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雨のち曇りそして晴れ  作者: 冬馬
第一話

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第一話ーーある雨の日ーー07

 「あのさ、希ちゃんはバイクってどんな乗り物だと思う?」


 裕介が希に聞いた。


 「……」


 希はうまい言葉が見つからず答えることが出来なかった。裕介は優しく笑いかけて


 「じゃあ、質問を変えようか。希ちゃんはバイクに乗って楽しい?」


 「……わかりません……」


 希は少し困惑した表情をしながら答えた。


 「わからないか……そうだよな……」


 裕介は希の顔を見て続けた。


 「それはね……実は……希ちゃんのバイクを見たらわかるんだな」


 「わかるんですか?」


 希は驚いて裕介に聞いた。裕介は静かに頷いて答えた。


 「もちろん、俺がバイク屋だってのもあるんだけどさ。バイクを見ていると、オーナーに愛されているかどうか、何となくだけどわかるんだよね」


 希は真剣に裕介の話を聞いている。裕介は続けた。


 「ここにいる、康二のバイクも、遥子のバイクも、本当に綺麗に手入れされてるんだ。バイクの事が好きじゃなきゃ、楽しくなきゃ出来ないよね」


 希は頷いた。


 「最初に、バイクってどんな乗り物だと思う?って聞いたのはね。バイクって危ない乗り物だよって思い出して欲しかったんだ。教習所で散々教わったでしょ?車みたいに箱で守られているわけじゃないし、タイヤが2つしか無いから、支えていないとコケちゃうしね。人間が剥き出しだから、コケたり、事故を起こしちゃうと、大事になったりするわけ……」


 希は真剣に裕介の話を聞いている。


 やっぱり、真面目な子なんだよな……


 康二は、真剣に話を聞いている希を見てそう思った。

 それこそ、普通に若い子だったら、今日知り合ったばかりのおじさんに怒鳴られたり、説教されたりしたら、反発をしてもおかしくは無い。

 裕介もそれを感じているようだ。裕介の口調が優しくなっている。裕介は話を続けた。


 「二人しか乗れないし、夏は暑いし、冬は刺すように寒い。最近のバイクは軽くなったとはいえ、それでも重たいしね。まあ、難儀な乗り物なわけだよ」


 裕介は一口缶コーヒーを飲んだ。


 「だけど、そんな難儀な乗り物なんだけど、俺たちは大好きなんだよね。不便で危ないけど、それでも好きなんだよ」


 裕介はチラリと康二を見た。康二も黙って話を聞いていると言うより、よっぽど心配なのか希を見ている。裕介はそんな康二を見て、何だか嬉しくなった。


 あれ以来、あまり、人と関わらなかったコイツがねぇ……


 裕介は、チラリと遥子も見た。

 遥子も、さっきまでの明るい様子とは違い、真剣な顔をして話を聞いていた。どこかで希に気をかけている様子に見える。


 なんだかんだ言っても、コイツも面倒見良いからな……これなら、この先を話しても大丈夫か……


 裕介はそう思うと、話を続けた。


 「さっきさ、コケたり事故を起こしたら大事になるって言ったけど、これは冗談じゃなくてさ、実際、命を落としている人も、悲しいけどたくさんいる……大袈裟でも何でもなくってね。バイク屋をやっていると、人ごとじゃなくて、そういう悲しい思いをしている人をたくさん見ているんだ」


 康二は下を向いた。遥子は、しっかりと前を見て裕介の話に耳を傾けている。


 「もし、自分がそんな事になっちゃったら、自分の大切な人達を悲しませる事になっちゃうでしょ?そうならない為にも、俺たちはバイクに手をかけてあげてるんだ。こまめに手をかけてあげてると、何か不具合があったら、すぐに気がつくことができるでしょ?対処もできるでしょ?バイクの面倒を見るって事は、危険回避の第一歩になるんだよね。どんなに最新のバイクでも機械なんだからメンテナンスフリーなんて物は無いしね。それに、自分の命を預ける大切な相棒なんだからさ、面倒を見るのは当たり前でしょ?」


 「……はい……」


 希は小さな声で言った。裕介の言いたい事が理解出来る。


 もし、自分に置き換えて考えてみたら……


 考えてみたくも無い事だった。


 「そう考えるとさ、半年も放置していたバイクに乗るって、俺から言わせると、不具合が出て当たり前だし、なんの整備もしないで乗るなんて、自殺行為だと思う。親父もそれを怒ったんだよ。バイクを舐めるなって……」


 「……はい……」


 希は唇を噛んで、必死に泣くのを我慢していた。自分がバイクに乗る事を、すごく簡単に考えていると思い知らされたからだ。

 

 「これは、バイクだけじゃなくって、何に対してもそう思うよ。自分が使う相棒とも言える大切な道具だもん」


 それでも……それでも……事故は起こる……


 康二はそう思うと、遥子を見た。遥子の目が悲しげに見えた。


 「逆に、途中で動かなくなって良かったんじゃない?そのまま走っていたら、もしかしたら大きな事故を起こしていたかもしれないしね。強引な言い方だけど、バイクが希ちゃんを助けてくれたのかもしれないね」


 裕介は微笑みながら優しく言った。


 「そう考えると……あんたはバイクに愛されてるのかもね……」


 遥子が呟いた。

 遥子の呟きを聞いて、我慢していた希の目から一気に涙が溢れた。


 「ごめんね、ごめんね……」


 希の小さな鳴き声だけが店内に響いていた。


 あえて、3人は希を慰めはしなかった。


 それは、この3人が拭い去る事のできない大きな悲しみを抱えているからだ。その悲しみを誰にも経験させたくは無い、もう、経験したくない。それは、オヤジさんも同じ思いだ。だから、おせっかいと言われるかもしれないが、こう言う話をしたのだ。


 今、希を慰めた所で、何の解決にもならない事を3人は知っている。


 バイクは一人で乗る乗り物だ。何でも一人で判断しなければならない。もし、希が乗り続けるにしても、降りる事にしても、自分で決めなければいけない。逃げる事は出来ないのだ。厳しいようだが、後悔しないように逃げ道を作ってはいけないのだ。


 だから、3人はただ黙って、泣いている希を見守っていた。


 きっと、希の頭の中はいろんな事があり過ぎてぐちゃぐちゃだろう。だけど、3人は希に考えて貰いたかった。偶然であれ、何であれ、知り合えた縁が出来たのだ。悲しい思いはして欲しくない。


 希の小さな鳴き声と雨の音だけが聞こえる店内に静かな時間が流れていた……


 雨はまだ止みそうに無かった……


次回の更新は、6日になります。

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