第三話ーー晴れーー11
「誰が姉御じゃ!!」
遥子は灯にツッコミを入れると、笑いながら話し始めた。
「いやぁ、この子も、なかなかヤンチャな子でね。今もあまり変わらないけど、ここに来たばかりの頃は、本当に尖ってたのよ」
「今も変わらないってのが、ちょっと引っかかるけど、ま、良いか」
灯は笑いながら言った。
「灯ちゃん、全然そんな風に見えないけどなぁ」
希は、改めて言った。希からみた灯の印象は、話し方もあるのだが、どこかのんびりとした、何事にも動じない、今時の子という物だった。そういう意味では、人の事を気にする癖がある希とは、逆な性格とも言えた。
「そんな事無い、無い。それは希ちゃん、騙されてるって。この子、こう見えて凄いんだから」
「いや、いや、いや、姉御には負けますよぉ。なんせ、姉御は伝説ですからぁ」
灯がそう言うと、遥子の顔が変わった。
「灯ちゃん、やめて!」
「何?何?それ?聞きたい聞きたい!」
希は興味津々に灯に聞いた。
「え〜、実は、遥子さんて私とおんなじ学校だったんですよぉ。私の先輩〜」
「やめよ、ね、灯ちゃん」
遥子は明らかに狼狽えていた。
「でね、遥子さんが教わった先生が、まだいるんですよぉ。その先生が、遥子さんの話をするわけ。『おまえらの先輩に比べたら、おまえらなんかまだ可愛い方』だって」
「へぇ。そんな凄かったんですかぁ」
希は、ニヤけて遥子を見た。遥子は顔を真っ赤にして顔を隠している。
「やめてぇ、黒歴史……」
灯は、そんな遥子に構わず続けた。
「もう、どヤンキーでぇ、ロンスカでぇ……」
「ちょ、ちょ、ちょっと待て!、私そんなに歳取ってない!」
遥子は、慌てて灯を止めた。
「ロンスカのどヤンキーなんて、私よりずっと前の代だよ。」
「え〜、でも先生言ってましたよぉ」
灯は、悪びれず答えた。
「あのやろー、盛ってやがる!今度シメてやろうか」
「ほら!こういう所!怖いよねぇ」
灯は、笑いながら言った。
「いや、そんなんじゃ無いって……」
普段、ツッコミが多い遥子は、ツッコまれると弱い。
「私のことさぁ、制服でバイク乗るって言ってたけど、遥子さんも同じ事やってたからねぇ。それこそ、ロンスカで」
「だって、パンツ見えちゃうじゃん。だからロンスカにしてたの。それに私、足出すの好きじゃないし、流行りに乗るのも嫌だったもん」
遥子は、必死に言い訳をした。
確かにこのエピソードだけでも、遥子の性格がよく分かる。
遥子が高校生の頃は、それこそヤンキー文化が廃れ、ギャル文化になった頃だ。制服のロングスカートが廃れて久しい。当時の女子高生は、いわゆるミニスカ、ルーズソックスが主流だった。
その中でも、遥子は『バイクに乗るとパンツが見える』と言う理由で、流行りに乗らずにロングスカートを履いていた。この頃から、他人に左右されず、自分を持ち続けていたのだ。
もちろん、いくらロングスカートとは言え、毎日の様にオヤジさんに怒鳴られていたのは、言うまでも無い……
「いや、いや、そもそも制服でバイクに乗る方がおかしいでしょぉ?それも女の子が」
灯が自分の事を棚に上げて、笑いながら言った。
「それ、アンタにだけは言われたく無い!」
遥子がそう言うと、3人で笑った。
「で?で?遥子さんは当時、どんなバイク乗ってたんですか?」
希は、遥子に聞いた。
「うん?当時は、SUZUKIのGSX400FSインパルスっていうバイク。カラーリングは今の子と同じ、赤と黒」
SUZUKI GSX-1100FS インパルス
SUZUKI初の直列4気筒4バルブエンジンを載せたGSX-400Fのハイグレードモデル。1982年発売。
ヨシムラとの共同開発である4into1、いわゆる集合マフラーとオイルクーラーを装備していた。この空冷4気筒は、2年程で、水冷4気筒を載せるGSX-400FWで代替わりをする。高性能ながら短命に終わったバイク。しかし、インパルスという名称はその後、2008年まで続いた。
「赤と黒は、遥子さんのパーソナルカラーだもんね」
灯が言った。
「そんな事は無いんだけどさ、この色の組み合わせ好きなんだよね。ヨシムラカラーだしね。今の子はノーマルじゃなくてアレンジしてるけどね」
ヨシムラ
言わずと知れた名チューナー、 POPヨシムラのチューニングショップ。
SUZUKIとの関係が深く、SUZUKIの特別仕様車には、ヨシムラとの共同開発パーツが多く使われている。
ヨシムラといえば、「手曲げの集合マフラー」と言われるほど、SUZUKI車乗りにには、ヨシムラ製の「サイクロンマフラー」がカスタムの定番だった。
レースシーンでも数々の実績が有り、SUZUKIの準ワークスとも言える存在であると言える。赤と黒のマシンは憧れだった。
「へぇ、バイクもオリジナルカラーにしているんですか?」
希は羨ましそうに遥子に聞いた。確かに、ヘルメットだけでは無く、バイク本体にまでオリジナルカラーにするとなると、費用がいくらかかるか、想像もつかない。その分、憧れも強かった。言い換えれば、自分のオリジナルを出したいと言う思いの現れでもある。
「うん、ベースはノーマルだけど、少しデザインを変えて貰ったの。私の方が赤の比率多いと思うよ」
遥子は笑って言った。
「凄いなぁ。康二さんもオリジナルカラーのヘルメットだし。カッコいいですよね」
「何?希ちゃんもオリジナルカラーのヘルメット欲しいの?」
遥子は、希に聞いた。
「そりゃ、やっぱり欲しいですよ〜。憧れです。だけど、費用が……」
「ふーん。ちょっと待ってて」
そう言うと、遥子はスマホを取り出し、電話をし始めた。
「もしもし?ねぇ、今日ヒマ?だったらさ、コーヒー奢るから、うちに来ない?うん、うん、わかった。待ってるねぇ」
そう言って、電話を切ると、希に言った。
「夕方に、隣の常連のペンキ屋が来るから、相談に乗ってもらうと良いよ」
次回の更新は20日となります。




