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PONZ! ~ポール・マッカートニー大好きっ子が、路上ライブのシンガー、内気な天才ギタリスト、アクセ好きドラマーとバンドを組んだ話~  作者: 文月(あやつき)
第1部

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12/42

EP.11 相棒

 フレイミングパイのメンバーは、いつもの練習スタジオに集合した。

 マネージャー候補のさとう愛未の課題をクリアし、インディーズフェスに出演するためだ。

 八月に入ったばかりの、蒸し暑い午後だった。

 スタジオのエアコンがフル稼働しているが、それでも汗が滲む。

 窓の外では、蝉の声が絶え間なく響いている。

「まずは聞かせてもらおうか。ポンズの企みとやらを」

 レアがスティックを指の間でくるくると回しながら、期待を込めて促す。

「お、赤いなんとかや!」

「彗星?」

「それそれ」

「わからん話を、膨らまさんといて」

 シーが呆れたように肩をすくめ、脱線しそうになるところを元に正す。

 *

 ポンズは照れくさそうに頭を掻きながら説明を始める。

「シーのデモ音源の中に、未完成や言って、冒頭しかできてないのが二曲あったんよ」

「ああ、あれね……」

 シーは小さく頷いた。

「でもどっちもいい出来でカッコよくて、早く続きが聴きたくなるような曲やった」

「まあ出だしの歌詞のフレーズとか、ギターのリフとか、結構気に入ってたから、いずれ続き作ろう思て記録してたんよ」

 シーは少し照れくさそうに視線を逸らした。

 自分の曲を褒められるのは、いつになっても慣れない。

 *

「で、これまで路上で歌ってたシーの曲の傾向からすると、少し重厚になる感じがするやん。サビに向けて感情が昂ぶっていくっていうか」

 ポンズは指を立てながら、まるで先生のように説明を続ける。

「これはシーのいつものオリジナルで、これまで路上での弾き語りやから受けが良かったん」

 シーは腕を組んで、静かに耳を傾けていた。

 自分でも気づいていたことだった。

 一人で歌うと、どうしても感情を込めすぎてしまう。

 それがシーの楽曲の強みでもあるが、バンドでやるロックと言うには少し難しい気がしていた。

 ポンズの分析は、的を射ていた。

「それから?」

 レアが身を乗り出して先を促す。

「今回はインディーズフェスや。きっと純粋にロックを楽しむ人が来る」

 ポンズの目がキラキラと輝いた。

 何かを閃いた時の、いつもの顔だ。

「シー、この曲あたまから弾いてみて」

 *

 シーは作りかけだが、冒頭部分が気に入っている自分のオリジナルを歌い始めた。

 重厚なギターリフから始まる、どこか切ない旋律。

 シーの声が、狭いスタジオの空気を震わせる。

 サビに向かって、感情が少しずつ昂ぶっていくのがわかる。さすがシーの楽曲だと思わせる見事でできだ。

 ポンズはそばで自分のエピフォンのテキサンを取り出し、一緒にリズムを刻みだす。

 シーが作りかけ部分まで歌い終わった。

 しかし、ポンズはリズムをキープしたまま、曲を継いでいった。

「これからこうするんや!」

 続きはポンズのオリジナルだった。

 自然にシーの曲から繋げてみせた。

 シーのどちらかというと重々しい曲が、突然ポンズらしい軽快なロックンロールに変わった。

 まるで、重い雲を突き抜けて青空が広がるような、劇的な展開。

「お、おお~!」

 レアが椅子から立ち上がり、興奮して拍手をした。

 シーも目を見開いて驚きを隠せない。

 カグラも思わず笑顔になった。

 *

「どう? うちのは歌詞がアレやから、シーに書いてもらうとして、もう一つの作りかけも、うちのオリジナルがこうやってうまいこと繋がるんよ」

 ポンズは得意げに胸を張った。

 シーは呆然としていた。

 バンドを意識して作ろうとしていた曲。

 でも、サビへ向かうにつれて感情が昂ぶり、ロックらしいサビの展開に悩んでいた。

 それが、ポンズの軽快なロックンロールによって、全く違う形で完成しようとしている。

「驚いたわ……この展開は今のうちには書けんかったかも」

 シーは素直に認めた。

「それにバンドならではって感じの曲作りとも言えるし、ちゃんとロックフェスにあう曲調やと思うわ」

 シーに続いて、レアも大きく頷いた。

「ドラムも、前半と後半で、雰囲気変えたら、より一層面白くなるよ~」

 レアの頭の中では、もうドラムパターンが鳴り始めているようだ。

 ポンズは満足そうな様子で、頭の中で呟いた。

 レノン=マッカートニー作戦成功や……!

