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雨のち曇りそして晴れ  作者: 冬馬
第一話

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第一話ーーある雨の日ーー04

 「ふざけんな!!こんなバイク見れるか!!」


 やっぱりダメだったか……


 康二の馴染みのバイクショップ「後藤モータース」のオヤジさんの怒鳴り声が響いた。


 「そんな事言わないでさ。見てあげてよ」


 康二はおやじさんに頭を下げて頼み込んでいた。彼女はいきなり怒鳴られて、びっくりして目に涙を浮かべている。


 「イヤだね!お前が連れて来たんだ。お前が見てやればいいじゃねぇか!」


 「そんな」


 「いいか!俺ぁな、バイクをこんな雑に扱ってる奴なんか見たくもねぇの!それくらいお前も知ってんだろ!ああ気分悪い!」


 そう言いながらオヤジさんは、康二が差し入れに持ってきた缶コーヒーを持って店から出て行ってしまった。


 康二は裕介を恨めしそうに見た。康二は裕介が助け船を出してくれると微かに期待をしていたからだ。しかし、裕介は康二の差し入れの缶コーヒーを呑気に飲んでいる。


 そうだった……この人はこう言う人だった……


 康二は彼女を申し訳なさそうに見た。一生懸命泣き出すのを堪えている。


 カオスだ……


 康二は彼女をここに連れて来たのを後悔していた。しかし、康二には見て見ぬ振りは出来なかったのだ。


 一人雨の中、動かないバイクを前にこの子は何を考えていたのだろう。康二にはあの時、彼女がヘルメットの中で一生懸命涙を堪えているように見えたのだ。あの時の自分と同じように……


 動かなくなったバイクを前にした時の無力感……そう思うと声をかけないわけにはいかなかった。


 裕介は呑気に康二に言った。


 「無理無理、親父がああなったらテコでも動かねぇよ。諦めな。お前が見てやれよ。できるだろ?」


 

ーー少し前ーー



 「こんちわ〜」


 康二は、こじんまりとした、しかし機能的に工具が片付けられている店内に入ってきた。


 「よう!ガスケット届いてるぞ!」


 裕介が明るく答えた。


 「これいつものね」


 康二は、さっきコンビニで買った缶コーヒーを見せた。


 「おう!いつも悪いな」


 奥から親父さんの声が聞こえた。


 良かった……今日は機嫌が良さそうだ……


 なかなか店の奥に入らない康二に裕介が声をかけた。


 「どうした?濡れてるじゃねぇか?風邪引くぞ。早く入ってこいよ」


 康二は恐る恐る言った。


 「それがさ……頼み事があるんだけどさ……」


 「なんだよ?頼み事って?」


 康二は店の外で待っていた女の子を店に招き入れた。店に入ると彼女はちょこんと小さく会釈をした。


 「あのさ、この子のバイクがそこのコンビニでエンジンかからなくなっちゃってさ、多分バッテリーだと思うんだけど……それ以外にもちらほらとありそうなんだよね。良かったら見てあげてくれないかな?」


 「どれどれ?」


 オヤジさんが店の外に置いてあるバイクを見に行った。


 裕介は康二から缶コーヒーが入っているコンビニ袋を受け取り、ゴソゴソと物色を始めた。


 「さすが、康二だね。よく分かってる」


 裕介はお気に入りの缶コーヒーを手に取って康二に言った。


 「うん……」


 康二の浮かない顔を見て雄介が聞いた。


 「どした?」


 康二は彼女のバイクを見に行ったオヤジさんの事が気がかりで仕方が無かったのだ。


 「うん、ちょっと心配なんだよね……」


 康二がそう言うとすぐにオヤジさんが店に入ってきた。明らかに機嫌が悪くなっている。


 ヤバい……


 「あのバイク、お嬢ちゃんのか?」


 オヤジさんはぶっきらぼうに彼女に聞いた。


 「は、はい。そうです……」


 「どれくらい乗ってないんだ?」


 彼女はオヤジさんの迫力に押されて、しどろもどろになって答えた。


 「あ、あの半年くらい……」


 「半年だぁ?」


 康二は焦り始めた。


 「あ、あのさ、これには、あのわけがあってさ……」


 康二がいくらオヤジさんを宥めようとしても、もう聞かなかった。それより、オヤジさんの怒りが沸々と湧いてくるのがわかる。


 もうだめだ、スイッチ入った……


 「ふざけんな!こんなバイク見れるか!」


 オヤジさんの怒りが完全に爆発した。


 「そんなこと言わないでさ。見てあげてよ。雨の中エンジンかからなくてさ。可哀想じゃん」


 康二は無理だと分かってはいても、何とかオヤジさんを宥めようとしたが、オヤジさんの怒りは収まらない。


 「そんな事知るか!こんなバイクに乗ってたらエンジンかからなくなるのも当たり前だ!」


 彼女は、目に涙を浮かべている。


 「康二!お前もお人好しだな!こんなバイク放っておきゃ良いのによ」


 ヤバい飛び火してきた。


 康二は裕介を見て助けを求めた。そんな康二の思いを知ってか知らずか、裕介はのんびりと缶コーヒーを飲んでいる。


 そうだった……この人はこう言う人だった……


 何とか、この場を収めないと、彼女は今にも泣き出してしまいそうだった。


 「雨の中、見過ごすなんて出来ないよ。それに女の子だし」


 「そうか、ならお前が見てやれば良いじゃねぇか!」


 「そんな……オヤジさんが見てあげてよ」


 「イヤだね!お前が連れて来たんだ。お前が見てやればいいじゃねぇか!」


 オヤジさんは康二が持ってきた差し入れの缶コーヒーから自分のお気に入りを見つけて、手に取りながら言った。


 「いいか!俺ぁな、バイクをこんな雑に扱ってる奴なんか見たくもねぇの!それくらいお前も知ってんだろ!ああ気分悪い!」


 そう言いながら、オヤジさんは店を出て行ってしまった。


 「まいったなぁ……」


 康二は恨めしそうに裕介を見た。裕介は店の奥に行ってしまった。


 彼女は涙が今にも溢れ出てきそうだった。その姿を見て、


 逆に悪いことしちゃったなぁ……


 康二はこの店に連れてきた事をひどく後悔していた。半分こうなる事は分かっていたのに……


次回の更新は、26日になります。

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