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雨のち曇りそして晴れ  作者: 冬馬
第三話

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第三話ーー晴れーー12

 「また、強引に呼んで無いですかぁ?」


 灯は笑いながら言った。


 「そんな事無いわよ〜。快く『お伺いさせて頂きます』って言ってたもん」


 「それ!遥子さんには誰も逆らえないもん。なんせ、伝説の人だからぁ」


 灯は、呆れながら言った。


 「また、それ言う?マジで、一回あの先生シメなきゃダメだな」


 「それだからね!遥子さん!」


 「何となく、遥子さんの伝説、わかった様な気がする……」


 希は、真顔で言った。


 「希ちゃんまで、それ言う?」


 遥子がそう言うと、3人で大きな声で笑った。


 「夕方に来るペンキ屋って、まぁ、変わった奴でさ、色々やってるのよ。デザインやったり、イラスト描いたり。私ら、みんなペンキ屋に頼んでるんだ。灯ちゃんのレーシングスーツのデザインもペンキ屋だもんね」


 そう言うと、灯は頷いて言った。


 「うん、変な奴だけど、センスは良いよぉ」


 「変な奴って言うのが気になりますけど?」


 希がそう言うと、遥子は笑って答えた。


 「大丈夫、大丈夫。害は無いから。そう言えば、何か話の途中だった気が……」


 「なんか、ありましたっけ?」


 遥子は、ふと考え込んだ。灯は、惚けて知らんぷりをしている。


 「あっ!灯ちゃんの話の途中だったんじゃん!」


 「もういいよぉ」


 灯は、うんざりした顔で言った。


 「この話は、当事者の康二クンに聞いた方が面白いかもね」


 そう言いながら、遥子は灯に笑った。


 「それもやだなぁ」


 こんなに笑ったのすごく久しぶりだ……


 希は、本当に楽しかった。


 「じゃ、参考書を見ながら研究しようか」


 遥子はそう言うと、女性向けバイク雑誌を取り出した。


 「凄い、たくさん」


 「日々研究しないとね」


 遥子はそう言うと、笑いながらページを捲り始めた。


 「これなんか、可愛いんじゃない?」


 「これも、希ちゃんに似合いそうだよね」


 「これ、灯ちゃんに良いと思う」

 

 3人はファッション談義に花を咲かせていた。すると、


 「だけど……」


 希は、ため息を吐きながら言った。


 「何にしても、先立つものはお金ですねぇ」


 学生である希には、自由になるお金が限られている。それに仕送りをして貰っている身だ。極力、両親にはわがままを言いたくは無かった。


 「そうだねぇ。やっぱりそれなりにかかるよね」


 遥子が言った。良い物は、それなりに高価になってしまう。自分の店を持っている遥子にしても、少しづつ自分の好みの物を買い揃えてきて今に至る。逆に経営者である遥子の方が、学生である希よりもお金に対してはシビアかも知れなかった。無駄な物を買わず、しっかりと吟味して選んできたからこそ、流行に捉われない自分のスタイルを作り上げられたのかも知れない。


 「結局さぁ、なんだかんだ言っても今ある物で、何とかしなきゃですねぇ。新しいの買うのは現実的じゃ無いしぃ」


 灯が言った。


 「そうだねぇ。新しいのを急いで買ったところで、馴染むのに時間かかるしね」


 遥子が頷いて言った。


 「どうしても、バイク系って革製品が多いから着慣れないと、ジャケットに着られてるみたいになっちゃうもんねぇ。私も降ろしたてのスーツは、しばらく家で着てるもん。ご飯食べる時もぉ」


 「そんな事してるの?」


 遥子は驚いて聞いた。


 「してますよぉ。だって、新品硬いんだもん。硬いままだと、いざという時うまく動けないじゃ無いですかぁ」


 「驚いた。一応考えてるんだ」


 遥子は、感心して言った。


 実際のところ、そこまでする必要はないのかも知れない。そこまでしても何も変わらないかも知れない。しかし、灯なりに、自分に身につける物を自分の身体に合わせるために考えた儀式みたいな物なのだ。そうする事によって、安心してレースを戦える事ができるのだ。

