表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
雨のち曇りそして晴れ  作者: 冬馬
第二話

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

28/32

第二話ーー曇りのち晴れーー15

 二人でお互いのてるぼうを買って、店の外に出ると、空は綺麗に晴れ上がっていた。


 「やっぱり晴れると気持ち良いね!」


 康二は希に向かって、笑顔で言った。


 「はい!てるぼうのおかげかな」


 希は笑顔でてるぼうを撫でた。康二は、そんな希の姿を見て、心が暖かくなるのを感じていた。


 「さて、帰ろうか」


 康二が言った。


 「そうですね……」


 希は、何となく、ちょっとした寂しさを感じていた。


 こんなに楽な気分で話せたのは、いつ以来だろう……


 大学の進学の為に、地方から東京に出てきた希は、何となく、都会に馴染めないでいた。元々が、あまり積極的とは言えない性格のせいもあるかもしれない。

 それでも、何人かの親しい友人が出来、それなりに恋愛も経験した。人並みな、それなりの大学生活を送っていた。しかし、希の中では、どうしても拭いきれない違和感を常に感じていたのだ。

 自分を変えようと、何度も努力をした。友達と夜の街へも繰り出し、夜通し遊んだ事もある。好きな人に合わせて、バイクにも乗り始めた。


 だけど……何にも変わらなかったな……


 好きな人とは、相手が卒業をしてから、連絡がなかなか取れなくなった。それと共に、バイクからも遠ざかっていた。自分の気持ちも、わからなくなっていた。


 結局は、私が中途半端なんだ……


 希は、いつしかそう考えるようになっていた。そして、心から笑えなくなっていた。本当の自分を隠すようになってしまっていた。これが大人になる事なんだと思っていた。

 だから、康二や裕介や遥子、そしてオヤジさん達が、自然体のまま接して、見ず知らずの自分を心配して怒ってくれたのが嬉しかった。冗談を言って、笑い合えるのが楽しかった。

 今日、康二と短い間でも二人で過ごした時間は、希にとっては、何もかもが新鮮で楽しい時間だった。自分を飾らなくても、偽らなくても、康二は受け止めてくれた。自分の事を考えてくれた。この時間が希にはすごく心地良かった。だから、この時間が終わってしまう事に、寂しさを感じていたのだ。


 それは、康二も同じだった。


 あの日、大好きだった兄の康一が亡くなった日から、康二は人との関わりを避けるようになった。しかし、オヤジさんや、裕介や遥子が、一人で悲しみから立ち直る事が出来ない康二を救ったのだ。それぞれが、それぞれの康一を失った悲しみを抱えながらも、3人は、傷を舐め合うような、馴れ合いではなく、一人の人間として、康二を暖かく見守り続けた。

 康一の死後、両親との関係が悪化した康二には、どれだけ助けになった事だろう。皆、まるで、家族の様に康二に接してくれた。今でも、人付き合いは上手い方ではないし、好んで人と関わろうともしないところもある。

 

 しかし、希は違った……


 康二も希と同じように、希とは、気を使わずに、裕介や遥子と同じ様に話す事が出来た。希と一緒にいる事が楽しかった。


 「帰る」と言う言葉が、こんなに寂しく切なく感じるのだと、改めて二人は感じていた。


 二人は次第に、言葉が少なくなり、駐輪場の裕介のバイクの元に着いてしまった。二人は、言葉を交わさずにヘルメットを被り、康二は、CBに火を入れた。


 軽く暖機運転をしながら、康二は考え込んでいた。


 どうしようかな……このまま帰るのもな……だけど、歳も離れているし……こんなおっさんに誘われても困っちゃうだろうし……だけど、もっと話していたいし……


 頭の中を切ない思いがぐるぐると回り続ける。


 俺が裕介さんみたいに積極的だったらな……


 その時、康二に男が声を掛けた。やぶだ。康二達の偵察に飽きたこの男は、知り合いのバイク乗りと駐輪場で談笑していたのだ。


 「あれ?もう帰るの?」


 「あれ?まだいたの?」


 希は、軽く頭を下げた。


 やぶは、二人の微妙な空気を読んだ。


 コイツら、高校生かよ!?全くしょうがねぇな。


 「せっかくお日様出たんだから、ちょっと走ってきたら?裕介さんのCBもそこそこ回してやらねぇと。あの人最近乗れてねぇってこぼしてたから。ちょうど良いじゃん」


 「そうだねぇ」


 康二にとっては渡りに船である。希を誘うきっかけが出来た。


 「どう?希ちゃん。少し寄り道しても良いかな?」


 康二は、勇気を振り絞って希に聞いた。


 「はい!」


 希はとびっきりの笑顔で答えた。


 おい、おい、ほんとに30過ぎたおっさんか?


 二人を見ていたやぶは、少し呆れつつも笑顔で言った。


 「多摩川沿いなんか気持ち良いかもな。この季節、川からの風が良い感じだと思うよ」


 「そうだね。うん行ってみるよ」


 「やぶさん、ありがとうございます」


 そう言うと、希はぺこりと頭を下げた。


 二人は、バイクに乗り、やぶに軽く挨拶をすると、駐輪場から出て行った。


 「ほんとに世話焼けんなぁ。ありゃ、裕介さんが面白がるのもわかるわ。おっと、報告、報告」


 そう言うと、スマホを取り出した。


 「だけど……なんであの嬢ちゃん、俺のあだ名知ってんだ?」



 裕介のスマホに、LINEの着信音が鳴った。


 「おっ!?やぶからだ。あいつ、尾行飽きたんじゃねぇのか?」


 そう言いながら、裕介はLINEを開くと、


 「やぶ!Good Job!」


 と笑いながら、遥子にLINEの文面を見せた。


 「あんたらさぁ、まだやってたの?」


 と半ば呆れ顔で言いつつも、


 「けど、やぶちゃん良い仕事してんじゃん。今度コーヒーサービスしちゃお」


 「だろ?」


 そう言いながら、返信を打ち始めた。その姿を見た遥子は、呆れて呟いた。


 「どうでも良いけど、いつまで経っても子供だねぇ。ね、灯ちゃん」


 と、アルバイトの灯に聞くと、


 「そうですかぁ?私は可愛いと思いますよぉ。だけど、康二さんとデートかぁ、良いなぁ」


 そうだった……この子も、こう言う子だった……


 遥子は、頭を抱えた……


次回の更新は、19日になります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