第三話ーー晴れーー03
「なんだよ、焦ったいな。早く送れよ」
店の奥で康二の様子を覗いている裕介が呟いた。
「しょうがないよ、康二クンだもん」
同じように並んで隣で覗いていた遥子が裕介に答えた。
「そうだな、康二だもんな」
そのまた隣で並んで覗いていたオヤジさんが呟いた。
「聞こえてるよ!!!」
康二は、スマホを見ながら店の奥に大きな声で怒鳴りつけた。
「おっと、仕事しないとな、あのパーツどこにしまったっけな」
「コーヒーでも淹れてこようっと」
「新聞、新聞」
全く、相変わらず下手な誤魔化し方だよ……
康二は、そう思って呆れながらも、どこか嬉しげだった。
「さてと、返信しなきゃ」
康二は、スマホを操作し始めた。
ピロン
希のスマホにLINEの着信音が鳴った。
「返事来た!」
康二から返事が来た希は、どこか嬉しそうだった。希は早速LINEを開いた。
〈どこか行きたい所はありますか?〉
行きたい所かぁ。
希は少し考え、返事を打ち始めた。
ピロン
康二のスマホにLINEの着信音が鳴った。
はやっ!
筆無精の康二は、返信の早さに驚いたのだ。
康二は、希からの返信を見た。
〈海が良いです。いつも、峠とか山の方ばかりだったので、バイクで海に行ってみたいです!〉
海かぁ……どこの海が良いかなぁ。
「コーヒー持って来たよー」
康二がどこに行くかを考えていると、遥子がコーヒーを持って入ってきた。遥子は、スマホを持って考え込んでいる康二を見て言った。
「どしたの?行く場所、まだ悩んでんの?希ちゃん、どこ行きたいって?」
「うん、海に行きたいって。いつも山ばっかりだからって」
「海かぁ。江ノ島なんか良いんじゃない?そんなに遠くないし、見る所もいっぱいあるしさ」
「江ノ島かぁ」
正直、江ノ島から鎌倉にかけての海沿いの国道134号線は、康二にとってはあまり面白いコースとは言えなかった。週末ともなれば、渋滞で思うように走れないし、観光地だから人も多い。人が苦手な康二にとっては、極力避けたいと思うコースだったのだ。
「また、マニアックな所考えてない?」
遥子は、そんな康二を見透かしたように言った。
「えっ?そんな事ないよ」
康二は、図星を突かれたので焦って答えた。
遥子は持ってきたコーヒーを置いて、呆れたように言った。
「あのね、康二クン、ちゃんと相手のこと考えないとダメだよ」
「もちろん考えてるよ」
康二は、子供のように答えた。
「いいや、考えてないよ。どうせ、渋滞だし、混んでるし、面白くないって思ってるでしょ?」
図星だった……
「あのね、それは康二クンの理屈で、そこには希ちゃんは居ないの。わかる?」
「そんな事言ってもさ、どうせなら楽しい所の方が良いじゃん」
「わかってないね。希ちゃんは、まだそんなにバイクの経験が無いんでしょ?自分のバイクをあんな風に放置しちゃうくらいだから、まだバイクの楽しさを知らないわけでしょ?自分から進んでバイクでどこか行こうなんて思った事も無い子でしょ?」
「…………」
「そんな子がね、康二クンと出会って、真面目にバイクの事を考えて、これからも乗って行こうって決めたんだよ?康二クンは、バイクの楽しさや怖さを教えてあげる義務があると思うよ」
康二は、黙って聞いているしか無かった。
「そんな経験も、バイクの楽しさも知らない子に、康二クンの考えるマニアックな所に連れて行っても、厳しいんじゃない?どうせ、康二クンが考えてるのは、渋滞も無くって、人混みも無い、ちょっと外した所でしょ?」
これも図星だった……
「それじゃ、女の子には楽しくないよ。それに、そう言う所は、それなりに距離もあるじゃん。高速に乗って行くの?希ちゃんETC付けてる?」
「いや、無かった……」
「それじゃ尚更だね。バイクで高速に乗るのは、慣れていないと怖いよ」
確かにバイク乗りにとって、ETCが無い時代の高速道路は、よっぽどの長距離では無い限り、好んで乗ろうとは思わなかった。何よりも料金所が煩わしい。車と違って、両手で操作するバイクは、料金を払うだけで一苦労だった。実はETCが出て、一番喜んだのはバイク乗りでは無いかと言うくらい、ETCのおかげで、高速道路が身近に感じるようになったものだった。ましてや、希は学生である。クレジットカードであるETCカードを持っているのかもわからない。
それに、希が高速道路に慣れているとも思えない。バイクにとって高速道路は便利な反面、常に高速走行を続けるので、体力の消耗も激しい。高速走行の車の流れに合わせるだけで、気力、体力とも失われる。慣れていない者にとっては、怖いだけで楽しいと思えないかもしれない。
「康二クンはさ、人に気遣いも出来るし、良い奴なんだけど、こう言うところが決定的にかけてるんだよね」
「…………」
康二は言い返せない。
「希ちゃんは、言ってみれば初心者で女の子なの。初めて、知り合ったばかりの、それも男の人と行くのに不安がないわけじゃ無いでしょ?それなのに、いきなり高速道路乗せて、遠い所に連れて行かれたら、どう思う?気を使うわ、怖いわで、もう行きたくなくなるかもね」
「そっか……」
「私なんて、それはもう酷い目に遭ったわよ」
遥子がそう言うと、
「コーヒー頂戴」
そこに裕介がのこのことコーヒーを貰いに来た。遥子は、冷たい視線を裕介に向けると、
「コイツらのおかげでね」
「ん?何?何?なんの話?」
コーヒーを啜りながら、裕介は呑気に言った。
次回の更新は23日となります。