 それを遥子は否定するつもりは無いし、笑い話にするつもりも無い。命をかけてタイムを削るレーサーにとって、そう言ったメンタル的な部分が大切だという事を理解しているからだ。


 「ヘルメットは?」


 遥子は、念の為に聞いてみた。


 「かぶってますよぉ。重くてイヤだけど、早く顔に合わせたいし……流石にご飯の時には脱ぎますけどぉ」


 やっぱり……


 遥子の予想通りの答えが返ってきた。やっぱり、こういう所は灯なのだ。

 普段、いい加減に見えても、自分なりに考えて答えを出す。レースに対して、決して灯はいい加減な事はしない。自分の信じた事をやり抜く強さを持っている。


 「けどさ、お母さん、うんざりするだろうね。家の中をヘルメット被って皮つなぎ着てる娘が歩き回ってるんだもん」


 「うん、せめてご飯の時は皮つなぎ脱ぎなさいって言われる〜ここは、サーキットじゃ無いってぇ」


 「わかるわ。お母さんの気持ち……」


 それも当然だろう。この店にも、隣の流れで、いかついバイク乗りが多く来店する。せっかくおしゃれな雰囲気を作っても、その雰囲気に似つかわしく無い、いかつい男どものおかげで台無しになるからだ。

 とは言え、そのいかつい男達は、ここでは借りてきたネコのように大人しくなる。それは、ひとえに「姉御」の力によるところが大きい。


 とにかく、逆に言えば、それだけバイク乗りのファションは、一般のファッションと乖離しているとも言えるし、バイク乗りはそう言ったファッションを好んでいるというのも事実だ。


 「だけど、すごいね。灯ちゃん。高校生なのにレーサーなんてさ」


 希は、灯に言った。


 「だって、人に負けるのイヤなんだもん。どうせ走るんなら、人より早く走りたいし、その為には何でもするよぉ。ヨーロッパ行きたいもん」


 強いなぁ……私なんかよりも全然強い……


 希はそう思った。


 私、何やってるのかなぁ……


 「灯ちゃんは、お家の環境もあるしね。バイクの関わり方だって人それぞれだし、バイクだけが人生じゃ無いしね。灯ちゃんは、今はレースが人生の一部だし、希ちゃんだって、そう言える物が何か見つかるよ」


 遥子は、希の事を察した様に言った。


 「遥子さんは?」


 希は遥子に聞いた。遥子がどういう風に考えているのか、同じ女性の人生の先輩として聞いてみたかった。


 「私は、このお店を続けて、気の合った奴らと楽しく出来れば良いかなぁ。誰一人かける事なく、みんなと笑い合っていたいかな……」


 遥子は少し寂しげに言った。


 誰一人かける事なくか……


 寂しげな遥子の顔を見て、希は康二の事を思い出した。今の遥子の表情は、時折見せる康二の寂しげな表情と同じだったからだ。きっと裕介も、オヤジさんも同じような表情をする事があるのだろう。


 彼らのかけがえの無い大切な大切な「人」がそこには居ないのだから……そして、そこはもう永遠に埋まる事はないのだから……


 「私はぁ、姉御の側にずっと居ますよぉ。おばあちゃんになっても、私がヨーロッパに言っても」


 灯は明るく、能天気に言った。


 「アンタがヨーロッパに行っちゃったら、私、側にいられないじゃん」


 遥子は、笑って答えた。


 「そしたらぁ、ヨーロッパに呼びますよぉ。姉御のチーズケーキ食べると元気でるしぃ」


 「そっか、じゃぁ、私の老後は灯ちゃんにお願いしちゃおうかな」


 「任せてぇ!」


 そう言うと、二人は笑い合った。

次回の更新は23日となります。

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