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雨のち曇りそして晴れ  作者: 冬馬
第二話

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第二話ーー曇りのち晴れーー14 

 「グローブも、夏用と冬用って分けてる。一応、夏でもグローブはするかな。転んだ時に大怪我したく無いから」


 「やっぱり、転んだりします?」


 希は、恐る恐る聞いた。


 「無茶しなかったら転ばないよ。けど、何があるかわからないからね。なるべく肌の露出は少なくした方が良いと思うよ。じゃないと、ほんとに悲惨な目に遭うからね」


 そう言うと康二はニヤリと笑って希を見た。


 「えっ?どうなっちゃうんですか?」


 「転んじゃうとすり傷がひどい。大根おろしで擦ったみたい」


 「えっ!そんなにひどいんですか?」


 希はちょっと引いていた。


 「うん、これが、なかなか消えないんだよね。傷が……」


 「ええ!?」


 希はますます引いていた。


 面白いな、この子。良いリアクションする……こりゃ、あの悪ノリ連中の良いおもちゃになっちゃうかも……


 康二は、希のリアクションを見て楽しくなっていた。


 けど、あんまり脅してもな……


 そう思って、これ以上、希をいじるのをやめる事にした。康二自身、希にはバイクに乗り続けてもらいたいと思っていたので、これ以上脅かしてバイクを降りるきっかけになってしまうのも嫌だった。


 「だからさ、きっと教習所で長袖、長ズボンって教わったと思うんだけど、それってほんとに大切なんだよ」


 「そうですね」


 「とは言ってもさ、真夏はめちゃくちゃ暑いじゃん。ただでさえ、ストーブ抱えて走ってるようなもんなのにさ」


 「ストーブって……」


 希は笑った。


 「みんな薄着なのに、ジャケット着てるのって目立つからさ。真夏は、Tシャツで乗っちゃう事もある。だけどツーリングは違うよ。街中だけね」


 「ですよねぇ。じゃないと熱中症になっちゃいますもんね」


 「でしょ?だけどね、結構、風って体力奪うから、高速道路乗る時は、必ずジャケット着るようにしてる」


 「へぇ。いろいろ考えてるんですねぇ」


 希は感心して言った。


 「考えてるって言っても、そんなに難しいもんじゃ無いし、人によっていろんなスタイルあるしね。ただ、こうじゃなきゃいけないって事は無いよってだけの話。基本さえ守ってれば、人それぞれで良いんじゃない?」


 「そうですね。なんか、お話を聞いていたら気が楽になりました」


 康二は、ライダースの皮ジャンを手に取り、


 「こう言うさ、ダブルのライダースあるでしょ?こう言うところに置いてある物は、皮が分厚くて重いんだ。それに、バイクによっては似合わないでしょ?やぶさんは好きでよく着てるし、やぶさんのバイクには、似合うんだよ。逆に、こう言うシングルのライダースは、シンプルな分、色んなバイクに似合うと思うな。例えば、希ちゃんなら、こう言ったシンプルなジャケットに、スリムなデニムを合わせて、長めの黒いブーツなんか履いたら、カッコいいと思う」


 「似合いますかねぇ。なんかお姉さんぽいかも……」


 「うん、実は、これ遥子さんの好きなスタイル。けどね、希ちゃんも似合うと思う」


 康二は笑って言った。


 「本当ですか?でも遥子さん、おしゃれですね」


 「うん、だから、ファッション系だったら遥子さんに聞いたら良いよ。僕なんかいつも野暮ったいって言われてるもん」


 「ひどいですねぇ」


 希は笑いながら言った。


 「ね、ひどいよね。あの人、遠慮ないからさ。こう見えて、僕でも結構傷付くんだよ?」


 そう言うと、康二は笑いながら歩き始めた。希は、康二の後をついて歩いていたが、ふと、ある物に目が止まった。


 「どうしたの?」


 康二は、希に聞いた。


 「これ、可愛いですね。てるてる坊主」


 「あ、てるぼう?」


 「てるぼうって言うんですか?」


 「うん。これと組み合わせると」


 そう言うと、康二はヘルメットのキーホルダーを手に取り、てるぼうに被せた。


 「ほら、ライダーてるぼう」


 「可愛い!」


 希が嬉しそうに言った。


 「元々は、東日本大震災の復興のために作られたらしいんだけどね。だから幸せのてるぼうって名前」


 「そうなんですね」


 「だけど、こうやってヘルメット付けたら、結構バイク乗りにも流行ってさ、ほら、バイク乗りって雨、嫌でしょ?バイクのキーにつけてる人も結構見るよ。」


 「ゲン担ぎですね」


 希は感心したように言った。


 「そう、そう。ご当地てるぼうも色々あって、面白いよ」


 「へぇ」


 幸せの黄色いてるぼうか……


 希は、しばらく、てるぼうを手に取って見ていた。


 「希ちゃん?」


 「は、はい!」


 不意に呼ばれて、希は少し驚いた。


 「いや、そんな驚かせるつもりは無かったんだけど、てるぼう、そんなに気に入った?」


 「はい、あの……可愛いなって思って……」


 「そっか、じゃプレゼントしようか?」


 康二が不意に言った。


 「えっ?そんな……悪いですよ。いいです、いいです」


 希は、焦って言った。


 「いや、あのさ、昨日嫌な思いさせちゃったしさ、お詫びにね」


 康二は、照れながら言った。


 「そんなお詫びだなんて……それに、昨日の事なんて、私、なんとも思ってないですよ。逆に大切な事を教えてもらったと思っています」


 希は、必死になって言った。どんなに小さな物でも、こんな風に突然のプレゼントなんてもらう事が無かったから、戸惑っているのだ。


 「うん、だけど、こんな事を言い出した大人が、今更引っ込めるのもカッコ悪いから、貰ってくれるかな?」


 この人は、今まで会ったどの人とも違う……本当に人を気遣う優しい人なんだ……


 希は、そう思った。希にとっては、初めてと言える大人の男性、同年代の男の子と違い、気取らずに自然に接してくれる優しさや気遣い、全てが希には嬉しかった。


 「はい……ありがとうございます。大切にしますね」


 希は、満面の笑みで康二に言った。康二は、希の笑顔に照れながら言った。


 「ヘルメット、何色にする?今の自分のヘルメットに合わせる?」


 「私、オレンジ色が好きなんです。明るい気持ちになれるから」


 そう言って、オレンジ色のヘルメットを手に取った。


 確かに、明るい希ちゃんによく似合う……


 康二はそう思った。


 「で、康二さんは、さっき白いヘルメットって言ったから、これです」


 と言って、白いヘルメットも手に取った。


 「へ?僕も?」


 「はい。これは私から康二さんへのお礼です」


 希はそう言って笑った。


 「いや、そんな……いいよ」


 今度は康二が焦る番だった。


 「いえ、それに、これは今日の記念です」


 そう言いながら、希はてるぼうを物色し始めた。


 「私はこの子で、康二さんはこの子、なんとなく康二さんに似てません?」


 と言いながら、康二に、自分が選んだてるぼうを見せた。


 「僕、こんな顔してる?」


 「似てますよ〜」


 そう言いながら、希は嬉しそうに言った。


 「ありがとうございます。大切にします」


 そう言って、てるぼうを優しく手のひらで包んだ。

次回の更新は、15日になります。

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