第三話ーー晴れーー10
数少ない女性バイク乗りの中でも、遥子は人と同じ物は嫌いという性格からか、自分の個性をうまく出し、安全性とファッション性を両立させていた。だが、それも遥子の気の強い性格の力が大きい。
誰に何を言われても、自分が良ければそれが良い、人の目など気にしない性格なのだ。
この子はどういう子なんだろう?良い子なのはわかるんだけど……
まだ、希と知り合ったばかりの遥子は、希の性格を理解しきれていない。
芯が強く、真面目な性格なのは、オヤジさんや裕介とのやり取りでよくわかる。ただ、遥子の視点から見ると、希の弱い部分、脆い部分、それは、どこか自分に自信を持てない部分も垣間見れた。
なぜ、遥子がそう思ったのかと言うと、そういった部分が康二と似ていると感じたからだ。
ファッションは、自己主張である。だが、そうは言っても人と同じような格好をして安心をすると言う人もいる。
別に遥子はそう言う人を否定もしない。言ってみれば、人と同じであろうが、好きな物を好きなように着れば良いと思っているからだ。
そう言う意味では、遥子にしても雄介にしてもオヤジさんにしても、あまり人の事を気にしないし、何を言われても気にしない。それは、自分を持っているからとも言える。そう言った強さを持っているのだ。
だが、康二にしても、希にしてもそう言う強さと言える物は弱いと遥子は感じていた。
康二とは、長い付き合いでもあるから、弱さを理解している。しかし、希に関しては、付き合いも浅い事もあり、まだわからない部分が多い。
お仕着せにこう言うのが良いって言っても、それは、本当のこの子じゃ無いもんなぁ。それに、それで満足しちゃうかもしれないし……
遥子としては、ミニ遥子になってほしくないと思っているのだ。どうせ、バイクに乗るんだったら、自由に好きな様に乗ってもらいたいのだ。それに、その方が楽しいと思っていた。
そういう所は、オヤジさんの影響なのか、後藤オートの面々は、個を大事にしている。決して無理に押し付けない。全て、本人の判断を大切にするのだ。
だからこそ、希に自分の個性に気が付いて、希に似合う物を着て貰いたいという、半ば、お姉さん的な思いになっていたのだ。
それだけに、どうすれば希の個性を引き出せるのか遥子は悩んでいた。しかし、そこは遥子である。わからなかったら、本人に好みを直接聞けば良いと思っていた。そこで、答えが見つからなくても、一緒に考えれば良い。
遥子たちは、個を大切にしているからこそ、どこか他人に対して冷たく見られがちなのだが、実のところ、そのまま突き放すほど、無責任では無いのだ。それは、オヤジさんも裕介も康二も同じである。
結局は後藤オートファミリーの面々はお人好しなのだ。
「で、希ちゃんはどういうのが好みなの?」
遥子は希に聞いた。希は考えながら答えた。
「それが、どういう格好をすれば良いのか、わからないんです。何となく、動きやすくて、汚れても良いと思ってこういう格好でバイクに乗っているんですけど……そもそもバイクに乗ってオシャレなんて考えてもいなかったですし……」
「そっかぁ。それはそれで間違いじゃ無いんだけどねぇ。けど、それじゃ女の子としては、少し寂しいよねぇ」
遥子は言った。バイクに乗ってもオシャレをしたい!女の子としては当たり前の感情だからだ。
「いえ、別に私はどう見られても気にしないんです。そもそも、バイクのファッションなんて考えてもいなかったぐらいですから……バイクに対しても、どこか他人事っていうか、バイクと普段の私とは別みたいなところがあって……だけど、みなさんと出会って、みなさん本当にバイクと自然に付き合っていて、バイクがすごく身近にあって、バイクが生活の一部になってて……さっきの自慢のバイクって話じゃ無いんですけど、私もそうなりたいなって、私もバイクを楽しみたいなって思って……うまくいえないですけど、他人事じゃなくて、バイクも含めて私なんだって言いたくって……」
そうか、この子は自分で何かを見つけようとしてるんだ……自分を見つけようとしてるんだ……
遥子は希の話を聞いてそう思った。
「それに……」
「それに?」
希は一呼吸置いて話し始めた。
「それに……康二さんってベテランライダーさんで、かっこいいじゃ無いですか?この前もめちゃくちゃ目立ってたし……私みたいなバイク初心者ですみたいなのが一緒にいたら、申し訳ないなって……」
希は自虐的に笑った。
やっぱり似てるわ……
遥子は、そう思って希に言った。
「康二クンは、そんな事気にしないけどねぇ。周りに無頓着だから……だから康二クンなのよねぇ」
本当は、自分が何かを言う事で、相手を傷つけたく無いのよねぇ……
遥子はそう思いながら言った。
「何ですか?それ?」
希は笑いながら言った。
「え?朴念仁って事」
遥子も笑って答えた。
「ひど〜い。康二さんは優しいですよ?バイクの運転も上手だし」
灯が言った。
「そう!この前、康二さんの後ろに乗って、本当に上手だなって思いました。全く怖くなかった」
希も灯に同調した。
康二クン、何だか知らないけどモテてるみたいだよ?
遥子は意外な展開に驚いていた。
「へっくしょん」
ガールズトークに花が咲いている頃、当の康二は、江ノ島の駐車場で、一際大きなくしゃみをしていた……
「初めて康二クンと走った時のお話ししてあげたら?」
遥子は、灯に言った。
「え〜、恥ずかしいから良いですよ〜私の黒歴史」
「え?聞きたい聞きたい!」
希は興味津々になって聞いた。
「え〜、私も若かったなぁって話ですぅ」
「何言ってんの?今でも充分若いでしょうに……それとも、私への当てつけ?」
遥子は、少々、凄んで灯に言った。
「いやいや、そんなつもりはありませんよ、姉御!」
「姉御って何じゃそりゃ!良いじゃん、話してあげなよ。それとも私から話す?」
遥子は笑いながら言った。
「おなしゃす!姉御!」
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