第三話ーー晴れーー01
晴れ渡った青空の中、康二は、待ち合わせ場所のコンビニで、缶コーヒーを飲みながら希の到着を待っていた。
早く着きすぎちゃったかな……
待ち合わせの時間は、朝8:30。今の時刻は7:30……この時間に自宅を出ても十分に間に合う時間である……
遅刻するより良いよな……
康二は、待ちきれなくて、いてもたってもいられずに、こんなに早く着いてしまった事を誤魔化すように、そう自分に言い聞かせた。
高校生じゃないんだし……落ち着いた大人の所を見せないとな……
そう思ってはみても、もう既に遠足の前の小学生と同じである。期待と不安が入り混じった複雑な心境であった。
それに、今日はデートってわけじゃないし……
そもそも、なぜ、休日のこんな早い時間から希と待ち合わせをしているのかというと、実は、今日は、初めて希とツーリングの約束をした日だったのだ。
このツーリングも、実は裕介の無責任な一言から始まった。
康二はいつもの様に、会社帰りに後藤オートに立ち寄り、裕介やオヤジさんとたわいも無い話をしていたら、不意に裕介がこんな事を言い出した。
「希ちゃんもバイクに乗り続ける事を決めた事だし、康二も、整備した自分のバイクの試運転がてら、二人でツーリングでも行ってくれば?」
「えっ?」
「この前、連絡先交換しただろ?LINEしてみたら?」
裕介は、軽く言った。
「…………」
康二はバツの悪そうな顔をして黙ってしまった。裕介にとっては簡単な事でも康二にとっては、とてつもなくハードルの高い事だった。
「どうした?」
裕介は、康二に聞いた。
「うん……」
康二は、歯切れが悪い。裕介は何かを察した様に言った。
「まさか……」
「なんだよ……」
裕介はニヤリと笑い、
「お前、もしかして……」
「なんだよ!」
康二は、裕介が何を言いたいのかわかっていた。
「お前、連絡先交換したのに、まだ連絡とってねぇの?」
「……うん……」
康二は、小さな声で答えた。
「一度も?」
裕介は半ば呆れて言った。
「うん……」
これは、イジられるパターンだ……
そう思っている康二に、裕介は、呆れ果てたように言った。
「お前、それは相手に失礼ってもんだろ」
「なんで、失礼なんだよ?そんなのわかんないじゃん」
康二は、精一杯言い返した。しかし、裕介に勝てるわけもなく、
「失礼だよ。希ちゃん、お前からの連絡待ってるかも知れねぇだろ?男から連絡を取るのはマナーだ!」
自信満々に裕介は言った。
「俺は、裕介さんみたいに女の子と簡単に仲良くなれねぇの!」
康二は、悔し紛れに反論をしたが、裕介にとっては、そんなものは反論でもなんでも無かった。
「バカだねぇ。だから康二だって言われんだよ」
裕介は、訳のわからない事を言っている。
「なんだよ、それ!意味わかんないよ」
「いい歳こいて、浮いた話一つ無いって事だよ!」
康二は、言い返す事が出来なかった。裕介の言っている事が図星だったからだ。
「何、揉めてんの?」
遥子が店に入ってきた。この時間に3人が集まるのはいつもの事だ、半ば日課になっている。
「いや、康二があれ以来、希ちゃんと連絡とってねぇって言うからさ」
「そんな事、遥子さんに言わなくてもいいじゃん」
康二は、裕介に抗議をしたが、裕介はそんな事などお構いなしに続けた。
「ありえなくね?せっかく連絡先交換したんだから、男から連絡するのがマナーだろ?」
裕介は、自分が言っている事が当然だと言うように遥子に同意を求めた。
遥子は、呆れて言った。
「全くくだらない……本当に男って奴は……いつまでも子供なんだから……」
「これは、大事な事だぞ?このまま放って置いたら、二度と連絡来なくなるかも知れねんだぞ?鉄は早いうちに打ったほうがいいんだよ」
裕介が言った。
裕介がここまで言うのは、ただ康二を揶揄いたいだけでは無いのは、康二も本心では理解している。人との付き合いが苦手な康二の事を思って言っているのだ。幾分おせっかいではあるのだが……本当の弟の様に思っている裕介にとっては、康二の事を思っているからこそ、当たり前の事なのだ。
それは、遥子にとっても同じであった。「あの時」から人と距離を取っている康二の事を、いつも心配していた。表面的には、人と親しく接する事が出来ても、心の奥底では人と常に距離を取っている康二だから、女性と付き合っても長続きはしない。そのくせ、相手を気遣う余りに自分だけが傷ついてしまう……その姿を見る度に、いつももどかしくも思っていた。
実は、裕介も遥子も希に対して、ある種の期待とも言える感情を持っていた。
ひどく真面目で実直な性格で、しかしどこかで人との付き合い方が上手いとは言えない不器用な性格……まるで康二のような……二人が似ているからこそ、付き合う付き合わないは別として、康二を変えてくれるのでは無いかと思っていたのだ。
「まあ、こう言うところが康二クンなんだけどねぇ」
遥子は呆れ気味に言った。
「遥子さんまで言う?」
康二は膨れて言った。
「それが、良いところでもあるんだけどさ、だけど、それじゃダメな時もあると思うよ?」
「だよな?」
裕介が、遥子も同調してくれたので嬉しそうに言った。
「お前は、下心だけだろ!」
遥子はピシャリと裕介にツッコミを入れた。裕介は、少し落ち込んだ素振りを見せた。
「やっぱりさ、女の子から連絡を取るって、結構勇気がいると思うよ?いくら希ちゃんが若くって今時の子だとしてもさ。康二クンは年上の社会人な訳だし、どうしても気を使っちゃうんじゃ無いかな?」
「そりゃそうかも知れないけど……何を話していいかわからないし……」
遥子は笑って言った。
「別にそんなの何でもいいじゃん。バイクの調子はどう?とかさ」
「でも、僕は希ちゃんよりかなり年上だし……迷惑じゃ無いかな?」
本当にこの子は……
遥子は呆れていた。
「別に下心ある訳じゃ無いから、そんなのはどうでも良いの!それとも裕介と同じように下心あるの?」
康二は焦って首を振った。
「いや、そんなのある訳ないじゃん」
「それはそれで良い歳をした男としては問題あると思うけど、それが康二クンだしなぁ。ま、良いじゃん軽い気持ちでLINEでもしてみれば。話はそこからだよ」
「うん……」
康二は、スマホを取り出して、LINEを打とうとしたが、固まってしまった。
「どした?」
興味津々の裕介が康二に聞いた。
「なんて打てばいいのかわかんない……」
「中学生かよ!!」
二人からの強烈なツッコミが康二に飛んだ。
次回の更新は16日となります。




