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雨のち曇りそして晴れ  作者: 冬馬
第二話

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第二話ーー曇りのち晴れーー18

 康二は、少し考えて、言葉を選びながら話し始めた。


 「バイクってさ……いろんな楽しみ方があると思うんだよね」


 「はい……」


 「早く走りたい人、いろんな所に行くのが楽しい人、それこそ、仕事で使っている人もいるじゃない?ほんと、人それぞれ……」


 「そうですね……」


 康二は続けた。


 「どれが正しいとか、間違っているとかじゃなくて、自分に合ってる楽しみ方を見つければ良いんじゃ無いかなと僕は思うんだ」


 希は康二の話を真剣に聞いている。


 「もちろん、乗り始めるきっかけも人それぞれだけどさ……そもそも、バイクなんて、そんなに構えて乗るもんじゃないよ。ただ、希ちゃんは、一緒に走る人に合わせようとして無理しちゃってたのかもね……」


 「そうかもしれません……」


 希は少し落ち込んでいた。康二の言った事が図星だったからだ。


 「別に希ちゃんを攻めてるんじゃ無くてさ、バイクって最低限のルールさえ守れば、どんな乗り方をしても良いんじゃ無いかなって僕は思うんだ。人にああしろ、こうしろって言われて乗っても楽しく無いじゃん?元々一人で乗る物なのに、人にああだこうだ言われたく無いよね?」


 希は黙って頷いた。


 「僕が思うに、希ちゃんは希ちゃんと一緒に走る人とは、バイクに対するスタンスが合わなかったんじゃ無いかなって……希ちゃんには希ちゃんのバイクとの向き合い方ってあるんじゃ無いかなって思う。もちろん、これからもバイクに乗り続けるならだけどさ……」


 希は黙って俯いていた。


 「バイクに乗るのも、降りるのも人それぞれ、人がとやかく言う事じゃないしね。ただ、自分で選んで乗り続けるなら、それなりの責任は負わなきゃだけどね。ごめん、説教臭かったね。おじさんの悪い癖だ……」


 康二はそう言いながら、頭を掻いた。


 「おじさんだなんて、そんな事ないですよ」


 希は笑いながら言った。


 「康二さんは、なんでバイクに乗ってるんですか?」


 希は康二に聞いた。康二の答えが何かのきっかけになるかもしれないと思ったのだ。


 「何でかなぁ。兄さんの影響は大きいと思うけどね」


 康二は、缶コーヒーを一口飲んで続けた。


 「希ちゃんと同じ、僕も兄さんに憧れてバイクに乗り始めたんだ。初めは、兄さんより早くなりたい、兄さんより上手くなりたいって思ってたけど……」


 康二は、また缶コーヒーを一口飲んで、川の流れを見つめながら言った。


 「兄さんが死んでからかな……バイクとの付き合い方が変わったのは……」


 「あ……ごめんなさい……」


 希は慌てて頭を下げた。


 「何で、謝ってんの?」


 康二は、笑顔で希に聞いた。


 「あの……遥子さんにお兄さんの事を、少し聞いていたので……」


 「遥子さん、そんな事も話してたの?全く、しょうがないな……」


 康二は一息ついて言った。


 「……大丈夫、全然気にしてないよ」


 康二は、笑顔で希に言った。康二は、自分の兄、康一の事を自分から進んで話す事は決してない。しかし、不思議と希には、話しても良いと思えた。


 康二は続けた。


 「兄さんが死んでから、正直、バイクを降りようとも思ったし、実際、しばらく乗れなかったんだ……兄さんは、バイクで転んで死んじゃったから……だけどね、兄さんのバイクを眺めているうちにね、一緒に走りたくなって……それから、また乗り始めた……だからね、僕の愛車は、元は兄さんのバイク……」


 康二は笑いながら言った。しかし、その笑顔はどこか寂しげであった。


 希には「一緒に」と言う言葉が、亡くなった兄に対する物なのか、バイクに対する物なのかはわからなかった。


 多分きっと……


 希は思った。


 同じなんだ……康二さんにとっては、お兄さんの愛車がお兄さんなんだ……


 「……ちょっと、重いね……こんな話つまんないよね……ごめんね……昨日会ったばかりの人に話す話しじゃないよね……この話やめよう」


 希は首を振って言った。


 「いいえ、良かったら話して下さい……」


 希は、康二の気持ちが知りたかった。大切な肉親を亡くした辛さは、赤の他人が想像できる物ではない。その当時の康二の気持ちは、本当に辛い物だっただろう。自分に置き換えて考えたくも無い事だ。しかし、今の康二は、表面的には、乗り越えている様に見える。しかし、それは、希の目からは遥子や裕介にも、康二と同じ様に、どこか、心の奥底に寂しさや後悔を抱えている様に見えた。


 その3人の拠り所が、康一の好きだったバイクなのだとしたら……


 それじゃ……あまりにも……寂しすぎるよ……大好きなバイクに、そんな気持ちで乗っているのだとしたら……そんなの悲しすぎる……


 希はそう思った。だから、康二の気持ちが知りたかった。話す事で少しでも康二の気持ちが楽になれるのなら……と思っていた。


 「うん、わかった……ちょっと重いかもしれないけど、ごめんね……」


 康二は静かに話し始めた。


 「兄さんのバイクは、不思議なんだけど、事故の割には、あまり壊れてなくてね、それにオヤジさんが綺麗に直してくれてたから、いつでも走れる状態になってたんだ……実家に置いておくわけにもいかなくて、オヤジさんが預かってくれていたから、メンテナンスもしっかりされてたし……」


 希は、黙って聞いていた。


 「俺は、事あるごとにオヤジさんの所に行って、兄さんのバイクを眺めてた。遥子さんや裕介さんは辛そうだったけどね……今思うと、二人には悪い事をしたなぁって思ってるんだ。僕が、兄さんのバイクを眺めてるのを二人が見る度に、二人も兄さんを忘れる事が出来ないから……特に遥子さんは辛かったかもな。兄さんの彼女だったし……」

次回の更新は、29日になります。

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