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雨のち曇りそして晴れ  作者: 冬馬
第三話

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第三話ーー晴れーー09

 「ハッキリ言って、良くも悪くも普通!!」


 遥子はキッパリと言った。


 「普通……ですか……」


 希は少しショックを受けていた。


 もちろん、今日は気合を入れてオシャレをして来たわけじゃないし、街中をこの格好で歩くわけじゃないから、何を言われても別にどうってことは無い。ましてや、ただでさえ汚れるバイクに乗るのだ、機能的で、汚れても良い格好になるのも当たり前の話だ。

 しかし、そこは若い女の子である。オシャレじゃないにしても、それなりにまとめて来たつもりではあった。それだけに、普通と言われた事がショックだったのだ。


 普通かぁ……て事は、センスが無いって事だよね……


 正にその通りとも言える。


 どんなにハイブランドの物で固めたところで、まとまりが無ければ、品が無くなりオシャレとは言えない。逆にリーズナブルな品物で固めても、しっかりとまとめられていれば、品が良くオシャレに見える。

 例えば、同じ物を遥子が着たら、カッコよく見えるだろう。それは、着こなし方や、サイズの選び方や雰囲気も含めて、やはり、それなりに歳をとっている遥子の方が経験がある分、見せる着こなし方を知っているからだと言える。


 しかし、そもそも遥子は、今日希が来ているような物を選ぶことも無いのだが……


 「悪くは無いんだよね、ほんと。確かにツーリングの時の女の子って、希ちゃんの様なカッコの子いっぱいいるけど、私だったら着ないかなぁ」


 遥子は、そう言いながら、一枚の写真を希に見せた。


 「カッコいい……」


 それは、遥子がツーリングに行った時の写真だった。シンプルながら、品良くまとめられている。


 「この時は、薄手のシングルジャケットで、中はシンプルな白Tシャツ。パンツはタイトなスリムのデニムで、女の子らしく先が尖ったポインテッドトゥ。康二クンが好きなワークブーツも履くけど、少しゴツいのよね。そう言う時は、ジャケットもゴツ目にするんだけどさ。あとね、ウエストバッグは便利だけど、やぼったくなるのが嫌だから、私はレッグバッグ。色は、シンプルに単色でまとめてるの。グローブも、ベーシックな黒だったり、ベージュだったり、バイクに合わせた赤だったり、その時の気分で使い分けてるし、ジャケットも同じ。私、あんまり色を使うの好きじゃ無いんだよね。別にレーサーの皮つなぎじゃ無いんだしさ。シンプルに品良くまとめるのが好き」


 「なるほど〜、けど遥子さん、スタイル良いから何を着ても似合いますよ。私だったら、こんなタイトなパンツ履けない」


 希は写真を見ながら言った。


 「そんな事ないよ。希ちゃんは若いし全然大丈夫。やっぱり若さには敵わないもん。だからと言って、自分の体型を誤魔化すのを着るのは嫌なのよねぇ。なんか負けたみたいで」


 遥子は笑いながら言った。


 「そんな、そんな、まだまだ遥子さんイケてますよ」


 「ほんと?素直に褒め言葉として受け取っておくわ。希ちゃんは、まだまだ若いんだからね。バイクに乗るのもオシャレしようよ。その方が楽しいし」


 「はい!たくさん教えて下さい」


 希は元気よく答えた。


 「そうは言ってもねぇ。いろんな人の意見を聞いて、自分のスタイルを見つけるのが良いとは思うんだけど、周りはむさ苦しい男ばっかだしねぇ。灯ちゃんは、ちょっと違うしなぁ」