 ビートルズには、ジョンの曲の中で、後半や中間でポールの曲になることがある。

 その逆も然り。

 ポンズはそれを真似してみたかったのだ。

 *

「もう一つ、提案があるで~」

 ポンズは今度はギターをかき鳴らして歌い始めた。

「英語? 洋楽?」

 軽快なロックンロールで、英語の歌詞はよくわからないが、メンバーみんながわかる単語が聞こえた。

「あ、Flaming Pie!」

 カグラが声を上げた。

「そうや、この曲はポール・マッカートニーの『Flaming Pie』や! うちらがカバーするならこれやろ!」

 ポンズの目がキラキラと輝いている。

 バンド名の由来となった曲。

 これをカバーしない手はない。

「これが、そうなん! ポンズの軽快なのりはこの影響受けてるんやな。めっちゃカッコええし、なんか楽しくなるなこの曲」

 シーも、新しい境地に入って興奮を隠せない。

 カグラはスマホで音源を検索した。

 イヤホンを片耳に入れ、数秒聴いただけで、特徴的なオリジナルのピアノのリフをギターで弾き始めた。

「カグラちゃんすご!」

「途中裏拍になるとこもおもろいなぁ」

 レアも気に入ったようで、膝を叩いてリズムを取り始めた。

「三曲できたで!」

 *

 四人は三曲をそれぞれのパートでアレンジのアイデアを出し合っていった。

 これまでとは違うバンドの形を心ゆくまで楽しんだ。

 シーの曲をベースにしながらも、四人全員で作り上げていく感覚。

 それは、シーが一人で曲を作っていた頃には味わえなかったものだった。

 そして、シーはポンズとの合作となる二曲の続きの歌詞を書き留めていく。

 ペンを走らせながら、シーは不思議な感覚を味わっていた。

 一人で書いていた頃は、出てくる言葉に、感情に任せて曲が生まれていた。そんな自分の言葉や曲は、誰かのもとに届けるにふさわしいかどうか、迷うこともあった。

 でも今は、自分に書けないポンズのメロディーや、カグラの繊細でキレのあるフレーズ、そしてレアの独特なリズムパターンが、その迷いを吹き飛ばしてくれる。

 そして何か思いついたように、シーは他の三人を見つめながら、その二曲とは別に詞をサラサラと書き出した。

 *

 スタジオを出て、カグラとレアと別れた後、ポンズとシーはカフェに寄って新曲二曲のおさらいをしていた。

 曲構成や作詞に夢中になっているうちに、外はすっかり夜になっていた。

 カフェを出ると、雲一つない空に、満月が煌々と輝いている。

 ポンズはシーとギターケースを抱え歩いてゆく。

 夜風が心地よく、昼間の蒸し暑さが嘘のようだ。

「ポンズ、今日改めてバンドだからできること、いっぱい教えてくれてありがとうな」

「何? シー、照れるやん」

 シーは自分が書いた詞を一枚ポンズに差し出した。

「三曲、あっという間に形になったからな。それ、今日みんなを見ながら作詞したんよ。これ、ポンズが作曲してよ」

 シーが差し出してきた詞。

 タイトルはカタカナで「フレイミングパイ」と書いてあった。

 *

「うちらのテーマソングみたいなもんや! 頭ん中に構想はあったけど、今日ポンズの曲をつけるんがふさわしいと思ったんよ」

 ポンズは紙を受け取り、月明かりの下で読んだ。

 そこには四人のことが連想できる出会いや個性の衝突、そしてそれが一つになって昇華していく過程。

 燃え盛るパイのように、熱くて、でもどこか温かい言葉たち。

「シー……シーー!」

 ポンズは感激のあまり、シーに抱きついた。

「やめて」

 またもや即座に切り返された。

「ありがとうシー、うちやってみる!」

「ふふ、あ、きれいな月やね」

 シーが見上げる。

「うん」

 二人は並んで歩き始めた。

 月明かりが、アスファルトに二つの影を落としている。

 *

「あんなポンズ」

「なに?」

「うち、一人やったら、きっと音楽続けてられんかったかもしれん」

 ポンズは立ち止まった。

「何言ってんの」

「ソロって、やっぱり孤独やったんよ」

 シーの声が、夜の静けさの中でかすかに震えていた。

「サトちゃんも言ってたけど、全部一人で背負わなあかん。一曲生み出すんも、演奏するんも、まあまあ苦しみを味わうこともあるんよ」

 シーは歩きながら、ぽつぽつと話し始めた。

「曲を書いても、歌詞を書いても、それが発信するんにふさわしいかどうかなんかわからん。自分の言葉が、誰かに届けるられるもんにふさわしいんか、迷うことやってある」

 ポンズは黙って聞いていた。

 シーの横顔が、月光に白く照らされている。

 普段の強気な表情とは違い、どこか儚げだった。

「こないだきたソロデビュー受けて、何もかんも他人に任せて、他人が作ったイメージのまんま演じてても楽やったかもしれん。でもうちのことやから、これじゃいかんて、きっと悩んで悩んでつぶれたと思う」

