第三話ーー晴れーー13
希は、笑っている二人を見て、ボソリと言った。
「どうしようかなぁ。私、あんまり服持ってないし……何着て行こう?悩む〜」
「私のを貸してあげても良いんだけどさぁ。それだとねぇ」
「今日のをアレンジで良いんじゃない?」
灯が軽く言った。
「え?だって、こんな何ともない格好で?」
希は、驚いて聞いた。
「別に良いじゃん。希ちゃん、可愛いし、何着てても大丈夫。それに、人のを借りても、それは希ちゃんじゃないもん」
この子、結構、本質付くのよねぇ……
遥子はそう思った。
遥子にとっては、別に自分の物を貸す事に何の抵抗もない。ただ、それだと希では無くなってしまうと思っていた。
時間がかかるかも知れないが、自分の個性を見つけて、それを出す事が大切だと思っていた。正に今、灯が言った事と同じ事を思っていたのだ。
「でも、地味でしょ?遥子さんも普通って言ってたし、こんなんじゃ、康二さんに悪いよ。あんなの連れてるって言われちゃうもん。ただでさえ、運転下手なのに、康二さんにそんな所でイヤな思いさせたくないもん」
本当に、この子は……自分よりも人のこと考えちゃうんだねぇ……
遥子はそう思った。
「そんな事ないと思うよぉ。康二さんだから、ね。遥子さん」
灯は、あっけらかんと言った。
「そうだねぇ、康二クンだもんねぇ」
遥子も灯に同調した。
「へ?」
希は、二人の言っている意味がよく意味がわからなかった。
それって、康二さんが優しいからって事?それにしては、二人の言い方がちょっと違うような……
そう、二人のニュアンスは明らかに違う。決して褒め言葉では無い。どちらかと言うと、呆れ返っていると言った方が良いだろう。
「え?どう言う事?」
なぜそう言うニュアンスになるのか不思議だった希は聞いた。すると、二人は顔を見合わせて笑いながら言った。
「康二さんだもん」
「康二クンだもん」
二人は同時に答えた。
「え?え?なんで?」
希は、ますますわからなくなった。
灯が笑って答えた。
「康二さんだからとしか言いようないんだよねぇ」
「うん、朴念仁と書いて康二と読むからねぇ」
遥子も笑いながら答えた。
「へっくしょい!!!」
康二は、江ノ島の頂上で大きなくしゃみをしていた。
「えー、どう言う事?」
遥子は、笑いながら説明を始めた。
「康二クンってね、人に気を使う割には、そう言う事に無頓着って言うか、全く気にしないって言うか、ね」
「そうそう、全く気がついていないわけじゃないんですよぉ。ちゃんと気がつくんだけど、あえてスルーするっていうかぁ」
「うん、女の子として言ってもらいたい所もあるじゃん?髪型変えた?とか、今日の服、良いねとか。だけど、何も言わない。気がついているんだけど」
「うん、そうそう、私たちもわかるじゃん。康二さん、気がついてくれてるぅって。だけど、気が付かないフリをする。裕介さんはうるさいくらいに来るのに」
「結局、どうやって褒めたらわからない朴念仁って事。女の子の喜ばせ方を知らないの。裕介と真逆」
「へっくしょい!!!」
康二は、江ノ島岩屋に続く階段で、また大きなくしゃみをした。
「風邪でも引いたかな……」
希は、立て続けに出てくる康二の話に唖然としていた。
「いや、よく出てきますね」
希は少し驚いていた。
「決して悪い奴じゃないの。ただ、女心がわからないというか……」
「そうなんですよねぇ。悪気が無いから、また腹立つんですよぉ」
「だから、朴念仁なのよ」
「でも……」
希は笑いながら言った。
「二人とも、康二さんの事好きなんでしょ?」
そう言うと、二人は顔を見合わせて笑いながら言った。
「そうなのよ、だから、尚更、腹が立つ」
「そうですよぉ。私の気持ち知ってるのにぃ」
「え?灯ちゃん、康二さんの事、本当に好きなの?」
希は、少し焦って聞いた。
ヤバい!!!
「違う、違う。この子の場合は、優しいお兄さんに対する気持ちみたいな物」
遥子は、焦って誤魔化した。
「え〜そんな事ないですよぉ。本気ですよぉ」
この子は、余計な事を……
「まあ、まだ高校生だしねえ。康二クンとしては、そう言う対象で見てないと思うよ」
遥子としては、希に変に誤解してもらいたくは無かった。
「確かにそうかもぉ。絶対、女として見てないもん」
「灯ちゃん、可愛いのに……」
希が言った。
余計な事を言わないっ!!!
「でしょ?なんか、悔しいよねぇ」
「見る目ないよねぇ」
「ねぇ」
こんな所で意気投合するなっ!!!
「ま、何はともあれ、そんな朴念仁と行くんだから、あまり、そういう所は気にしなくて良いよ」
遥子は、なんとか話題を変えようと、元の話に戻した。
ガールズトークは面白いけど、こういう話になるから疲れるわ……
正直な所、遥子は、希と康二に上手くいって欲しいと思っていた。
希は、今まで康二が連れてきた女の子と、全くタイプが違う。遥子的に康二にお似合いだと思っていた。
遥子自身、希と接してみて、どこか弱い所もたまに見えるが、根はしっかりとした、人の気持ちのわかる良い子だと思っていたのだ。
遥子はそう思ったからこそ、裕介の多少強引とも言える企みにも乗っかった。もっと言えば、オヤジさんも同じ思いなのだろう。でなければ、康二のスマホを奪って、康二の代わりに希にLINEを打ったりしない。3人とも、どこか希に対して、そう言った3人ともが似た印象を持っていた。自分の大切な家族である康二にお似合いだと思っていたのだ。もちろん、希の気持ちが一番大切なのは言うまでも無い事だが。
幸いにも、当の康二は希に対して、悪い感情どころか、本人は気がついていないかもしれないが、淡い感情を持っていそうだったし……いつも身近に康二を見ていた遥子たちには、康二の希に対する感情がわかる。
こう言う子が、康二クンの彼女だと楽しいよね。
次回の更新は27日となります。




