第二話ーー曇りのち晴れーー22
「嬢ちゃん……」
オヤジさんが希に話しかけた。
「はい……」
「バイクなんてのは、そんなに肩肘張って乗るもんじゃ無いんだ。自分の好きなように楽しめば良い……大きかろうが、小さかろうが、スクーターだろうが、アメリカンだろうが、自分が好きな物を、自分の好きなように楽しめば良いんだ。ただ、最低限のルールは守らなきゃいかんがな……周りの奴らを悲しませたくは無いだろ?」
オヤジさんは優しく希に言った。
「はい!」
希は明るく答えた。希の明るい返事を聞いて、オヤジさんは、満足げな笑顔を浮かべ
「それがわかれば良い。今度の差し入れはUCCで頼むな」
「はい!」
裕介は、希のバイクを持って来て言った。
「もう、バイク整備終わってるよ。どうする?」
「えっ?もう出来ているんですか?」
希は驚いて聞いた。たった一日で出来るなんて思ってもいなかった。希にとっては嬉しいサプライズだった。
「うん、昨日、康二と親父が遅くまで大体のところやってたから、俺は仕上げだけ、二人にお使い頼んでる間にやっておいた」
裕介はサラッと軽く言った。
「お使いじゃねぇだろ!お前の悪巧みだろ!」
遥子のツッコミが飛んだ。裕介は陽子のツッコミを流して、
「で、どうする?今日乗って帰る?」
「良いんですか?」
希は嬉しそうに言った。なんだか、バイクに乗りたくて仕方がなかったのだ。それに、オヤジさん、裕介、康二が一生懸命整備をしてくれて、新車のようにピカピカに磨き上げられた自分の愛車を見て、愛おしくて仕方がなかった。
裕介は笑って言った。
「良いも何も、希ちゃんのバイクだよ?」
「ありがとうございます」
そう言うと、希は頭を下げた。
「俺にじゃ無いな、康二と親父に言ってあげて。昨日遅くまでやってたから」
「康二さん、おじさん、ありがとうございます」
「え?、別に大したことしてないよ。どこかが壊れてたわけじゃないしさ」
康二は、照れながら言った。オヤジさんは奥で照れながら、缶コーヒーを飲んでいた。
「照れてる、照れてる。おじさん、ああ見えて可愛いんだからなぁ」
灯がオヤジさんを揶揄って言った。
裕介が小声で希に言った。
「親父ね、昨日、あんな事言ったけど、本当は気にしてたんだよ。面倒見ねぇなんて言ってたのにさ。希ちゃんが帰ってから、康二と二人でああだこうだやってんの」
「うるせぇ!」
奥から、オヤジさんの照れ隠しの怒鳴り声が聞こえた。
「怒られちまった、ま、そんな事だから、整備の方は保証付きだからさ」
裕介は笑いながら言った。
「はい!ありがとうございます。大事に……大事に乗ります!!」
希は、満面の笑みで言った。
「うん、喜んでくれて良かった」
康二は嬉しそうに言った。
「康二クンは優しいからねぇ」
遥子が、康二を冷やかすように言った。
「ホント!康二さん優しいからさぁ、私にしたら、心配なんよぉ。他の女の子に取られちゃうと思うとさぁ」
灯は、半ば本気で言った。
「ちょ、何言ってんの灯ちゃん」
康二は、焦って灯に言った。
「だって、灯の気持ち知ってるくせにさぁ」
灯はそう言うと、不貞腐れた顔をしてみせた。
「いや、いや、何言ってんの?そんな、おじさんからかっても何も出ないよ」
康二は、顔を真っ赤にして否定している。
「そん事ないよねぇ、希ちゃん」
灯は、いきなり希に話を振った。
「そ、そうですよ。康二さんは優しくて良い人です」
不意を突かれた希は、焦って言った。
「いやいや、待ってよ希ちゃんまで……困ったな」
康二は、顔を赤くして困惑するしかなかった。
「なんか、康二の奴、やけにモテてね?」
裕介はやぶに悔しそうに言った。やぶは、悠介の肩を叩きながら、
「今度、うちのナースと合コン組むからさ、ね」
と裕介を慰めていると、
「だから、やぶ!そう言うところだってのぉ!」
また、やぶは灯に怒られた。
「一応、返しとくね、キー」
裕介は、希にキーを手渡した。希は、キーを受け取ると、
「あっ、そうだ」
今日、康二からプレゼントしてもらったてるぼうを取り出し、キーに取り付けた。
「おっ!てるぼうだね」
裕介が笑顔で言うと、
「はい!今日、見つけて可愛いかったので」
希が嬉しそうに言った。
「ふーん、自分で買ったの?」
遥子が意味ありげに希に聞いた。
希は、チラリと康二の顔を見ると、康二は、必死に首を振っている。
「はい、自分で買いました」
希は、康二の反応を見て、さらりと嘘をついた。
「ふーん、私はてっきり康二くんからのプレゼントかなぁって思ったんだけど?」
遥子は、そう言うと、康二の顔を見てニヤリと笑った。
ヤバい……遥子さんは、変な所だけエスパー並みに勘が良いからな……上手い事誤魔化さないと……
「な、なんで、僕が、ぷ、ぷれぜんと?」
下手な反応をしたおかげで、全く誤魔化せていなかった。
「ばればれだよ、康二クン」
遥子は笑いながら言った。
「えっ?えっ?なんで?」
康二は、焦って言った。
「女の勘だな」
遥子は、ドヤ顔で言った。希は、顔を真っ赤にしている。
「い、いや、あのさ、昨日の事もあったしさ、あの、そんな深い意味は無くて、あの……」
「良いなぁ。私も康二さんからプレゼント欲しいなぁ」
灯が羨ましそうに言った。
「いや、灯ちゃん、そうじゃ無くて……」
「なんか、ほんとに、康二のやつモテてるぞ」
やぶが羨ましそうに裕介に言った。
「なんか、悔しいな……」
裕介は悔しそうに呟いた。
「でもさ、良かったじゃん」
遥子が希に言った。
「希ちゃんが、自分の意思でバイクに乗り続けるって決めた記念でさ」
「はい!」
希が嬉しそうに言った。
「康二クンにしては、洒落た事したじゃん?希ちゃんがバイクに乗り続ける事、わかってたんでしょ?」
「え?」
遥子さん……まさか……
「女心がわかるようになったじゃん。お姉さんは、弟の成長が見れて嬉しいよ」
遥子は、しきりに感心している。
「う、うん、そ、そうだね……」
康二は、誤魔化した。
「絶対に違うよな……」
「絶対に違うと思う……」
「絶対に違う……」
ドヤ顔で、得意がっている遥子とは裏腹に、みんなの意見が一致していた。
希は、キーに付けたてるぼうを見て思った。
記念かぁ、大事にするね。
笑顔でいっぱいだった。
やっぱり、この子は笑顔が似合う……
康二は、希の笑顔を見て、そう思った。
次回の更新は12日となります。