 シーは立ち止まり、ポンズを見た。

「でも、あんときポンズが新しい選択肢をくれたんよ。ポンズと出会って、みんなと出会って、音楽つくることがこんなに楽しいものやって、初めて知った」

 *

「うち、今はこう思てるんよ」

 ポンズはそんなシーの言葉を受けて、静かに言う。

「うちは、ただバンドがやりたかっただけ。で、シーとカグラちゃんと、レアちゃんを見つけた」

 ポンズは月を見上げた。

 満月が、二人を優しく照らしている。

「でも今思うんよ。うちが三人を探して見つけたんやないな、シーの曲が、シーの唄が、うちらを引き寄せたんやって。シーの曲は、それほどの力を持ってるということや。やけん、お礼言うのはうちの方や」

 二人の影が、月明かりの下で一つに重なった。

 二人はニカっと笑って見つめ合った。

「これからも、よろしくな」

「うん、こちらこそ」

 軽く拳をぶつけ合う。

 その瞬間、二人の間に見えない絆が結ばれた。

 それは、月の光のように優しく、でも確かな繋がりだった。

 ポンズの押しかけセッションから数ヶ月、光月寛奈と真白詩音の絆は一層深くなり、生涯の相棒となった。

 *

 それから四人は猛練習に明け暮れていた。

 ポンズはバイトから帰ると、シーの歌詞と向き合い、メロディーを紡いでいった。

 シーの未完成曲からの繋がりを完璧にするため、何度も何度も前半部分を聴き返した。

 シーの重厚なメロディーから自然に繋がるように、でも自分らしさを失わないように。

 ベースラインも単純な8ビートではなく、曲の展開に合わせて変化をつけていく。

 特に転調する部分では曲に躍動感を与えた。

「ここ、もっとファンキーにしてみよか」

 独り言を言いながら、ポンズは指板を滑る指の動きを確認する。

 そして時にはシーと二人で夜遅くまで曲作りをした。

 *

 カグラは、三曲それぞれに異なるアプローチを試みた。

 一曲目はシーの世界観を壊さないよう、控えめながらも印象的なアルペジオ。

 二曲目は、ポンズの軽快なリズムに乗せて、カッティングを中心にした刻み。

 そしてカバー曲では、原曲のピアノパートをギターで再現する。

「ここの音、届かない……」

 単音ではつまらないので、人差し指と中指でコードをキープして、薬指と小指を動かすが、小指の力が弱い。

 それでもカグラは諦めなかった。

 家に帰ってからも、指のストレッチ体操を欠かさない。

 そしてついにカバー曲の原曲のピアノパートを見事にギターで再現した。

 *

 レアは、それぞれの曲に「顔」を与えるドラムパターンを考案した。

 一曲目の前半は、シーの内省的な歌詞に合わせて、繊細に表現する。

 そして後半、ポンズのパートに入ると、激しいビートを刻む。

 この緩急が、曲全体にドラマティックな展開を生み出していく。

「ここで一発、クラッシュシンバル入れたら、めっちゃ盛り上がるやろな」

 レアは、消音パッドを叩きながら、頭の中で構成を組み立てていく。

 *

 そしてさらに、一週間が過ぎた。

「できた!」

 ポンズは得意になってシーに電話で報告する。

「できたでシー! これから会える?」

「別にかまんけど」

「じゃあ持ってきて欲しいものがあるんやけど!」

 それから別の日、四人が集まると、ポンズが作曲した四つ目の曲に四人それぞれのアイデアを散りばめていく。

 シーの歌詞に、ポンズのメロディー。

 カグラのギターアレンジ、レアのドラムパターン。

 四人全員の個性が詰まった、フレイミングパイのテーマソング。

 こうして自然と、曲作り、編曲や構成、パート、コーラスで、四人は自分の役割を果たし、力を注いでいった。

 そして同時に演奏技術も向上していった。

 インディーズフェスまで、あと一週間。

 フレイミングパイは、新しいステージに上がり始めていた。

登場人物

フレイミングパイ

光月寛奈みつき かんな16歳(高1) ポンズ Vo. &Ba.

真白詩音ましろ しおん15歳 シー Vo. &Gt.

神楽坂奏多かぐらざか かなた15歳(高1) カグラ Gt.

宝来鈴愛ほうらい れあ16歳 レア Dr.

マネージャー候補

・さとう愛未あいみ20代半ば

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