第三話ーー晴れーー08
「なんて言ったの?アイツ」
「自分のバイクを、俺の自慢って」
「ああ、なるほどね〜」
遥子は、納得した顔で言った。
「多分、この手のバイク界隈はみんな言うと思うよ。クセが強いから、自己主張激しいんだよ」
そう言うと、遥子は笑った。
「でも、ほんと、よく似合ってますよね、遥子さんも裕介さんも。自慢って言うのがわかる気がします。なんて言うんだろ?バイクの個性がそのまんま、人の個性と繋がってるっていうか……」
「そう?そう言ってもらうと嬉しいな。この子と長い付き合いだしね。この子といるのが当たり前だからさ」
遥子は嬉しそうに言った。
「私もそうなれますかね?」
希は遥子に聞いた。
自分もそうなれたら……何かが変わるかもしれない……
自分に自信が持てると思った。
遥子は、自信無さげに言った希に優しく言った。
「そうなるも何も、私も裕介も康二クンも、ただ好きで乗ってるだけでさ、人に、どう思われるなんて思った事も無いのよ。気がついたら、この子とも付き合いが長くなってるってだけでね。付き合いも長くなれば、この子の事もよくわかるようになるし、まあ、それなりにサマに見えるのかもね」
遥子はそう言いながら、GSX-Rを優しく見て続けた。
「ほんと、不思議なのよねぇ、バイクにしてもクルマにしても、ただの機械なのにさ、大事に手入れをして、長く乗ってると、何て言うのかな、この子もちゃんと答えてくれるのよね。気持ち良く回ってくれて、気持ち良く走ってくれるの。逆に、手入れを怠ると、言う事を聞いてくれなくなったりしてね。ツーリングの途中でぐずったりする事もある。ほんと、人間みたい。機械なのに、自己主張してくるのよ」
希は黙って聞いている。
「人ってさ、出会いもあれば別れもあって、その度に成長していくじゃない?バイクも同じだと思うんだ。それこそ、私達も、いろんなバイクを乗り継いで来たのよ。小さいのから大きいのまでね。その度にバイクからいろんなことを教わって、いろんな理由でお別れをして、また新しい子と出会って、また違う景色を見せてくれてね。乗り継いで来た子達、それぞれに個性があって、みんな思い出になって残ってるの。楽しい思い出も、辛い思い出もみんな残ってるの」
希は少し遥子が寂しそうな顔をしていると思った。
「だから、この子も含めて、そうやって一緒に過ごして来た子達は、みんな私の自慢。私の一部を作ってくれた様なもんだからさ」
遥子は、希に笑顔を向けて言った。
「希ちゃんも、この子とたくさん良い思い出を作れば、堂々とこの子が私の自慢って言えるようになると思うよ」
「はい。そう言えるようになりたいです」
希は元気良く答えた。
「大丈夫、大丈夫。なんせ、私らがいるからね。希ちゃんにしたら、不運かもしれないけどさ」
遥子は、そう言うと少し意地悪な笑顔を希に向けた。
「不運だなんて……そんな事あるわけないじゃ無いですか」
「そう?なんせバイク沼に引き摺り込んだからねぇ。この沼は、なかなか抜け出せないと思うよ〜。後から文句言っても受け付けないから」
そう言うと遥子は、豪快に笑った。
「バイク沼って……でも、バイクの楽しさは、少しづつわかって来たような気がします」
希も笑って答えた。
「ほら、沼にハマりかけてる」
「ほんとですね」
遥子と希は二人で笑い合った。
「さて、お店に戻ろうか。コーヒー飲も!」
「あの……」
希は、おずおずと言った。
「何?」
「チーズケーキもお願いします」
希の意外なお願いに遥子は一瞬驚いていた顔を見せた。希がそんな事を言うとは思ってもいなかったのだ。
大人しい子だと思ってたけど、なかなか面白い子だね。
そう思った遥子は、すぐに笑顔になり、
「良いよ。一緒に食べよ」
「はい!」
二人で店に戻った。
「はい、どうぞ」
遥子が希の前にコーヒーとチーズケーキを置いた。
「ありがとうございます!」
希は嬉ししそうにチーズケーキを一口食べると、
「美味しい〜」
と、本当に美味しそうな顔をして言った。
「本当に美味しそうに食べてくれるよね。お姉さん、嬉しいわ」
遥子は、美味しそうに食べている希を見て、嬉しそうに言った。
「だって、本当に美味しいんですもん。ところで……」
希は、遥子に小さな声で聞いた。
「あの……今日、康二さんは……?」
「康二クン?ああ、大丈夫。今日は来ないよ」
遥子は、希の質問を聞いて笑いながら答えた。希は、遥子の答えを聞いて安心した笑顔を浮かべた。
「なんか、昨日、裕介に焚き付けられてたから、色々と準備があるんじゃ無いかな?」
「準備ですか?」
ヤバっ。ここで喋っちゃうと康二クンの努力が無駄になっちゃう……
遥子は、そう思うと、
「いやいや、何でもないよ。今日は康二クン来ないから、希ちゃんのお願いもちゃんと聞いてあげられるよ」
と誤魔化しながら答えた。
流石に、今度のツーリングの下見なんて言えないもんなぁ。それにしても……
遥子は、康二と希が微笑ましくて仕方が無かった。
この子はこの子で、バイクファッション教えて欲しいなんて……可愛いね。
遥子は、本当にこの二人が可愛く思えた。
少しでも楽しく過ごしてもらいたいと下見までする康二。少しでも相手に可愛いと思ってもらいたいと思って相談に来る希。
ほんとに、不器用で可愛いわ……私にしてみたら、もうずっと前の話だね……
遥子はそう思うと、少し切なくなったが気を取り直して、希に聞いた。
「で、今日着て来たのが、いつもツーリングに行く時の格好ってわけね」
遥子は、希に相談を受けた時に、いつもツーリングに行く格好でおいでと言っておいたのだ。普段、どんな格好でバイクに乗っているのかを知りたかったのだ。
「おかしいですか?」
希は恐る恐る、遥子に聞いた。
「おかしくは無いけど……」
「けど……?」
次回の更新は9日となります。




