第二話ーー曇りのち晴れーー11
「改めて、こういう所に来ると面白いですね。おしゃれなウエアも沢山ありますね!」
希は殊更はしゃいでいる様だった。康二は、そんな希を微笑ましく見ていた。
僕も、兄さんに連れてきてもらった時は嬉しかったもんな。
「最近は、女の子向けの可愛いウエアやヘルメットも増えてきたみたいだよ」
「そうなんですねぇ。私、何も知らないで言われるがまま買っちゃいましたから」
興味が無ければ、そんなもんだろうな……
康二はそう思った。
「そうなんだ?だけどね、ここは僕らは魔境とも言ってるよ」
そう言いながら康二は笑った。
「魔境?」
希は目を丸くして聞いた。
「うん、一度足を踏み入れると、色々欲しくなって、帰れなくなっちゃうからね」
「なるほど〜。確かに、欲しい物がありすぎて、バイク好きには堪らないですね」
感心して言った。
「康二さんは、よく来るんですか?」
「うん。細かい物を買いにね。大抵の品物は裕介さんに頼めば手に入るけどさ。ウエア関連とか小物はここで買うよ」
「へぇ。康二さんってヘルメットってどういうのなんですか?」
「ヘルメット?」
康二と希はヘルメット売り場に向かった。
「僕はね、ツーリング用と街乗り、近場用に使い分けてるんだ」
「二つも持っているんですか?」
「うん。やっぱり街乗りだと、フルフェイスはキツイから。そうこれこれ」
康二は、棚からジェットヘルメットを手に取った。手に取ったヘルメットは真っ白で、他に並んでいるカラフルなカラーリングと比べると地味な印象だ。
「僕は、アライが好きで、フルフェイスもジェットもアライなんだ」
康二は、ヘルメットを手に取りながら言った。
「フルフェイスはあれかな」
康二は、棚に並んでいる、同じくアライ製の真っ白なフルフェイスヘルメットを指差した。
「真っ白ですか?」
「買ったのは白だよ」
康二は笑顔で言った。
「やっぱりベテランライダーさんだと、意外と地味なんですね」
希は、多少落胆したように言った。しかし、悪気は全く無かった。単純に希の周りには、同年代のバイク乗りしかいない為、比較的カラフルで派手目なヘルメットを被っているものが多い。だから、こういった、いわゆる渋めのヘルメットを被っている者がいなかったのだ。
希としては、康二はベテランライダーだから、個性的なヘルメットを被っているだろうと期待していた分、多少、拍子が抜けたと言う感覚だったのだ。
「地味かぁ。裕介さんの知り合いに、ペイントしてくれる人がいるから、オリジナルペイントしてもらってるけど……地味かぁ……このヘルメットの王道っていう感じが好きなんだけどなぁ」
康二は、希が言った地味の意味が全くわかっていなかった。と言うより、希は色が地味だと言ったのだが、康二は形が地味だと勘違いしていたのだ。
確かにシンプソンなんかのヘルメットは、個性的で一部には熱狂的なファンもいる。康二は、希みたいな若い世代は、そういった個性的なヘルメットの方が、ウケが良いのかと思ったのだ。
「オリジナルペイントなんですか!?」
希は目を輝かせた。
「うん?そうだよ。ペイントしやすい様に白を選んだんだ。でも、形が地味なのかぁ……」
しかし、康二は、希の興味を引いた部分に全く気が付かず、勘違いしたままわかりやすく落ち込んでいた。
どちらかというと、性格が大人しい康二でも、バイクに乗っている以上は、多少なりとも自己主張したいところもある。
バイク乗りにとって、ヘルメットと言うのは自己主張が出来る数少ないパーツの一つだから、それが地味だと言われた事が、自分が地味だと言われた事の様に感じられ、事の他ショックだったのだ。
普段だったら、別に気にしない様な事なのだが、希に言われた事がショックだったのだ。
「オリジナルペイントなんて凄いですね!先輩もして貰いたいって言ってましたもん」
希が興味津々に康二に言った。
「でも地味じゃなぁ……」
「はい?」
「うん?」
微妙に話が食い違っていた二人だった。
「ちょっと待って。なんか話が噛み合ってない気がするんだけど……」
康二は希に聞いた。
「なんか、そう見たいですねぇ」
希も、なんとなく噛み合ってないなと感じていたようだ。
「ちょっと、整理しようか?希ちゃんは、このヘルメットの何が地味だと思ったの?」
康二は、冷静に希に聞いた。
「私は、ベテランさんは、こう言った一色の地味なヘルメットを被るんだなぁって思ったんです」
「なるほど……僕はてっきり、こう言ったベーシックな形が地味だと言ってるんだと思ったんだ……」
二人は顔を見合わせた。
「なるほど……」
「なるほどですね……」
二人は、妙なところが天然だった……
次回の更新は、05日になります。




