ。二曲目は、ポンズの軽快なリズムに乗せて、カッティングを中心にした刻み。そして「Flaming Pie」のカバーでは、原曲のピアノパートをギターで再現する。

「ここの音、届かない…」

 単音ではつまらないので、人差し指と中指でコードをキープして、薬指と小指を動かすが、小指の力が弱い。それでもカグラは諦めなかった。家に帰ってからも、指のストレッチ体操を欠かさない。そしてついにカバー曲の原曲のピアノパートを見事にギターで再現した。

 レアは、それぞれの曲に「顔」を与えるドラムパターンを考案した。一曲目の前半は、シーの内省的な歌詞に合わせて、繊細に表現する。そして後半、ポンズのパートに入ると、激しいビートを刻む。この緩急が、曲全体にドラマティックな展開を生み出していく。

「ここで一発、クラッシュシンバル入れたら、めっちゃ盛り上がるやろな」

 レアは、消音パッドを叩きながら、頭の中で構成を組み立てていく。

そしてさらに、1週間が過ぎた。

「できた!」

ポンズは得意になってシーに電話で報告する。

「できたでシー!これから会える?」

「別にかまんけど」

「じゃあ持ってきて欲しいものがあるんやけど!」

それから別の日、四人が集まると、ポンズが作曲した4つ目の曲に四人それぞれのアイデアを散りばめていく。

こうして自然と、曲作り、編曲や構成、パート、コーラスで、四人は自分の役割を果たし、力を注いでいった。そして同時に演奏技術も向上していった。


登場人物

フレイミングパイ

光月寛奈みつき かんな15歳(高1) ポンズ Vo. &Ba.

真白詩音ましろ しおん15歳 シー Vo. &Gt.

神楽坂奏多かぐらざか かなた15歳(高1) カグラ Gt.

宝来鈴愛ほうらい れあ16歳 レア Dr.

マネージャー候補

・さとう愛未あいみ20代半ば

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