 「なんか、私の事話してますぅ?」


 灯がそう言いながら店に入ってきた。


 「いや、違うよ。灯ちゃんは個性的だなって話」


 「え〜、私は普通だと思うけどなぁ」


 灯は個性的と言われて、少々不満な様子だった。


 「いやぁ、普通は制服のミニスカで、バイク乗らないでしょ。パンツ丸見えじゃん」


 遥子は、そう言って笑った。


 「見せパンだから良いんですよー。それに寒い時はジャージ履くし。で、何の話してるんですか?」


 「ツーリングの時に、どう言う格好したら良いかって話。灯ちゃんだったらどうする?」


 「私ですかぁ……」


 希は考え込んでしまった。


 「そもそも、あんまりツーリング行かないしなぁ。行くとしても近場だったら、ちょっとラフな普段着だし、遠目だったら、めんどくさいから皮つなぎ着ちゃう」


 遥子は、小さくため息をついた。


 「だろうと思ったよ。聞いた私が悪かった」


 「あ〜なんかひどい事言ってる〜」


 灯は、少し膨れて言った。


 「でもさぁ、好きな物を着れば良いんじゃないんですかぁ?悩む事ある?」


 灯は、当たり前のように言った。


 「そうなのよ。私も基本はそれで良いと思うの。でも、この子みたいにスカートでってわけにはいかないし、ヒラヒラしてるのを着てたら危ないしねぇ」


 「なんか、また酷い事を言われた気がするぅ……」


 灯は、そう言ってまた膨れた。


 「別にツーリングだからって、特別な物を着る必要ないと思うけどなぁ」


 灯はそう言いながら、エプロンを付け始めた。


 「そうなんだけどねぇ。何があるかわかんないでしょ?転ぶかもしれないし、事故に遭うかもしれないし」


 遥子は、多少、灯に嗜めるように言った。


 灯は、まだ高校生で若い分、そういう事に関しては無頓着な所もある。それに、レース活動をしているせいか、危険という物の感覚が多少、普通の人とは違う所もあるのだ。

 実は、灯の父親が灯を修行に出したのも、そう言った物を教えようとする思いからでもあったのだ。一流のレーサーであればあるほど、一般道の怖さをよく知っているものだ。


 サーキットでは、皆、しっかりとしたルールの下、一つの目的を持って走っている。だから、他のレーサーの行動の予測も付くし、信頼もしているからこそのレースなのである。

 しかし、一般道では、皆目的が違う。歩行者もいれば、自転車もいるし、物流のトラックもいる。急に、車線変更をして客を捕まえるタクシーもいる。排気量も違えば、形も違う。言ってみればカオスな状態なのだ。もちろん、法律やルールもあるが、残念な事にそう言った物を平気で破る輩もいる。


 こう言った中で、安全に楽しくツーリングをする為には、最低限自分の身を守る事を考えなければならない。

 教習所で、長袖、長ズボン、それにグローブが必須なのは、極力、肌の露出を防ぐ為、転んだ時の怪我の防止の為、自分の身を守る為なのだ。それは、そのまま一般道でも当てはまる。

 肌を露出したまま転ぶと、それこそ、一生物の傷が残るかもしれない。なんせ、転んだ時のアスファルトは、ヤスリと変わらないからだ。ヤスリで、肌を抉られる訳だから、どういう事になるか想像も着くであろう。


 とは言っても、そう言った事を心配するあまりに、機能や安全性にばかり振った物を身に付けるとなると、それはそれで違うとも言えるだろう。そう言ったものに縛られるのを嫌がる者もいる。人それぞれ、考え方やバイクに対する向き合い方もある。


 しかし、どんなに気をつけていても、事故は起こるし、人は簡単に死んでしまうのだ……


 これは、残念ながら厳然たる事実なのだ……


 灯は、そういう事を知らない。経験した事も無い。それを灯の父親は教えたいのだ。怖さを教えたいのだ。もちろん、灯もそういう事は理解している。何せ、毎日のように、あのオヤジさんから怒られているのだから。

 そうは言っても、若さゆえの自信なのか、灯の性格なのか、いくらオヤジさんに怒られても動じている様子は見えない。それでも、ここに来るようになる以前に比べると、だいぶマシになったようだが……


 実は、灯自身、レースでも何でも、バイクに乗る時は「必ず、無事に帰る」と心に決めている。これは、最低限の自分に課したルールだ。しかし、灯はこの事を決して人にいう事は無い。照れくさいのかもしれないが、こう言うところが実に灯らしい。


 何にしても、安全性とファッションの両立と言うのは、多くの女性バイク乗りには悩ましい事だろう。ましてや、増えてきたとはいえ、絶対的に女性の数が少ないバイク界隈……女性バイク乗りは、ただでさえ目立つ。女性というだけで、特別視される事もある。それが嫌で男性に女性を意識させない格好になる女性も多くいる。その中で、自分の個性を出し、人に見られても不愉快にさせないファッションと言うのは難しいと言える。

次回の更新は13日となります。

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